見出し画像

倉木麻衣って不老不死なんじゃね?

つけっぱなしになっていたテレビ画面には倉木麻衣が映っていた。FNS歌謡祭だ。妻に言った。

「倉木麻衣って老けなくね?」

こう聞くと妻は「たしかに」と笑う。FNS歌謡祭では倉木麻衣がデビュー25周年であることが紹介されていたのだが、テレビ画面に映る倉木麻衣は25年前のまま、まるで時が止まったかのような容姿をしている。


倉木麻衣がぜんぜん変わらない。老けてない。デビュー25周年だぞ? おかしい。これは辻褄が合わないじゃないか。なので妻に言う。

「倉木麻衣って不老不死なんじゃね?」

こう言うと妻は「不老不死の薬飲んじゃってるのかなぁ」と同調してくれて私は嬉しくて倉木麻衣。

テレビの中の倉木麻衣は私たちの会話なんてどこ吹く風で歌っている。番組内で倉木麻衣が登場する前には今流行りのアイドルが「SNSで9億回再生!」という売り文句で歌って踊って飛び跳ねていた。それで妻に言うのだ。

「おい、さっきのアイドルって25年後も歌ってると思う?」

妻は「いや、ムリだろうね」と笑っている。このあと私が何を言いたいかをわかったようなそぶりだ。なので聞く。

「倉木麻衣って25年ずっと歌い続けてね?」

妻は「たしかに」と笑う。そうなのだ。倉木麻衣は登場以来25年間、ひたすら歌い続けている。倉木麻衣は25年ずっと倉木麻衣をやっているのだ。

このFNS歌謡祭で歌唱を披露しているように、倉木麻衣はほかの音楽番組でも歌っている。倉木麻衣をテレビで目撃するシーンはごく限られているのだけど、おそらく年1回のスパンで私たちは倉木麻衣を目撃している。


にもかかわらずだ。

私は倉木麻衣のことを何も知らない。

これはおかしい。倉木麻衣がどこに住んでいて、どんな食べ物を食べているかを知らない。倉木麻衣がどんな本を読んでいるのかも知らない。配偶者がいるのかも知らない。倉木麻衣を倉木麻衣と呼び捨てにしたくなる理由もわからない。あと「倉木麻衣」って文字を書いたこともない。


これはおかしくないか?


倉木麻衣は宇多田ヒカルと同時期に音楽シーンに登場した。むかしむかしの音楽番組の「HEY!HEY!HEY!」でダウンタウンの浜田さんが宇多田ヒカルに対し「倉木麻衣っていう二番煎じが出てきてるけど、宇多田はどう思う?」みたいなことを聞いていたことを覚えている。なんて失礼なやつだ。倉木麻衣もすげーんだぞ。宇多田ヒカルは「特許取っとけばよかったのかな?」と笑うだけだったような。



さきほど私は「倉木麻衣のことを何も知らない」と書いたが実は嘘だ。倉木麻衣について2つ知っていることがある。ひとつは倉木麻衣が立命館大学の出身ということ。


もうひとつ。


コナンだ。アニメ「名探偵コナン」の主題歌はたいてい倉木麻衣だ。たまにB'zとかになるけど、いつも決まって倉木麻衣だ。


倉木麻衣の名曲「Secret of my heart」のエピソードを私はなぜか知っている。

あの曲もまたコナンで起用されていた曲だが、この曲を作ったときの倉木麻衣は17歳。学校には倉木麻衣であることを秘密にしていたらしい。

クラスメイトから「倉木麻衣に似てない?」と言われても倉木麻衣は「そうかなぁ?」と言っていたらしい。

「Secret of my heart」はコナンと蘭姉ちゃんの関係性にリンクした曲で「私にも言えないことがまだひとつだけある」というコナンと蘭の切ない心情を歌った曲だ。

倉木麻衣が当時「私が倉木麻衣なの」とどれだけ言いたかったかは想像に難くない。まさしく「Secret of my heart」だろう。私ならすぐ言う。


つまりコナンと倉木麻衣は一蓮托生。コナンが流れれば倉木麻衣が流れる。倉木麻衣が歌っているということはそこにコナンがいる。

限りなく必要十分条件に近い。いやちがう。

私たち夫婦は土曜日になるとコナンをテレビで見る。私たち夫婦の日課なのだ。いつも「いやいやコナンよ、そんな事件あるかいな」とツッコみながらあの物語を楽しみ犯人を予想する。

作者の青山剛昌先生はマジでがんばってるなぁと思いながらコナンを見つめる。あの人は本当にすごい。あんな謎解きストーリーをずっと続けてる。続けることのすごさを感じます。

じゃあ、現在時点のコナンのエンディング曲は?

倉木麻衣だ。

みなさんこの直前で「あれ? 倉木麻衣が出てこなくなったな」って思ったんじゃないの?

まだまだいくよ倉木麻衣。


つまり、私たち夫婦は毎週必ず倉木麻衣の声を聴いている。

なのに私たちは倉木麻衣のことを何も知らない。


倉木麻衣がなぜあれほどにコナンとの癒着が強いのかを知らない。宇多田ヒカルがいなかったら天下を取っていたか思うと、そうでもないような気がする。

でも倉木麻衣の声は唯一無二性をもっていて、テレビに映る倉木麻衣は一向に歳を重ねている様子がない。

おかしい。倉木麻衣のプライベートが見えない。そもそも倉木麻衣がしゃべっているところを見たことがない気がしてきた。これはおかしい。声は聴いているのにしゃべっている様子をみた記憶が皆目ないのだ。たとえ見ていたとしても印象に残っていない説すらもある。


悔しいのでYouTubeだ。

「倉木麻衣 インタビュー」と検索してみる。

するとデビュー20周年のときにバカリズムと話している倉木麻衣の動画があった。神秘のベールに包まれた倉木麻衣の正体がわかるかもしれない。


...


見て驚いた。

「結婚している」と言うのだ。

え? そうなの? だれと?

どれどれと思って動画を見続けてみる。


なんだそれ。

かわいいなクソ。倉木麻衣は倉木麻衣と結婚しているらしい。実際のプライベートではしていないんだとか。そうだったのか倉木麻衣。おちゃめだな。


「倉木麻衣が倉木麻衣と結婚している」というのはある種の表現で「アーティスト倉木麻衣としてこれからもずっとやっていく」という決意の表れらしい。


……これって(ゴクリ)。


noteで毎日文章を書く作業に似ている。



倉木麻衣は自分のやるべきことを愚直に続けている。誰でもできることではない。おそらく決意の重さが違う。


倉木麻衣はどんなときも歌を作り続け、ステージで歌い続けている。多くのアーティストが活動を休止する中で倉木麻衣は平成を駆け抜け、今現在も変わらない。止まってないのは倉木麻衣だけではなかろうか。25年ずっと。

倉木麻衣はおそらくこれからも曲を作り、歌を歌い続ける。あの透き通るような歌声で。ずっと変わらず。


これって......すごくないか?


倉木麻衣......マジですげぇ。


<あとがき>
倉木麻衣が変わらないという事実と倉木麻衣のことを何も知らない私が滑稽で「これは絶対おもしろい記事になるぞ?」と思ってトゥイッターで「明日すごい記事を書きます」とつぶやきました。本当は昨日この記事を公開するつもりでしたがなんだかスカしている気がして今日公開することにしました。がんばった。今日も最後までありがとうございました。

【関連】昨日のエッセイは一生懸命書いたの

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?