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365短歌(2022)

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2022年に投稿した三首の連作短歌をまとめたマガジンです。
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2022年5月の記事一覧

連作 二光年離れた言葉

二光年以上離れた言葉だけつかうあなたの口から、けっこん あさがおを植えたはずなのに向日葵になったみたいに夏おとずれる 遊びのようにあなたがくせ字で書ききった雑誌の付録の婚姻届

連作 なにもないところでこけた

なにもないところでこけたような日の食卓に添えるいわしの梅煮 雑踏で目を閉じてみる 消毒液が染みたのもちいさな風だ エクレールのような稲妻落ちてきてこのパン屋には絶対入る

連作 しろたえのバースデーケーキ

白い箱揺らして帰路の街灯はすこしやさしく照らしてくれる 年を取ることを証明するためのバースデーケーキの上の蝋燭 しろたえのバースデーケーキがまぶしくてまだ負けないと言えたら勝ちだ

連作 どこにも行けない

なんどでも泣きそうになる天井が薄明るくて海面に似て ドラえもんのように数ミリ浮いていてわらっていてもどこにも行けない 沈もうとしてもぽかりと浮いてしまう ペットボトルのように流れて

連作 クレジットが終わっても

残されたものになる朝 包丁がいっぽんいっぽん旅立ってゆく 心理的空間さえも広くなるチョコのお世話がわたしに変わる クレジットが終わってもまだ立ち上がらないひとみたいに打つキーボード

連作 日没の街

誰にでも首絞められてわらうのねヒールを脱げば日没の街 生命に触れた両手がまだぬるい冷めかけたアップルパイの熱 両の手のひらで包んだ首筋の奥から希望の鼓動が聴こえる

連作 It's OK.

ゆっくりと前向きになる思考とはいつか流行ったアハ体験だ 素晴らしい世界なんだと思えてるニキビは全然減らないけれど ずっと僕は許されたかった指先に野鳥が乗ればやさしい夜明け

連作 標本にされる

アゲハ蝶が羽ばたくように息をする きみの涙は鱗粉になる 太陽に焦がれた頼りない羽で一人部屋から飛び立とうとする 標本にされてるみたいな君を見て逃げられないのはぼくたちと知る

連作 この世界を壊してほしい

後背位では届かない嗚咽の分だけこの世界を壊してほしい 頬杖をわたしの背中でつくだけの信頼度なら愛は要らない カレー粉の香りのような嘘をつく発火しそうな花火を抱える

連作 君じゃないひと

縁結びの指輪を嵌める 君じゃないひとでもいいと思いたくない 何段も踏みはずしている人生で見つけた薔薇を大切に守る ガーデニングの支柱であってほしいだけ 心が自立するまでの間

連作 やさしくてそれだけだった

やさしくてそれだけだったヨギボーに抱かれるくらいがいい日曜日 マジックの種明かしだけ上手くても鳩の種だけ教えてくれない ばかのふりして君といる しあわせは川辺に野草のふりして生えてる

連作 共犯者になる

台本のページを捲っていくように海沿いの町で共犯者になる 落ちるように夕陽が一望できる坂を駆けるすれ違う黒塗りの人 サイレンの区別がつかない片頭痛みたいに喉が渇いては夜

連作 林檎は腐る

アセクシャルアロマンティック死に際でようやく証明できるのを待つ 終末でイブとなっても過ちは起きないでしょう 林檎は腐る 創作であなたと交わすくちづけの数だけわたしを責める法律

連作 誰にでもわらうひと

恋人の奥行きを確かめるため裸足で砂漠をゆくようにわらう 誰にでもわらっているひと前にしてよく分からない行列に並ぶ 微笑みを浮かべることも選択でセーブをしないで遊ぶ人生