マガジンのカバー画像

365短歌(2022)

358
2022年に投稿した三首の連作短歌をまとめたマガジンです。
運営しているクリエイター

2022年6月の記事一覧

連作 痛みは百合の香り

くちびるを毟っては出た鮮血で君は白百合を染めるのだろうか 人間のバグとおもえば痛みさえ百合の香りが漂う夜更かし この夜が明けたら人に戻るように百合は真っ赤な雨をはじいた

連作 ご自由にお書きください。

ご自由にお書きください。書き方も忘れた僕らは白紙の塗り絵 眠れない 色紙にこぼしたコーヒーの染みが言葉に見える夜更けに 皆が書く当たり障りのない言葉そうして君らは目を閉じてゆく

鶴亀短歌に参加します!

連作 教科書にないまぶしさ教科書にないまぶしさだカルピスの濃いめが並ぶコンビニの夏 国語でも習ったことのないトマト祭りのような応酬の恋 スカートが濡れないように腰で折る君の進路を応援している 素敵な企画に参加させていただきます! テーマが夏ということで、ストレートに詠んでみました。 よろしくお願いいたします。

連作 三叉路とあみだくじ

三叉路で立ち止まるたびあみだくじで迷う指先の気持ちになれる ※歩きスマホはいけませんひたすらドリブルしている気持ち あみだくじで何かを決めたことがないスマホがなければ使うだろうが

連作 わたしが来ない

合鍵はわたしが持っているからかいつまで経ってもわたしが来ない 二階から落としただけでオルゴール壊したようにわたし。しあわせ 鏡像はわたしで鏡に映ってるのもわたしなら逃げ場がないの

連作 街灯を演じるひと

鏡台のように佇むからだからしずかにしずかに沈む太陽 街灯を演じるひとはほどけてく舞台女優に似た影法師 油をさすことも忘れてゆっくりと傾く製造中止の心

連作 あおぞらにカイト

雲ひとつないあおぞらを持っているあなたの心の昼の月になる あおぞらにカイトを飛ばしてゆくような世界でいちばんちいさな革命 まだすこし蕾のままの表情でわたしはイリュージョニストに似ている

連作 物憂げなシーツ

デコルテに銀のひかりをぶら下げる  かしずきたくなる月の皇帝 物憂げなシーツをまとうふとん山トンネルの続きをしようよ僕らで ろうそくはその身を溶かしてゆくけれど僕らを燃やすのは夜

連作 アールイー:∞

Re:が増えてゆくなら永遠に近づいていく今日という風 返信を求めるみたいに片頬に触れてRe:のくちづけ Re:は消しても消しても終わらない終末時計の針みたいだね

連作 君のことばで背骨が波打つ

迷宮に囚われるようなはつなつの自販機どれもひかっているね 新曲をはじめて聴いたときのように背骨が波打つ君のことばで チャンネルが合わない夜はエアコンも付けずに荒廃した世界ごっこ

連作 潮風の記憶

行かないでとは言うこともない海でさざ波のまま溺れた記憶 良いことも覚えていない脳みそで覚えていたいことがなかった 潮風の記憶をたしかめるようにひとりで歩いた海岸通り

連作 月の三女神

好きな人が抱くアルテミス永遠に三日月のままの夜空はきれいか セレーネになりゆく月をあなたから一番とおいところで見ている 欠けていくヘカテーの月は太陽と対になっては結ばれるだけ

連作 それが「あい」だよ

「あい」の歌詞ばかり並んで思い出したい花束のような恋情 「あい」にあてる漢字を探すエンターキー押さないままでも背を押す風 スペースはもう押さなくていいそれが「あい」だよあなたじゃないとだめだ

連作 深淵は君の目のなかにある

与えられるだけではなくて与えたい 凶器を握るみたいな歓喜 細胞を暴いてくれるだろうかと心の裡まで差し出す両手 深淵は君の目のなかにある夏の暗い部分を集めたみたいな