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Cookie廃止後のデジタルマーケティングについて整理

(この記事は都度更新予定です)

2023年に、Google Chromeにおいてサードパーティ Cookieの廃止が予定されています。この記事では、廃止の影響、代替手段等を整理しています。長くなっておりますので、気になる点のみご参照いただければと思います。

サードパーティ  Cookieとは?

私たちが訪問したサイトから発行されるCookieをファーストパーティCookie、それ以外の第三者から発行されるものがサードパーティCookieです。具体的には訪問したサイトに掲載されている広告のドメインから発行されるケースが多く、そのCookieを利用して、アトリビューション分析、リターゲティング、パーソナライゼーション等が行われます。

いつ廃止されるの?

Apple Safariにおいては、既に2020年からにサードパーティCookieをデフォルトでブロックするようになっており、Google Chromeにおいても2023年にサードパーティCookieが廃止される予定です。

Cookie廃止の影響と今後の課題

サードパーティCookieが廃止されることにより、複数のサイトを横断したユーザーの行動履歴をトラッキングできなくなるため、リターゲティング広告の配信やパーソナライゼーションが行えなくなります。また、これまでのような複数サイトを跨いだアトリビューション分析もできなくなります。

さて、ここからが本題です。

サードパーティCookieの代替手段が登場すれば、これまでのようなWebマーケティングを継続できるのですが、代替手段の確立も難航しているようです。

あらためて課題を抽象的に捉えると、いかに自社の製品やサービスを購入・利用してくれる顧客へへリーチ・追跡し、検証・分析することがポイントです。

Cookieの代替技術

以下、Googleが主導するかたちで、サードパーティ クッキーを代替する技術や手法の開発が進んでいます。

Privacy Sandbox (プライバシーサンドボックス)

Cookie廃止後のアプローチとしてGoogleが、 広告ターゲティングと不適切なトラッキングを減らすためのスタンダードを開発することを目的とした取り組みです。

Privacy Sandboxのイニシアチブには、2つの主要な目的があります。

・ユーザーのサイト間での追跡やユーザーに知らせずに行うサイト間での追跡行為を防ぎながら、Webで活用でき、ビジネスモデルをサポートする代替ソリューションを開発すること。

・新しいソリューションが導入されたら、サードパーティのCookieのサポートを段階的に廃止すること。

https://developer.chrome.com/ja/docs/privacy-sandbox/overview/

それでは具体的な技術手法について簡単にまとめていきます。

FLoC (Federated Learning of Cohorts)

個人を特定することなく、ユーザーの興味を推測できる手法(API)としてGoogleがトライアルを行なっていましたが、2022年1月にトライアルを中止しています。

ユーザーがWeb上を移動すると、ブラウザは興味コホート群を作成します。ブラウザの閲覧データは個人データではなく群で管理されるので、プライバシーが保たれます。またコホートは定期的に再計算されます。

広告を配信する際には、このコホート単位のデータを参照して、関連広告を選択し表示します。またFLoCでは、機械学習を用いてユーザーのCV率を予測します。

Googleがトライアルを中止した理由として、FLoCのトラッキング技術が、プライバシーを侵害する可能性があるという指摘や、各ブラウザで技術の採用見込みがないことなどが挙げられています。

Topics

Googleは、FLoCの上位互換の位置付けで「Topics API」の開発を進めています。ユーザーの閲覧アクティビティに基づいて、例えば「美容、フィットネス」や「ランニング、ウォーキング」等のトピックスをブラウザが判断するようになります。

ユーザーがTopics APIを使用しているサイトにアクセスすると、APIを通じて最大3つのトピックがサイトに共有され、そのトピックに応じた広告を表示することが可能になります。

トピックの数が限定されることで、固有の関心トピックを元に個人が特定されるリスクが少なくなり、また人種や性別等、センシティブな情報はトピックから除外されるようです。

Topicsはその仕様を見る限り、シンプルで分かりやすいもので、ユーザーが抱く不信感は払拭できるのかしれませんが、シンプルすぎてその効果を十分発揮できるのか?という点が疑わしく感じます。

しかしながら、広告主やパブリッシャーには自ら施せる打ち手はなく、当面はGoogleの開発する技術の良し悪しを評価すること位しかできなそうです。

FLEDGE

FLEDGEは、First Locally-Executed Decision over Groups Experimentの略で、Googleにより開発された「TURTLEDOVE」を拡張したもので、プライバシーを維持しながらデータへのアクセスを可能にし、「信頼できるサーバー」を使用するというアドテク企業等のアイデアも取り入れられました。

第三者がサイト全体でユーザーのアクティビティを追跡できないように設計されているものの、ブラウザによるオンデバイスのオークションを行うことが可能なため、リマーケティングが実現されます。

FLEDGEにおいては、共通の興味を持つユーザーグループが、「インタレストグループ」として広告配信に活用されます。

Attribution Reporting API

こちらも同じくPrivacy Sandboxに関連したAPIの一つで、サードパーティ Cookieを使用せず、広告表示、クリック及び、コンバージョンの測定を目的に、開発が行われています。

PPID

PPIDは[Publisher Provided Identifier]の略で、パブリッシャーがユーザーに割り当てる識別子のことです。これまでパブリッシャーと広告購入者間で活用されてきたPPIDを、Googleがターゲティングや広告のカスタマイズ等、広範囲に活用する方向性を示しています。Google自体がIDを発行するわけではなく、またあくまでもPPIDはパブリッシャーごとにユニークなIDとなります。

ここまで、サードパーティCookie廃止後の代替技術を中心に整理してきましたが、未だ有効な技術的手段が確立する見通しが無いことが分かりました。

次にデータ活用による顧客理解と顧客ターゲティングの方法を整理してみます。

データによる顧客理解とターゲティング

ファーストパーティデータ

ファーストパーティデータは、パブリッシャーや広告主が保有する顧客や訪問者データのことです。具体的にはWebサイトやアプリ上で収集・蓄積した、顧客氏名やメールアドレス、購買やサイト内行動、サイト内アンケート等のデータです。

広告主はファーストパーティデータを活用して例えば、販売している製品やサービスの売上を最大化するための導線を設計します。

パブリッシャーはファーストパーティデータを活用して、自社が運営するメディアにおける広告配信を最適化します。

広告主は、正確なセグメンテーションかつ、セグメントごとのボリュームを担保しているパブリッシャーを中心に広告を配信したいので、それらを実現していない規模の小さいメディアにおいては、Cookie廃止後の世界の成り立ちに収益が依存する可能性があり、現状はリスクを孕んだ状況かと推察します。

セカンドパーティデータ

他社のファーストパーティデータのことです。自社のファーストパーティデータが不十分な場合、他社のデータも活用するという考え方が現状ありますが、個人情報の取り扱いは年々センシティブになっており、データを統合し共有したいというモチベーションだけで、広告主やパブリッシャーが個別に契約することは、リスクを鑑みると容易では無いと考えます。

サードパーティデータ

サードパーティデータは、広告主やパブリッシャーから見て、ユーザーと関係を持たない第三者が保有しているデータです。主には複数のパブリッシャーからデータを買い取ることで集約されたデータが商品となり、広告主はターゲティング広告を配信します。

ファーストパーティデータが集約された、サードパーティデータは最強のように思われますが、セカンドパーティデータと同様、個人情報取り扱いの壁があり、統計化処理が必要だと考えると、データ精度においてはファーストパーティデータとの差が広がると思われます。

ゼロパーティデータ

ユーザーが自ら広告主へ提供したデータです。ファーストパーティデータは主にユーザーの行動を客観的に捉えたものが中心です。ゼロパーティデータはユーザーの主観的な意思データです。何に興味を持っているのか?何を買いたいのか?等、ユーザーの顕在化したニーズが中心となります。

例えばSpotifyやNetflix等で、新規会員登録時に興味のあるアーティストや作品を答えることがあると思いますが、それらの結果がゼロパーティデータになります。このようにゼロパーティデータは、アンケートのような形態で収集されることが中心であり、定義上はファーストパーティデータに包含されると解釈します。

サードパーティ Cookieの廃止にも伴い、ゼロパーティデータが大きく注目されていますが、ファーストパーティデータと比較すると、潜在的なニーズやインサイトを捉える上ではさほど有効では無いと思われます。なぜならアンケートの回答はユーザーの顕在化したニーズだからです。一方でファーストパーティデータと組み合わせて分析することで、ユーザーインサイトをより正しく把握することはできると思われます。

データクリーンルーム

プラットフォーマーが保有するデータと、広告主やパブリッシャーの保有するデータを、個人を特定することなく分析できる、主にプラットフォーマーが提供するセキュアな環境です。

データクリーンルームのコンセプトは分かりやすく、聞こえもよいのですが、データは個人情報取扱いの観点で匿名化等の処理・加工が行われるため、データ活用の制限があります。また第三者へのデータ移転にも一定のリスクが伴うため、リスクを大きく捉える企業等においては容易に運用へ至らないと推察します。

また今後、データクリーンルームの活用が普及するにつれ、広告主やパブリッシャーは、契約するデータクリーンルームの選定、契約数で頭を悩ませることになるかと思います。

ここまでの結論

サードパーティCookieが廃止された後も広告主やパブリッシャーは、ターゲティング、リターゲティング、広告のカスタマイズ/パーソナライゼーション、CV/アトリビューション分析を実現するという課題を有しています。

ターゲティング、リターゲティング、広告のカスタマイズ/パーソナライゼーションについては、主にファーストパーティデータ、ゼロパーティデータ、ファーストパーティ Cookie及び、Topicsのような技術を複合的に活用することが望ましいと思われます。

一方で、複数のメディアを跨いだアトリビューション分析等を行うためには、データクリーンルームのような環境を利用することになるかと考えます。また、ファーストパーティデータのみの利用では見過ごしてしまうであろうユーザーの行動変容、顧客インサイトの分析についても、データクリーンルームを活用した分析が必要になってくることが推察されます。

いずれにせよ現在のようなシステマティックな広告配信の仕組みを容易に実現することが難しくなると、データ分析の意義が高まり、広告主、パブリッシャーにおける分析ケイパビリティの重要性は増すのではないかと考えます。

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