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金曜の雨の夜とグラブドライバー

待ち合わせの時間まであと5分。
しかし車は渋滞で全く動かない。
友人にGrabの到着予定時刻をWhatappでシェアしてテキストを送信。
「あと15分くらいかかりそう🙇‍♂️」

バイクが車の脇をすり抜ける。
左の車が幅寄せする。
KLのいつものトラフィックジャムがそこここにあった。
少し雨が降り出した。

「時間は大丈夫だけど、設定してる場所間違えてるよ!」
今夜食事する場所はチェーン展開している飲食店で、私は間違えて自宅から近い方の店舗を設定していたようだ。
本来の店との距離はおよそ2km。

「あ…ごめん。もしまだ着いてないなら、私が設定した方に来られない?」
「ごめん、もう飲んでる😆」
雨足が強まってきた。Grabが示す到着予定時刻が伸びる。

目的地を変更したいのだが、すでに設定した目的地に近いためGrabアプリでは変更できないと表示された。

「Grabで行き先変更できないよ😢」
「ドライバーが了承すれば、ドライバーの画面から行き先変更できるはずだよ」
「わかった。聞いてみる」

「うーん、今までやったことがなくて…やり方分からないですね」とドライバー。
「ちょっと試してもらえませんか?」焦る私。
「変更できるボタンは見当たらないね。どこへ変更したいの?」
「ここから2キロくらい先なんですけど…」
「いいよ、じゃあこのまま行きましょう」

ドライバーはGrabの案内を無視して、私の案内通りに車を進めた。
私のGrab画面には、"ルート外を走行中”との表示。
わかってはいても、この表示はちょっと物々しい。

雨足が強まり、フロントガラスに大粒の雨があたり始めた。
ワイパーの音が車内に響く。

車は渋滞を抜けて、速度を上げる。
Grabが表示するルートを大きく逸脱して車は走る。
雨のせいでバイクはいない。
幾つかの曲がり角を経て、待ち合わせのレストランに到着した。
待ち合わせ時間を3分過ぎただけだった。

「変更してもらった分はどうやって支払えばいいですか?」
「料金はいいですよ」
「それはだめ。2キロくらい走ってもらってますし」
「Grabで変更できないし、いくらか分からないし本当にいらないです」

マレーシア人はルーズと評されることも多い。
もちろん、私もその洗礼を何度も受けたことがある。が、しかし、本当にたまに驚くほど親切な人がいるのも事実だ。
今回のドライバーがまさにそのタイプの人だった。

「じゃあ、これ取っといて下さい」とチップを手渡そうとしたら、キャッシュがなかった。私はいつも肝心な時に現金がないのだ。
「じゃあ、Grabのアプリ経由でチップをお支払いするので受け取って下さいね」
「ありがとうございます。いい金曜の夜を」
「こちらこそありがとう。あなたも」

車を降りると、雨は小雨に変わっていた。
いい金曜の夜だった。


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