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100億円を捨てて僧侶になった東大卒の元IT起業家に会ってきた話。

小野龍光りゅうこうさんをご存知だろうか。彼はもともとの名前を小野裕史ひろふみさんといい、数々の有名企業の設立に関わった起業家である。

ところが2022年に突如としてすべての役職を退任しインドで出家(得度)。現在は僧侶となっている意味不明の経歴を持つ方だ。

小野さんは北海道札幌市の出身で現在49歳。彼が設立した企業の中で有名なものを挙げると「17LIVEイチナナそして「ジモティー」がある。

え? あの? そう、あの。

左が小野さん
引用 : テレビFAN


彼は札幌の学力宇宙人たちが通う札幌南高校を卒業。札幌南高校は札幌で最も歴史のある高校であり偏差値は72を誇る。そこから東京大学理学部へ進学、さらにIT起業家、投資家として長きにわたって活躍し年商100億企業を作った。

正直いって住む世界が違う。

引用 : 東洋経済オンライン



個人的には6年前くらいに彼の話を聞いたことがあった。小野さんがまだ出家前の話である。

札幌南高校には強力なOB組織がある。名前を六華りっかの会という。慶應でいうところの三田会である。この六華りっかの会で当時の小野さんが講演をするということで、私は部外者にも関わらずありがたくもご招待いただいた。

当時の小野さんはIT起業家然としていて、ラフなTシャツスタイルで講演内容もおもしろかった。当時の彼は「マラソン」にハマっていて、そのハマり具合は半端なかった。北極と南極をマラソンで走破し本を出版するような具合である。


講演の中で何度も言っていたキーワードは「ノータイムポチリ」である。

これは考えることをやめてその場の勢いに任せてあらゆることに「ポチリ」とボタンを押して申し込んじゃえ、みたいな精神で、映画でいえばジム・キャリー主演の『イエスマン』に近い。

このノータイムポチリを心がけたことにより小野さんは、IT起業家としてだけでなく、広く人生を楽しむコツを身につけた、みたいなことを話していた。

当時の私は28歳とかそのへんで、小野さんは雲の上のそのさらに上の人に思えた。だから講演がおわったあとに個人的に話しかけることもできなかった。あまりに遠すぎて。

引用:logmi Bizより


そんな彼が2022年にインドで出家した、というニュースをみたときは我が目を疑ったが妙な納得感もあった。おそらくこれもまた「ノータイムポチリ」をしたのだろうと思ったのだ。

ここまで書いてわかるように、彼の経歴は異色そのものだ。エリート街道をひた走りながら億を稼ぎ出し、世の中に価値を提供。プライベートではノータイムポチリでマラソンジャンキーになり各地で講演。すべてが満たされているように見える。

しかしインドでの謎の出会いにより突如すべてを捨てて出家。つまり資本主義の螺旋を降りたのである。


ちょっと前までは「ITが〜」とか「投資家として」とか、なんなら「宇宙が」と話していたのに、飛躍がすごすぎる。当然メディアもそんな彼をほってはおかず、NewsPicks、PIVOT、ReHacQ、マツコ会議にも出演している。

引用:マツコ会議
こんなに変化してる
(引用 : 文春オンラインより)


彼はいま小野裕史ひろふみという名前を捨てて、小野龍光りゅうこうとして生きている。同じ札幌出身の人間としてとても気になる存在だ。

機会があるのならば会って話してみたい。なぜ出家したのかも聞きたいし、何を考えているのか聞いてみたい。



というわけで会ってきました。

誰に? 龍光さんに。

どこで? 札幌駅南口で。

いつ? 今朝。


きっかけは龍光さんのトゥイッターである。


龍光さんが札幌にいる!? しかも朝8時30分から11時45分まで札幌駅南口にいるだと? それも「ポカーン」と? 

これは会いにいくしかない。それこそ「ノータイムポチリ」だ。話を聞きにいこう!

というわけで朝起きた私は、身支度を整え、急ぎ自転車を札幌駅南口に向けて走らせた。快晴の札幌である。




札幌駅南口に行ってみると......


マジで龍光さんがいた。


孫悟空の胴着みたいな色の袈裟を着て、南口の外のベンチでなにかの本を読んでニコニコと佇んでいるではないか! 

よし! 話しかけるしか! ない!



「あ、あの〜、龍光さん」

「あ、はい(ニコニコ)」

「トゥイッターを見てここにきました。イトーといいます。おとなりよろしいでしょうか?」

「(ニコニコ)」

「な、なんかすみません」

「ええ、どうぞどうぞ。座るところがちょっと濡れてますがどうぞどうぞ」


龍光さんは手に持っていた文庫本を置いて話を聞く体勢になってくれた。札幌駅南口は人がたくさん通る。しかも時間は朝8時30分すぎだ。ちょうど通勤の時間である。

謎の袈裟を着たツルツル頭の龍光さんと私の共演に、道ゆく人の「な、なんだこいつら?」という視線を感じる。

周りの目など関係ない。よし、今を生きよう。



「龍光さん、私、実は5年ほど前に六華の会で講演を拝聴したことがございまして。私、札幌出身で札幌で事業をやっているのですが……なんかしゃべりたいなぁと思って今日まいりました。……あの、ちなみにいま、なんの本を読まれてたんですか?」

「なんとそうですかそうですか。今読んでいたのはですね『ダライ・ラマ自伝』ですね」

「ダ、ダライ・ラマですか。なんかすごいですね」

「いえいえ(ニコニコ)」


さて、ここから約30分にわたって龍光さんのお話を聞いた。特に印象的だった5つをピックアップして紹介したい。


Q.1「龍光さん、なぜ出家したんですか?」


「あの〜龍光さん、いろんなところで聞かれてるかもしれないんですが、なぜ出家を?」

「そうですね。数字を追い求めることがイヤになったんです。まあ逃げたと言ってもいいと思います。資本主義社会の中で私たちはどうしても豊かさや利便性を求めてしまう。それは悪いことではないのですが、そこに対する違和感みたいなものがずっとありました」

「い、違和感……ですか?」

「ええ、そうです。経済活動をおこなうことでそれが結局自然環境を破壊したり、動植物を絶滅させてしまったり。おかしな数字偏重主義が結果的に地球と人間を苦しめているのではないかと思ってたんですね」

「ほえ〜」

「それでインドに旅行に行ったんです。そこで出会った僧侶に『You、なにか悩んでるね』と見抜かれちゃいまして。で言われたんです。『You、出家しちゃいなよ』って」

「え、それでぜんぶ捨てて出家を?」

「ええ、そうです」

「まさにノータイムポチリですね」

「ええ、ノータイムポチリです」


Q.2「龍光さん、悩む人ってなんで悩むんですかね?」


「龍光さん、現代って悩みがつきないじゃないですか。心が痛いとか体が痛いとか、あの人と比べて自分は劣ってるだとか。これってどうすればいいと思われますか?」

「う〜ん、そうですね。悩んでるときというのは、悩みに集中しすぎているのだと思います」

「集中しすぎている?」

「ええ、たとえばお腹が空いたときはお腹が空いてることしか考えられなくなりますよね。あとは腕が痛いとかそういうときもありますよね」

「ありますね」

「集中しすぎているんです。悩みに。なので考えない。たとえお腹が空いているときも他の何かに集中すると、空腹を忘れることってありますよね」

「たしかにありますね」

「ええ、なので他のことをやる。私の場合は瞑想になるのですが瞑想はいいですよ。鼻の呼吸に意識を集中させるんです。鼻腔は脳に特に近いですからここの空気の流れを感じるんです。そうすると全身に意識が集中できるようになる。雑念が消えるというわけですね」

「ほえ〜」

「それから適度な運動もいいでしょう。走っているときや散歩しているときは、それ以外のことを考えなくなります。たいていのことは考えてもしょうがないことですから、意識を分散させるのがいいかもしれません」

「意識の分散。てことは何かひとつに集中するのではなく、行動も分散させるといいんでしょうか?」

「ええ、まさしく。ひとつのことだけを考えると疲れますから、まったく別のことをする。これで多くの悩みは消えると思いますよ」

「なんかすげぇ〜」



Q.3「龍光さん、悩みないんですか?」


「え、ということは龍光さんって悩みないんですか?」

「実は少しはありますよ笑」

「え、そうなんですか?」

「ええ。私は承認欲求がすこし強いほうなので、認められたいとか、褒められたいとかそういう悩みみたいなのは正直ありますね」

「そうなんですね。ネット上で叩かれたりすることもありますか?」

「大いにありますね笑。たとえば『なんちゃって坊主』とか『やった気になってる野郎』とか言われたりすることもあります笑」

「そういうときはどんな気持ちで?」

『ありがとうございます』と思うようにしています。人には役割があるんです」

「や、役割ですか? どういうことですか?」

「どなたかのフラストレーションのけ口に私がなっているということですね。たとえば多くの方はストレスが溜まると、お酒を飲んだり、体を動かしたりしてストレスを発散しようとしますでしょう?」

「ええ、そうですね」

「しかし、それができない方もいらっしゃるんです。でもどこかに感情の吐き出し口を探している。そういう方がネット上でたまたま私を見かけて『こいつになら何を言っても大丈夫だろう』ということで、言葉を浴びせるわけです」

「なるほど〜」

「つまりそれは、だれかのストレスの捌け口に私がなれている、ということですから、それはもう役割を与えてくださって『ありがとうございます』ですよね」

「それは悟ってますね〜」

「いえいえ〜」



Q.4「龍光さん、SNSとはどう付き合えばいいですか?」


「龍光さん、実は私ですね。事業とは無関係で毎日エッセイを書いて投稿してるんです。ありがたいことにすこしなんですが読者様もいらっしゃいまして」

「おぉ、それはすばらしいことですね。きっとコメントで『エッセイを書いてくれてありがとう』とか言われたりされるんじゃないですか?」

「ま、まさしく。それはそれでありがたいのですが……」

「ええ」

「ですがSNSですので、それこそ数字偏重主義であるとか、承認欲求とどう向き合うかみたいなことがあるんです。そのあたりって龍光さんどう思われますか?」

「ありますよね。わかります。しかし承認欲求は人間の本能なんです。人間は群れの中で生きる動物ですから、コミュニティの中で認められたいと願うのはこれ本能です。本能を捨てて生きることはとても難しいですよね?」

「そうですね、寝たいとか食べたいとかの本能は捨てられないですもんね」

「そういうことです。同じようにモテたいとかチヤホヤされたい、というのも本能ですが完全に捨て去ることはできません。仕方のないことですから、それとどううまく付き合うかが大切ですね」

「そっか、承認欲求が本能だと考えると少し楽になりますね〜」



Q.5「龍光さん、どうやったら幸せになれますか?」


「龍光さん、これは抽象的な質問になるのですが、人間ってどうやったら幸せになれるんでしょうか?」

「幸せですか。それはちょっと頭でっかちな話になってはしまうのですが、科学の話をしてもいいですか?」

「は、はい、お願いします」

「たとえばSNSでフォロワーが増えたとか、投稿したものにどれだけの反応があったとか、会社で売り上げをいくらやったとか、そういうもので幸せを感じることってありますよね」

「あ、ありますね」

「これって脳の快楽物質でいうと『ドーパミン』が作用しているんです」

「ドーパミン、ですか」

「ええ。ところがこのドーパミンは厄介で『もっともっと』となるんですね。わかりやすいのはドラッグです。とても気持ちのいいものとされていますが、あれは『もっともっと』となりがちですよね」

「そうですね」

「SNSにしても事業にしても、数字などを追い求めて得られる幸せはドーパミン的な幸福感です。しかしこれでは長くはもちません」

「で、ではどうすれば?」

「はい、そこで出てくるのが『オキシトシン』です。聞いたことがあるかと思いますが、オキシトシンにはドーパミンと同じ幸福作用があります。たとえばですね」

「はい、お願いします」

「たとえばイトーさんがブログを書くとコメントで『ためになりました』とか『エッセイを書いてくれてありがとう』みたいなものがありませんか?」

「あ、ありますね。書いてよかったという気持ちになります」

「それ、オキシトシンなんです。そういうコメントがきたときって、胸の奥がじんわりとあたたかくなるような、そういう幸福感がありませんか?」

「あ、ありますね!」

「そうなんです。しかもドーパミンとちがってオキシトシンの幸福感は長持ちします」

「なるほど!」

「なので、ドーパミン的な幸福感よりも、オキシトシン的な幸福感が大切なんですね」

「おぉ! 理解できるような気がします! じゃあ龍光さん、オキシトシン的な幸福感ってどうやったら得られるんでしょうか?」

「はい、誰かのためになることをすることです」

「ゴ、ゴクリ……」

「自分が自分がと思って前に出るとですね、周りからも冷ややかな目で見られますし、なにより疲弊します。なので誰かのためになることをする。この意識があればいいといえるかもしれませんね」

「りゅ、龍光さ〜ん!!!!!」


引用:NewsPicks


と、いうわけで札幌駅南口に佇む龍光さんに会うことができた。しかも30分も話を聞けたぞ。朝からなんだか幸せな気持ちになれた。

個人的にはたくさんのヒントが得られた気がする。龍光さん「なんちゃって坊主」って言われても笑ってたなぁ。

あの境地にいけるように私もがんばろう。


この今朝の話を私の中だけでとどめてもいいのだけど、これはきっと誰かにも伝えたほうがいい気がして急ぎこの記事をダーーーーっと書いた。

それこそこの記事が、読んでくれた誰かのためになれば、私の脳内はオキシトシンで満たされることと思う。


<あとがき>
龍光さんは結婚をしてらして、奥様がまた理解のある素晴らしい方みたいなんですよね。限られた時間の中でほかにも様々なお話を伺ったのですが、どれもこれもおもしろくて、会いに行ってよかったなぁと思いました。龍光さんは今日札幌を発って明日以降は福岡にいらっしゃるらしいですよ。会いに行ってみてください。今日も最後までありがとうございました。

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