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「不妊治療は女性だけの話じゃない」気にして欲しい『男性不妊の世界』

こんにちは!
性教育認定講師/不妊カウンセラーのきりんです。
(一応、本業は産業保健師です🦒)

今回は、皆様お待ちかね!
(でもないかもしれませんが....)

『男性不妊』のお話です🦒

いつしかのnoteでもお話したかと思いますが、大切な事なので2度言います。

「不妊原因の半分は男性サイドにあります」
はい。
「不妊の原因の半分は男性にあります」

半分。そう。
治療は、女性だけのものではないのです。

もしも、不妊が心配....
と思う方々が、
女性だけに検査を求めるなら、
「男性も同時に検査をすること」
が絶対に必要だと思いませんか?

本日は、そんな『男性不妊の世界』
(マツコの◯◯ではない....)
を一緒に学び、
女性だけの問題にしているMEN’sは今時イケてないわよ!

とお声を大に(お上品にね)してお伝えできるようにしていきたいと思います。

では、参りましょう🦒....


1.不妊のカップルはどのくらいいる?

そもそも、今不妊のカップルはどのくらいいるのでしょうか?

それを知る為の大がかりな調査に、
【出生動向基本調査】があります。

※この調査は、
国内の結婚、出産、子育ての現状と課題
を調べるために、
国立社会保障・人口問題研究所
がほぼ5年ごとに実施している
全国標本調査です。
夫婦の方への調査と、独身の方への調査を同時に実施し、
それぞれの政策的な課題を社会科学的な立場から探ることが主な目的です。
(国立社会保障・人口問題研究所HPより引用)

あぁ。何か聞いたことある....!
程度で大丈夫です!
(本題ではないですしね)

この調査の最新のものは2015年です。
(2020年の実施は、先行する国民生活基礎調査の中止に伴い中止)

今年(2021年)に調査が行われる予定なので、
このnoteもそれに合わせて後程変更します....🦒
(最新の情報をアップデートしなきゃ....✨)

5年毎ですので、データが古いように感じてしまいますが、
先にもお伝えしたように【全国標本調査】なので、
これを基準に色々な政策が決まる重要な調査です。
本日はここを見ながら進めて行きましょう。

さて、本題に戻り、実際の数字を見てみましょう!

[第15回出生動向基本調査(2015年)]より、
日本では、不妊を心配したことがある夫婦は35.0%となり、
これは夫婦全体の約2.9組に1組の割合です。
また、実際に不妊治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦18.2%となり、
これは夫婦全体の約5.5組に1組の割合であることが示されました。
(下記図参照)

要するに、
『不妊の検査や治療を受けたことのあるカップルは5.5組に1組の割合でいる』

かつ、上記の図からも読み取れるように、
増え続けているのです!

では、その中で本日の話題、男性不妊
その割合や内容を少しづつ見て行きましょう。

2.男性側に不妊原因の半分があるって本当?

よく、そう聞きますよね。
でも、実際にどこからそれが言われているのか、ご存知でしょうか?

少し古いデータですが、
皆様も目にしたことのあるでありましょうWHOの調査です。
(画像はSeemラボ様からお借りしております)

上記の図より不妊症の原因は、
女性側にのみ原因があるものが41%、
男性側にのみ原因があるものが24%、
両方に原因があるものが24%、

原因不明が11%と考えられています。
つまり、原因の約50%は男性因子が関わっているのが現状です。

ちなみに、不妊というのは

「健康な夫婦が避妊をしないで夫婦生活を送っているにもかかわらず、1年間妊娠しない状態のこと」(WHOの定義)

ただ、結婚や出産の年齢が高まっている今の日本では、
さらに妊娠しにくい状況になっている可能性が高いと言われています。

一般的に、カップルの5.5組に1組が不妊で悩んでいると言われる時代。
その原因の半分が男性側にあるという事実を、男性にはもっと知って欲しいですね。

若干しつこくなり、申し訳ございません。
今日は、この件を声高に....

不妊を女性の問題と思っている方に、お話しすると同時に、
夫婦で不妊治療に一緒に向き合って頂きたいことも伝わると良いなと思っています。

そして、産業保健職の方にも男性不妊を知って頂き、
男性も不妊治療と仕事の両立が必要になる可能性があること
も知って頂きたいと思います。

3.知ってました?男性生殖機能の基礎知識

ここでは、まず男性の生殖機能の基礎をおさらいしていきます。
※苦手な方は目次ですっ飛ばして下さい。

ここを知って頂くと、
不妊の原因になる疾患への理解が少し深まる
かと思います。

このnoteは【大人の性教育】として位置付けている側面もあるので、必要だなと🦒が感じた情報は、載せていきます。

さて、ではまず解剖生理学から参りましょう~🦒

そもそも精子ってどのようなもので、どのように作られているのでしょう?

【精子の取説】
ー男性の精巣の中にある細胞【精子】ー


精子は、卵子と同じく新しい生命を生み出すための細胞です。
ひとつの精子は、精巣の中で約74日程度かけて作られます
常に複数の精子を作り続けることで、1日に約1億2300万個の精子が作られているとも言われています。

先日のnoteで紹介した、女性の卵子とはここが大きく異なりますね!
(女性の卵子は胎児の時から増えることなく減り続けること)

しかし、実は最近毎日新しく作られる精子も男性の加齢とともにその機能が低下することが指摘されています。
(生活習慣も関連しているという話もあります)
ですので、男性もその都度ご自身の精子の状況や生殖機能を気にして行かなければなりません。(下記の図参照)

では、精子は実際にどのような場所で作られ
どのように卵子の元へと向かっていくのでしょう?

少し、解剖学的に生殖器を見て行きましょう!

精子を作る精巣は左右の陰嚢に包まれており、
平均体積は約20mlです。
(後程出てきますが、大きさも診察では確認します。)
卵子とは、下記の①~⑧の仕組みで出会います。



①精巣
精子を作る

②精巣上体(副睾丸)
精巣で作られた精子を成熟させ貯えて、射精を待つ所。

③精管
精子が通る管。
末端部の袋状に膨らんだ精管膨大部では、
射精直前に精子が一時的待機する

④精囊
精子に運動エネルギーを与える精囊液
(精液の約7割を占める)を作る場所

⑤射精管
射精時に精液が通過する管

⑥前立腺
精子・精嚢液・前立腺液を混合し、精液を作る所。
射精における収縮や尿の排泄などの役割も担う

⑦尿道
射精時に、精液を運ぶ管

⑧陰茎 
勃起して膣に挿入し、体内に精子を送りこむ外性器

そして、卵子と出会うのですね。

卵子の1カ月の旅。
(眠っていた卵子が目覚める所からするともっと長くなりますが)
そして、精子の旅。

精子の女性体内での寿命は約72時間といわれますので、この寿命期間の間に運良く卵管膨大部にいる卵子と出会って初めて受精が成立します。
※卵子の寿命は約12~24時間と言われています。

双方の旅とめぐり逢いは、もうまさに人類の神秘ですね。

4.男性不妊の検査って何するの?

ではでは、男性不妊の原因に迫って参りましょう。

男性不妊の原因を、
どのように調べ、
それに対してどのような治療を行っているのか....
少し見て行きましょう!🦒

まずは、実際に男性不妊外来では、どのような検査をするのでしょうか?

🦒の所属していた病院では、下記の流れで男性不妊外来を行っています。

⓪丁寧な問診と、カップルの治療歴や男性の既往歴の確認
・既往では、感染症や手術歴、全身疾患(糖尿病や高熱を伴う疾患など)
・薬剤歴
・嗜好歴(喫煙/飲酒/高温環境:サウナやヒザにPCを長時間置いての作業)

①精液検査
(患者様の体調によって変動が激しいので、2~3回の結果をもとに評価)

精液検査の評価はWHOのガイドラインに準じて行います。(下記表)

【精液所見からの分類】
・乏精子症
 ⇒総精子数が基準下限値以下
・精子無力症
 ⇒精子数は正常であるが前進運動精子が基準下限値以下
・奇形精子症
 ⇒正常形態精子が基準下限以下
・無精子症
 ⇒精液中に精子が認められない
など。

➁視診・触診/陰嚢・腹部超音波検査(エコー検査)
全身の所見。
外陰部の視診・触診
(明らかに、サイズが大きいことや小さい事はないか。腫れものがないか、精索静脈瘤がないかを肉眼や触って確認する。)
※超音波検査では、更に細かく上記をみて行きます。

③ホルモン検査/抗精子抗体検査(染色低検査)
血液検査で、FSH/LH/テストステロンなどを測定し、精巣の機能を調べます。
血液を採取した際に、一緒に抗精子抗体(精子を不動化させたり、精子の各受精段階に阻害作用を示すもの)を調べる場合もあります。
また、ホルモン検査やその他の所見によっては染色体を調べることによって、遺伝的な不妊原因がないかを調べる場合もあります。

その他、患者様の状況によって様々な検査があります。

ですので、実は男性不妊の検査だけでも、複数回の受診が必要になるのです。
(ここ‼大事ですよ。テストに出ますよ!)

では、上記検査から分かる原因を見て行きましょう。

5.男性不妊の原因って何があるの?

男性不妊の原因は
①『造精機能障害による不妊』
➁『造精機能障害以外の不妊』の2種類に分類されます。

①『造精機能障害による不妊』
男性不妊の原因の約80%が造精機能障害と言われています。
造精機能障害とは、
精子をつくり出す機能自体に問題があり、
精子をうまく作れない状態です。

精巣機能が低下する理由は多岐にわたりますが、
こちらでは一般的なものを紹介します。

(1)精索静脈瘤
男性不妊症患者全体の約40%に認められるのが「精索静脈瘤」です。
精索静脈瘤とは、精巣やその上の精索部に静脈瘤(静脈の拡張)が認められる症状のことを指します。

そうです!これを視診やエコーで見ているんですね!🦒

(2)非閉塞性無精子症
(造精機能障害は「非閉塞性」)
無精子症は大きく分けて
「閉塞性」と「非閉塞性」
の2つに分類されます。

非閉塞性無精子症とは、
精巣内で精子が作られていない状態を言います。

(3)乏精子症・精子無力症
乏精子症とは、精液中の精子が少ない状態に対し、
精子無力症とは、精神の運動性が悪い状態で、両方が併発して起きていることもあります。

➁『造精機能障害以外の不妊』
(1)精子の通過経路障害(閉塞性無精子症)
閉塞性無精子症とは、
精巣で精子は作られていますが、
精管(通り道)が詰まっていて出てこない状態を言います。
作られているので、造精機能障害ではないのですね。

(2)その他
造精機能障害以外の不妊では、勃起不全(ED)や膣内射精障害が原因であることがあります。
諸所のプレッシャーなどにより。不妊治療のタイミング法でEDになるケースもあります。

6.治療について

正直な所、各々の原因に対して超効果的で明確な治療はあまり存在しません。

例えば、精索静脈瘤があれば、それを治療する手術を行う場合がありますが、治療を行ったら100%所見が回復するわけでもないです。
(精索静脈瘤があっても普通に妊娠する人もいます)

内科的治療が功を奏さない場合は、適応疾患に応じて外科的に精子を取り出してくる場合もあります。

※内科的治療では、その原因に合わせて
内服治療(EDの治療薬や漢方/サプリメントを使用することもあります)、
注射によるホルモン療法などを行う場合もあります。

ここでは、大まかに知ってこんな方法があって、それによって男性はどのようなスケジュールで動いているか(入院/手術や受診)をざっくり知って頂ければ良いかなと思います。
(働く人のスケジュールの為のお話なので)

①精索静脈瘤の手術
術式にもよりますが、🦒の所属していた病院では、
1泊2日の入院/手術もしくは日帰りです。

➁無精子症に対する手術(TESE:精巣内精子採取術)
こちらも、手術の内容によりますが、
1泊2日(長いと2泊3日の所もあるよう)の入院もしくは日帰りです。

※TESEは、精巣等から直接精子を回収し、採卵した卵子に受精させることを目的に行うもの。

TESEの場合、精子を凍結保存する場合以外は、
回収したものを採卵した卵子とすぐに掛けわせる
(顕微授精:ICSI)
こともあるので、手術日が採卵日に合わせる形になり、
急に入院が決まる可能性もあります。

ですので、男性社員様でも、パートナーの治療スケジュール
に沿ってお休みが必要になる場合もあることを皆様に知って頂きたいです。

あとは、特に精子に問題がなくても、採卵日当日には採精が必要であり、
採精はできれば病院で行うのが
(運ぶことで、元気がなくなってしまうリスクを減らすため)

生殖現場的にはヨシッ!👈️
(あ、つい言ってしまった....)

ですので、いつもお話している、
『急に決まる採卵日』
に合わせて、少し遅めの出勤になることもあるかもしれません。

そういった、事情も知って頂けると良いかと思います。

7.まとめ

本日は、『男性不妊』について超簡単にお話しました。

不妊の原因は、半分が男性

それを知り、不妊を女性の問題ばかりにしない事、
そして、実は周りには言えないけれど
男性も不妊治療をしていることもあるという事。

そこを、今回お見知りおき頂けますと幸いです。

そして、noteの中では書かなかったのですが....

実は、「男性の100人に1人は無精子症」(※)
という現実があります。
(※Ahmet Gudeloglu, Sijo J Parekattil “Update in the evaluation of the azoospermic male”, 2013)

そう。不妊は女性のみの問題ではない。
それを、皆様に知って頂きたかったのです。

そして、個人的にもう1つ大切なことを....🦒
(これは、産業保健とは全く関係ありませんが....)

不妊の原因が女性にあろうと男性にあろうと、
パートナー同士の間では関係ありません。
(という気持ちを持って頂けると良いな....)

子供を授かることは、2人のパートナーシップがあっての事です。
どちらかのせいにするのではなく、
お互いを思いやり、治療を進めていく事が大切です。
だって、まずはお互いがいなければ何も始まらない訳ですから。

大切にしたい人がいて、その人との子供を授かりたいと思った事、
原点を忘れずに治療に臨んで頂きたいですね。

そして、男性不妊であったとしても、このnoteに書いたように、
女性が採卵をする必要がある場合もあります。
その時は、どうしても女性の身体への負担は大きくなります。

でも?だからこそ?
お互いの思いやりの気持ちは忘れずに、治療を続けて頂きたいですし、
サポートする側にも、そのことは知って頂きたいです。
(ああ、もう言っていることがちょっと意味不明になってきた....🦒)

では。今日はこの辺で....

ありがとうございました🦒!

次回は....
うーん。
考え中です!

(最近読んだ文献の紹介もしたいと思っています~)

お楽しみに!

8.参考図書やHP

厚生労働省「不妊治療と仕事の両立サポートハンドブック」https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/dl/30l.pdf

不妊・不育診療指針 柴原浩章編著

臨床婦人科産科2018.Vol.72No.11男性不妊アップデート
ーARTをする前に知っておきたい基礎知識ー

男を維持する「精子力」 岡田弘

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