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365短歌(2022)

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2022年に投稿した三首の連作短歌をまとめたマガジンです。
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#月

連作 ぽつんと月と

冬の空 坂道だらけのこの街でぽつんと月とばかり目が合う 憎しみはどこかに忘れて車窓にはひとりぼっちの火星が光る 冬銀河みたいにきらめくサイダーが淋しさだけを燃やしてくれる

連作 平均点のやさしさ

溜息のようにわたしの名を呼んで 雲の向こうの月が軋んだ のばしても届かないから湖面には腰をかがめる紅葉の枝 夜明けまで平均点のやさしさは致死量の毒 真夜中の月

連作 電球が月

ネクタイがずれてるなんて気軽さで窓に反射した電球が月 正面のいない食卓テーブルに置いたいじめのように花束 三十分経てば緑茶は冷めている賞味期限だけが過ぎ去った秋

連作 十年ちょっと

こぼれ落ちそうな月には会えなくて十年ちょっと住んでいる街 夜ばかり紡いでしまう言語野を回転させて君と繋ぐ手 きっとまだ大丈夫です 祈りとは手紙全般のことを指します

連作 一人/独り/ひとり

一人旅しているみたいに独りきりのベッドのシーツをひとりで直す ホテルぐらいきれいに伸ばしたシーツから雲隠れする月の残り香 独りきりに慣れたい夜は腹の虫も鳴らないくらいにしずかな曇り

連作 月が見ている

Tシャツが見下ろす床をなめている月の光で上げかけた顔 見上げては強要させる唇の角度で月が海に飛び込む 利き腕に体温計を挟むときの手持ち無沙汰を月が見ている

連作 月の三女神

好きな人が抱くアルテミス永遠に三日月のままの夜空はきれいか セレーネになりゆく月をあなたから一番とおいところで見ている 欠けていくヘカテーの月は太陽と対になっては結ばれるだけ