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雨粒がコンクリートに落下するたび閉じていくような約束 走馬灯のように流れる助手席の車窓には映らない観覧車 自宅まで缶コーヒーを一本で送ってくれるやさしくないひと
ぴちぴちとまつげが跳ねていったのをゆるしてあげよう東京の端で 僕以外誰も見ていないくちびるが陸の魚のようにひらいた ぶつぶつと殴ってやれば生き物のように泣きだす 僕も泣きたい
ひとつずつゴンドラがなくなるようにすばらしい日を忘れ去ってゆく 人間は忘却の生き物 それでも声を聴いたらおもいだせるよ 君によって作られたこの宝石のような痛みもわすれてしまうの
キーボード打つ手が止まる 液晶に映る自分のとうめいな顔 件名も差出人もないメール 形容動詞をまた消してゆく 送信を押せないままに永遠の海に投げこむただしくない文
もういない誰かを起こすための朝 すべてがふたり分の冷蔵庫 未練などないとおもった 食器棚に生まれたわずかな空白を見る この夜はあなたがいないというだけの静かなだけのまっしろい夜
僕に価値なんかなかった ムーミンはやさしいだけの生き物だった 愛のように空を自由に駆けたくて僕はおそらくしおれた風船 どこまでもゆがんだレンズだわたしという一人称を誰より憎む
泣いていた すれちがう人たちは皆車窓のように通り過ぎてく それは音。だけのかなしみでしたから。銃を自分で突きつけている ほらそこをグーグルマップの言うとおり右に曲がれば涙も止まるよ
ゆくゆくはしおれてしまう一輪のなんてことない花をあげたい 君といるこの時間さえ宇宙から見れば天使のまばたきほどだ よろこびがかなしみを越えなくていい プラスマイナスゼロのしあわせ
ぐつぐつとおでんを煮込む間だけ冬はふたりの間で黙る はんぺんを頬張るきみのくちびるは冬の季語にはならなくていい こたつ下の戦いがある 表情は変えないままでみかんを食べる
賞味期限間際の緑茶のぼけた味に救われている夜のまんなか 普遍的な承認欲求 かくれんぼときどき誰かに見つけられたい テーブルの下でかなしみをやり過ごすわたしを見つけてみせてよ朝日
輸送中の文字をどんなに睨んでも配達しましたにならないせかい 主人待つ子犬のように郵便を待ちくたびれてまるくなるひと 一日に何度もポストを開けに行く 行きだけ軽い足取りで行く
理由なくさみしいひとのそばにいてまぶたの裏に虹をあげたい やさしさが分散していく 公園ではしゃぐ恋人には戻れない 昨日見たひかりをわたしは知っている 孤独の頬が見せたひかりだ
息をすることが時々できなくてグレープのグミで窒息しかける なにもかもできないままだ 次こそははじめからやり直したくなる 左胸で響きつづけるこの歌をまだ聴いてたいと思うこの日々
どこへでも行けないわたしをなぐさめる一分ごとに変わる壁紙 液晶の画面でひたすら降っている雨 永遠に落ちない水滴 見たことのない風景の壁紙を『好みではない』で消していくだけ