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もののかたち

いま見えているものには「かたち」がある。

かたちがあるから

ものとして認識でき、

手にとって触れて感じることができる。

そして、感じたことは記憶に残る。

見て触れた肌触りや質感や

雰囲気やその時の匂いや音などの

情報が、記憶として残る。

でもその「記憶」は、

自分だけしか分からないものであって、

同じものを見ても、他人には違う感じ方で

記憶として残っているわけで、

自分と全く同じ記憶は

他人と共有することができないものなのだ。

そうすると、

私が見た「もののかたち」の記憶を

言葉で伝えるしか方法がない。

しかし、他人に伝えようと

言葉にすればするほど、

感じた感覚と隔たりを感じて

自分が嘘を言ってるように思ってしまう。

言葉を使えば使うほど、

そのもののかたちから離れていって

別の何かを説明してしまっている

のではないかと不安になる。

言葉で伝えることが難しいのであれば、

絵を描くという伝え方がある。

しかし、描いてるうちに

最初に思い描いたそれとは

大きく違うこととなって、

記憶を頼りに絵を描くと

不確実なものばかりで、

自分でつじつまを合わせるために

結局は嘘を描いているように感じてしまう。

そのうち、自分の記憶の中で

何が本当で、何が嘘かさえ

分からなくなってくる。

「もののかたち」を

見て触れた肌触りや質感や雰囲気や

その時の匂いや音などの記憶さえもが、

考えれば考えるほど、

記憶の中で曖昧なものになってしまう。

そこにある「もののかたち」でさえ、

他人に正確に伝えることができない

という現実があることに気付かされたのだ。

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作品:「記憶のかけら」ミクストメディア/板
きはらごう

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