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【小説】仲良しでおしゃべりな私たち

「聞いてよ!もう、どこ行ってもないと思ってたのにさ、近所の小さい店にあってさ!!もう、速効買っちゃった!マジで、運命の出会いよ!優姫ゆうひもありがとうね。いろいろ見て回っててくれたやろ?その思いが上乗せされたから、無事に会えたんよ!きっと!」

 私、明菜あきなは、興奮冷めやらぬまま、朝一の教室で優姫にアクキーを見せながら、貧弱な語彙力で感謝をまくし立てていた。私がきゃいきゃいと叫んでいる横で、優姫はニコニコと嬉しそうに笑っている。
 優姫は、どんな話でもすごく楽しそうに聞いてくれるから、甘えていろいろと話し続けてしまう。どんなにくだらないことでも、私の思うままに話すすべてを、ニコニコしながら聞いてくれるし、時と場合により適格なアドバイスをくれる。とても素敵で、大好きな友達だ。


「優姫と明菜って、本当に友達なの?明菜しか話してないじゃん。」

 優姫と違う授業だったから、一人でぼんやりと座っていた時に、後ろから声をかけられた。いつも、他の子と何か話してる、佐藤さんだっけ。苗字しか知らないような子。彼女も、いつもの子が別授業なんだろうけど……。
 そんな風にに声をかけられるなんて思っていなくて、ものすごく焦った。そして、言われた言葉を噛み砕くのにも、時間がかかった。
 結果、ごにょごにょと口ごもって、言葉を上手く紡げなかった。

「えっと……。まぁ、なんだ。友達なら、平等に、同じくらいの分量を話すべきじゃないかな。って思っただけだから。なんか、ごめん。」

 申し訳なさそうな顔をして、そのまま去って行ってしまった。いや、こちらこそなんか、ごめん。変な反応して。でも、そんな友情のあり方なんか、他の人から指摘されても困るんだけど。

 いや、不安がないわけではない。だって、私は知らない漫画やゲームの話を、楽しく聞き続けることはできない。同じものを知っていても、とらえ方が違うと、全力で乗っかって楽しむことは難しい。
 さすがにその場で否定とかはしないけど、家に帰ってからちょっと疲れる。無理にテンションを上げて聞いているからだろう。

 でも、優姫はそんなことを言わない。さりげなく聞いてみたけど、『明菜が楽しそうだから、私も楽しい。』と言ってくれていた。本当に、優しくて素敵な、自慢の友達。

 そのはずなんだけど……。いざ指摘されると、すごく不安になる。どうしたらいいんだろうか。次話すときは、ちょっと自分が話すの我慢しようかな。それで、優姫の話もちゃんと聞こう。そうしよう。


「でさ!そこがこのセリフの伏線回収になってて!あ。」

 放課後、いつものようにダラダラと教室に残ってまた話している。しかも私の好きな漫画の話ばかりしている。今日の昼に、優姫の話をちゃんと聞くんだって心に決めたのに。

「どうかした?」
「ううん、何でもない。その、えっと、ネタバレしすぎてもよくないかなって思って、我慢しようかな、と。」
「気にしなくていいよ?明菜のお話、わかりやすくて好きだもん。」

 優姫が心底不思議そうな顔をして困っている。そりゃそうだ、いつもの私らしくないもん。いやでも、昼の決心を早々に揺らがせるわけにもいかないし。いじいじと机の上で消しカスをこね回しながら、小さく言い訳をこぼす。

「や、ほら。たまには、優姫の話も聞かないと、不公平かな。って。」
「誰に言われたの?」

 いつもより、トーンが落ちた優姫の声に、きゅっと心臓が締め付けられる。びっくりして顔を上げれば、にっこり笑顔のいつもの優姫で、さっきの声は気のせいかとすら思う。
 でも、ゆっくりと机の上の手を握られて、まっすぐ正面から目が合う。目が細められているのに、なんだか、急に怖くて。

「えぇと、あの、誰か、わかんないや。名前知らなくて。」

 とっさに、嘘をついてしまった。しどろもどろになりながらも、なんとか、言葉を紡ぐ。優姫の綺麗な手が私の手をなぞっていて、なんだかドキドキしてきた。嘘がばれないか、という不安もあると思うけど。

「ふふふ、明菜。そこは、急に思ったとか言ったら、私が犯人捜し諦めたかもしれないんだよ?」
「え!?あ!!や、うわ。私、あほやん。」

 さすがの間抜けっぷりに、自分でも絶望する。でも、優姫が笑いをこらえきれずに、肩を震わせているのは珍しい。というか、優姫がツボにはまってるのって、初めて見るかもしれない。

「ふ、ふふふ。ごめん、怒るつもりだったのに。ふふふふふ。明菜、本当にかわいい。」
「もー、かわいくないよぉ。嘘付きなれるべきとは思わないけどさ。さすがに、墓穴すぎて、滑稽やん。」
「そこが可愛い。」

 にこにこと笑っている優姫は、いつもの様子と変わらず。あの一瞬の表情は、見間違いだったのかもしれない。いまだ、しっかりと手を握られている点は、少し気になるけども。

「ま、かわいい明菜に免じて、今回は追及しないようにするから。私は、明菜が好きなものを、好きなように話しているの見てるのが、一番の幸せなんだから。明菜は、二度と、人の話なんか真に受けて、我慢しようとか思わないでね?」

 前言撤回。パンドラの箱でも開けたのかもしれない。美人の圧かけ怖い。
 それでも、こんな真正面から私を全肯定してくれる友達って、すごく嬉しいし、大事にしたい。

「わかった。優姫は、おしゃべり我慢できない私にした責任、ちゃんと取ってよね!」
「もちろん!!」

 わかっていて、優姫を縛り付けたがるんだから、私だって同じ穴の狢なんだよな。一生友達の約束、完遂するためにも、明日も明後日も、毎日たくさんおしゃべりしなくちゃね。


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