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365短歌(2022)

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2022年に投稿した三首の連作短歌をまとめたマガジンです。
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2022年10月の記事一覧

連作 はじめての執着心

君の夢を見れないままの夕焼けはやさしく首を絞める手のひら 幻を追いかけないまま閉じてゆくキスでおしまいのゲームの画面 わたしには君しかいないはじめての執着心を育てた寝室

連作 月がいびつに

にせものの小指で赤い糸ごっこ月がいびつに揺れる水面だ 君の手で裂かれる心が葉のように手紙のように散らばる寝室 さよならも言わない君の背中からはじまる日の出に消えたくなった

連作 こわくない

許せないことばかりある心にも紫色の痣の夕暮れ こわくない あなたを忘れて恋してもいいくらいには新月の夜 恋ごころに玉結びして歩く道きれいに染まったもみじの葉の赤

連作 感電しそうな

心まで感電しそうな歌声を連れてひかりのイチョウの並木 お気に入りのブーツで駆ける吐く息の白さも背中を押すように空 僕だけに歌ってくれるイヤホンの音量ひとつで目が冴える秋

連作 明かりの消えた観覧車

僕たちの歩幅がずれていく夜の明かりの消えた観覧車が好き キャラメルのように歯につく淋しさを洗い流してくれる秋時雨 溜息の代わりに口をつくごめん、ガラスが鈍く割れて朝焼け

連作 外せなくなったリング

外せなくなったリングを回してる手をつけてないフルーツタルト 秋の雨 あなたはひとりで生きられるおかしいくらいにぶつかった傘 紅葉がすべて落葉するようにわたしの男でなかったあなた

連作 背はひかり

芸術のように形に残したい振り向くことのない背はひかり 秋の道 口内炎を噛みしめるほどにキンモクセイの落涙 手袋を外した右手が冷えるままハナミズキの木から落ちる影

連作 さよならがススキのように

さよならがススキのように揺れるのを見逃すたびに落ちる夕暮れ 君の名と同じ名前を呼べなくて紅葉がしずかに手のなかにある さよならがかけた呪いが思い出になるハロウィンが過ぎてゆく街

十六夜杯に短歌で参加します!

連作 ろうそくの炎迷わずに赤を選んだゆびさきに散るのはもみじかりんごか夕日か 似合わないと言われた爪を見ておもう落ちるもみじはしずかな叫び ろうそくの炎のように揺らめいて夕日の方へ歩いて帰る 期限ギリギリになりましたが、よろしくお願いいたします。

連作 うさぎりんごと月

不格好なうさぎりんごが並んでは月へ飛び立つ夢を見ている 夜景だけ通過していく車窓には未だ月には着けないわたし 夢を見ていた子供にもわたしにも同じ遠さで輝く月は

連作 激しい雨だ

しあわせになれない映画のヒロインを攫うくらいに激しい雨だ ラブソングばかり聴いても本日も薔薇の花びらの代わりに降る雨 喉の奥に詰まった言葉が雨粒を震わせそうな窓越しの雨

連作 紅葉舞う道

鍵盤のあなたの軌跡をたどっては音楽室に夕陽の幻 聴く人のいない自室に降り積もる書きこみだらけの楽譜の匂い あなたとの間に見える旋律が鳴り止まなくて紅葉舞う道

連作 君の呼吸は冷たい湖

欠けていく月を見ていたい 君と吸った空気が肺からなくなるまで 迷いなく足の先から入れていく君の呼吸は冷たい湖 満ちている月光の道 ひとりでは神の前でも祈れないまま

連作 優しいさよならがいい

サビ以外全部知らない流行の曲みたいにさふたり駆けてく 恋愛のサビだけリピートする秋は種あり葡萄の気だるさのよう 足音が聴こえなくなるアウトロは君の優しいさよならがいい