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365短歌(2022)

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2022年に投稿した三首の連作短歌をまとめたマガジンです。
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2022年3月の記事一覧

連作 桜のジャム

花の雨が散らしていった初恋は笑えるくらいにつめたい花びら 薄っぺらい十枚切りの食パンに桜のジャムを塗れば上書き 流行の色のパンプス ごめんねはやさしくしたいひとだけに言え

連作 右左右

スーパーのエスカレーター 右側に寄ってあなたにやさしくしたい エレベーター壁際に寄る癖がある からだを守ろうとする左腕 階段でなくスロープをゆくあなたの右手が掴む鞄の紐を

連作 花の幻覚

遠回りしているあなたと出逢うはずの山手線は通常運行 液晶の向こうのあなたに一目惚れ 階段を弧を描くようにのぼる あなたには関わることはできなくていっせいに散る花の幻覚

連作 銀色の爪先

花の雨に染められる銀の爪先と三ミリの距離 ともだちでいる 触れた先から銀色が剥がれてはパン屑のように道しるべとなる 彷徨える腕を離して月光が途切れてしまうからさよならだ

連作 わらって、

言葉だけきれいに失くして笑うなよ、演出みたいな桜が降って 笑ってよ きみのためなら枝だって折ってみせるよ そして嫌って あと残り一枚だって笑いたい ソメイヨシノは同じ日に咲く ネガティブとポジティブの間のこと。 最近スランプというか、季節の変わり目を満喫していました。 うたの日というサイトに毎日投稿しているんですが、最近は全く成績が振るわず……それに加えて、自分の詠んだ短歌が好きになれなくなってしまい、ネガティブなことをnoteの記事にしようと書いては消すを繰り返し

連作 またねでバイバイ

気付いたらスマホの電源が落ちていて溶けた水まで飲み終えたティー 助手席はいつまでたっても慣れなくて道のスミレも報告している さよならは今生の別れではなくてそれでもまたねでバイバイしたい

連作 からっぽの涙腺

右胸が苦しい春だ からっぽの涙腺でラ・カンパネラを聴く リピートをするたびに遠のいてゆく水のシャワーは涙にならない ストーブの前でようやく泣けてくる涙もはじく白い鍵盤

連作 勇者

谷底は一体どんなところでしょう 飛ぶムクドリに尋ねてみたい 寒空のもとさらされるまっしろい素足で越える屋上のフェンス 勇者とはこんなにも雨 さわさわと触れてくだけの視線がうるさい

連作 節電中

蠟燭がゆっくりゆっくり崩れてく こういうときだけ真面目に生きる ペンライトだけでカレーを食べてゆく脱出ゲームのようなリビング いつもより静かに見えるこの街でなんとなく声を潜める七時

連作 羞恥心

薄っぺらい胸を開いて羞恥心でのたうち回る心臓を見る あれもこれも全て間違いだった とはわたしのなかの住人の説 不適合だから選択を誤ってレトルトカレーが口に合わない

連作 必要なんだろう

二十パーのオレンジジュースの酸っぱさで夜のまぶたを無理やりひらく きみはなにが必要なのか 歌声はしずかな口内炎に染みこむ わたしにはなにが必要なんだろう 消去法でしか答えられない

連作 春の雨

春色のジャケットを着る特別な日になりそうな予感をハグする 春の雨 飲み干せなかったカフェオレの苦味を舌に乗せて歩いた 失恋をしないで歩く雨のなか気分はまあまあでした、春雷

連作 プールサイド

ふたりきりのプールサイドを歩くたび花開いてゆく塩素のにおい プール用アルミフェンスに背を預け明日の天気のことを話した ドアノブは冷たいままで口数が減るタイミングもとても似ている

連作 テレビドラマのあらすじ

エプロンを着てザッピングするテレビドラマのあらすじはしっかりと読む 犯人はあなたがいいと思いつつ包丁でいわしを粗めにたたく リビングに夕食のにおいが漂えば探偵がもう解決する時