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小説|ピリオド case3


誰でも一度は考えたことがあるんだろう
自分が今、いなくなったとしても明日も同じように地球は回っていてみんなにとって変わらない日常が繰り返される、と。

俺が一番死にたいと思っていたのは
小学5年生の時だった。
悪魔の順番はやってきた
いじめはどこにでもあった

いじめられてたやつをたまたま帰り道に見かけて俺はなんと無くそいつがいじめられている理由が気になって声をかけてみた
話していたら全然明るいやつで、嫌われる雰囲気なんて全然なかった
たまたま蟻の行列が気になって道端で座って動かないのを誰かに目撃されて地蔵というあだ名がついたらしい

次の日学校へ行くと机に『貧乏』と落書きされていた
昨日まで友達だと思っていたやつは俺ののおはように答えなかった
きづいたらクラスでいじめられているのは俺になっていた

そして俺の家は本当に貧乏だったから
何も言い訳できなかった

今考えると、あだ名が貧乏ってあまりに捻りが無さすぎる、と笑えるくらいだが
あの時は辛かった

親にもそれが原因とも言えず、だまっていた
母さんはたまに心配そうにしていたけど父さんはなにも知らなかっただろう

いじめは6年生になってクラスが変わると
俺はターゲットではなくなり、傍観者に変わった

中学に行くと『地蔵』はいじめの首謀者になっていて、あとから分かったことだがあの時俺を身代わりに差し出したのは『地蔵』だったらしい

そんな時代もあったけど
俺は学校という世界を卒業して
18から研修医として働いた
俺の家は貧乏だったけど国の特化試験をパスする頭を持ち合わせていたために俺は医者になることにした
試験は18歳から医療、金融、インフラの分野から選択できた。この特化試験をパスした後は国に従事する職務に限られる
その職務は一般には公開されないが高給料が確約される
医療を選んだ明確な理由はない
お金が稼げれば良くて、一般公開されない職務でもなんとなくイメージしやすかったのが医療だっただけだ
試験をパスして2年間、国立病院で研修医として働く。ここでは特化試験合格者というのは伏せられる
研修医としての給料も平均の2倍あった
俺は実家の家を建て、実家で暮らしていた
2年後、異動がでて俺は網走へと行くことになった
よりによって極寒の1月に。
ここでは寮生活となる。
網走での初出勤の日、オリエンテーションがあると案内されたのは寮の地下会議室だった

アナウンスはAIで、会議室内に自動投影が始まった

ようこそナショナルプリズムへ
今日から国家医療チームとして非公開の職務についてもらいます
ここから先の情報は秘匿になります
国家特化法1条、守秘義務を理解し承諾しますか?


「賛」

この職務を遂行以降、寮生活となります
寮の費用、3食の食事は全額支給です
ナショナルプリズムの施設の範囲外への外出は認められません
年に一度、家族のある方は3日間の帰省を認めますが秘匿遵守のために監視がつきます
よろしいですか?


「賛、but、ナショナルプリズムの施設案内をしてくれ」

わかりました。こちらのマップが全体像になります。医療施設、飲食店、スポーツ、娯楽施設、生活に必要な機能は全て揃っています
尚、何か他に要望がある場合は申請も可能です
後ほどこのマップはあなたのPCでも確認できます。他に質問はありますか?


「否。つづけてくれ。」

それでは、続きを説明します
職務の内容は虹の家の管理です

「虹の家?」

あなたはまだ第二の成人通知を受けていないのでこれからお伝えします。
この国では25歳で第二の成人通知を受けると、自身で死ぬ日を選ぶ選択権が与えられます。これは未成年には秘匿とされているため、通常通知を受けるまでは知る余地はありません。ルールは以降です

通知を受けて以降、100歳までに申請をすれば自分の寿命を決定することが出来る

•申請は一度だけ
•申請の取り下げは認められない
•申請日の前に病気や事故により寿命が早く尽きる場合もあることを考慮の上申請すること
•申請には1人承認者が必要
•最終日に自ら申請した『虹の家』へ向かうこと

「この通知について俺が実家に帰った時両親に聞くことは可能?」

もちろんあなたのご両親はすでに通知についてご存知ですが、あなたが25になるまではこの話題に触れることは否です。

「賛。国立病院でも死人はほとんど見たことはない。多くの病気が治るのにこの国の平均寿命が105歳をキープしているのはこのためか?」

その通りです
自ら終わりを設定することで無駄な心配や貯金、費用負担を防ぎ、健康寿命を伸ばすことに成功しています。

「俺はこの事実を知ってなお、その申請ができるのは25歳か?」

その通りです。例外は認められません。
職務の具体内容に移ってもよろしいですか

「賛」

この地下の先が直接虹の家;north pointへと続いています
勤務時間はシフト制ですが週に4日、1日勤務時間は7時間になります
1ヶ月交代で夜間シフトになります
24時間受け入れているためです
あなたの職務は操作室からカプセルから残寿命のエネルギー抽出と、冷却処分です。
具体的な操作内容は次の部屋に進み、担当者が操作方法を伝えます。
次の部屋に移動でよろしいですか。

「賛」

ここで自動投影は消え奥の扉が開いた
その先は白とシルバー基調の大空間となっていた
円形の大空間の中心にはおそらくあれが操作室であろうシルバーの塔がありガラス室で何人かが作業をしているのが見える
その塔を囲うようにカプセルが並びぐるぐると回っている、一層にカプセルが20個、10層になっている
壮観だった

扉の先には見たことのある女性がいた
国立病院で看護婦をしていた若いひとだ

「やあ、来たね」
「あの、ここの人だったんですか」
「そうよ、少し人材の目星をつけるために病院に派遣に行ってたの。私の主な仕事はここの受付とあなたみたいな操作室の人たちのシフト調整よ。何かわからないことがあったら今後も私に尋ねていいわ。ちなみに先に言っとくけど私は若くないよ、美容医療をしてるだけで45歳だから言葉には気をつけて」
「わかりました」
若いと思ってたから危なかった

「概要は聞いたと思うけど、あなたの仕事場はあそこの操作室ね。各申請者は自身の申請日に登録した虹の家に来て、受付を通過したのち番号に従ってカプセルに自分で入ります。」

「自分で入るんですね。」
「もちろんよ」
シルバーの塔のエレベーターに乗る
無音のエレベーターだ
「ここが操作室。操作室は3人体制で実質は2.5人でまわしているわ。時間ごとに席を入れ替えて、1人ずつシフト交代していく感じよ。今登録人数はあなたを含めて7人。今操作してる2人はもう長くここに勤めてるわ」
「やあ」
きのこヘアの感じのいい中年の男性が振り向いて挨拶をしてくれた。
「よろしくお願いします」
もう1人は操作画面を見たまま振り向かずよろしく、とだけ小さく呟いた

「ここで寿命の抽出と呼んでいるのはカプセル内の脳波のこと。寿命が残っている場合脳波に情報エネルギーがあるからそれを抽出して、集中室に送る作業がひとつ。勉強したと思うけどそのエネルギーの見分けが業務のひとつ。そしてもうひとつはエネルギー抽出後の体は冷却埋葬になるのでそこのスイッチを押してクリーンに戻す作業。以上よ。何か質問は?」

「やることはわかりました。問題ありません。この虹の家は全国にいくつあるんですか?」

「全部で21ヶ所。ここは1日200人分、他も100〜200カプセルよ」

「拠点によって違いはあるんですか?」

「そうね、あなたまだ20歳だったわね。通知をもらう時に虹の家の案内があるの。虹の家までは自分で行かなきゃならないから住んでる近くにする人もいるし、各拠点でオプションが違うからそれで決める人もいる。ここは、ここだけじゃないけど残寿命エネルギーを抽出できるのがオプションかな。エネルギー提供者は配偶者に一定のお金を贈与できる。他にも臓器提供処理が可能な施設とかもあるわ。」

中年の男が口を挟んできた
「仕事は明日からでいい。すぐ慣れるさ。今日は施設を見学して早く寝るといいよ。」
情報量が多くて目眩がしていたので助かった
「ありがとうございます。そうさせてもらいます」

次の日から仕事は始まった
情報を見分け、冷却処分する
その繰り返しが始まった



つづく

#ピリオド

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