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「その髪型、いいね」が言えなくて。

僕は髪型を褒めるのが非常に苦手である。
髪の毛を切った人には、「髪、伸びたね。」と言ってしまい、髪が前より随分伸びた人には、「髪、切った?」とかつてのタモリさんのように聞いてしまう。
髪型が前となにか違うことはわかっているようなので、その部分は評価してもらってもいいんじゃないかと思うんだけれども、ことごとく反対のことを言ってしまうことが続いたときから、保険をかけるように「髪型、変わった?」と無難な質問をするようになった。

そんな僕の妻が、今日、髪型を変えてきた。
長さ自体はそんなに変わらないのだけれど、インナーカラーだか、イヤリングカラーだか、もみあげから耳の周りの髪を、ベージュに染めたのだという。正直なところ、僕は染めた髪よりも、彼女のそのままの黒髪のほうが好きだったから、染めると聞いたときは「僕は今のままでいいと思うんだけれど・・・」と、ささやかに主張しておいた。けれども、彼女は一度やってみると決めたら、そのままやってみれる実行力があるので、宣言通り耳の周りが明るい色になって帰ってきた。

実際にやったところを見たら、僕の感想も変わるかしらと思っては見たものの、やっぱりしっくりこない。そんな僕に、妻は問いかけた。
「髪型、どうかな?」
ここは、お世辞でも褒めるべきか。でも、ついさっきまで染髪に反対していた僕が、意見を翻してもわざとらしいか・・・。そんなことを思って、正直に「うーん。」とうなってみた。そうすると、彼女はつんと唇をとんがらせて、
「そういうときは、嘘でもいいから、『いいんじゃない』とか言って、言ってくれたらいいのに。」
といって、部屋を出ていってしまった。怒っているわけではなさそうだけれど、それだからこそ根深そうだぞ。と、いつもの経験から、彼女の機嫌の具合を推し量る。

こういうときに、スマートに「いいね、似合うね」といえたら、いいんだろうか。そう言ったら言ったで、「本当にそう思ってるの?」なんて言えたらどうしよう。そんなことを思っているから、今日も僕は髪型をうまく褒められない。次に聞かれたら、もうちょっとうまく言えるといいなと思いつつ、今日のところは妻のご機嫌の改善のために、甘いものとコーヒーを用意することにしよう。

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