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音楽ゲーム『SOUND VOLTEX』のデータアナリストって何するの? 1st Track

※注意書き

 この記事では、音楽ゲームないしは『SOUND VOLTEX』に関する用語が多く含まれます。また、IT業界におけるデータアナリストとは意味が異なることにご注意ください。


1. はじめに

自己紹介

 こんにちは。
 TAITO STATION Tradz SOUND VOLTEX部門 データアナリストの『キギル(kigil)』です。

 『BEMANI PRO LEAGUE -SEASON2- 』という音楽ゲームのプロリーグの『SOUND VOLTEX』というタイトルにて、TAITO STATION Tradz所属選手のサポートをしていました。

 TAITO STATION Tradzでのデータアナリストはアドバイザーとは異なりPR活動のサポートよりも戦略立案支援に重きを置いたポジションになります。他チームではデータアナリストという肩書で活動している方はいませんが、アドバイザーが戦略立案の役割を担ったりや選手自らで完結したりするパターンなど様々あると思います。




記事を書くに至った背景と概要

 いきなりですが、SOUND VOLTEXないしは音楽ゲームをプレーしている方々は「データアナリスト」という文字列を見たとき、こう思いませんでしか?

「ぶっちゃけ音楽ゲームで何を分析するの?」

 実際、自分がデータアナリストをやってることを知り合いに話すとかなりの頻度でこれを聞かれました。また自分自身、データアナリストとしてBPLに関わるまでそう思っていました。

 自分がまず1つ、分析の障壁として懸念していたのは「ゲーム&公式サイト内で情報非公開設定にしているプレイヤーの自己ベスト(EXスコア)を知る手段がない」ことです。これは音楽ゲームの対戦において重要である『対戦相手の得意/苦手傾向の分析』を難しくしています。

 一方で、BPLの他部門の対象機種である『beatmania IIDX』では筐体上に表示される自己ベストを非公開にする手段がなく、ライバル登録さえしてしまえば対戦相手の自己ベストを確認することができます。それと比較してSOUND VOLTEXでは分析の幅が大きく狭まる印象を受けていました。

 しかし、実際にチームに入ってみると戦略立案面でサポートできることは山ほどありました。



 

 そこで今回はデータアナリストの活動に対する疑問解消の手立てとして、
また備忘録も兼ねて、シーズンも終了した現在(2023/4/2)までの活動内容を綴ってみることにしました。
 
 …と言いつつも後日公開予定の『2nd Track』の記事を含めて活動内容についてが50%、BPLにおける様々な背景や想いを語るのが50%くらいになると思います。また、今後もデータアナリストとして活動する可能性があることから、一部の詳細な活動内容は伏せておきます。

 そして、あくまで戦略立案のサポートやマネジメントに限った内容であり、アドバイザーとしてのPR活動やイベント企画などは本記事に含まれていないことにご注意ください。

 2,3章はSOUND VOLTEXとBEMANI PRO LEAGUEの概要を軽く述べ、4章でデータアナリストになった経緯、5,6章でレギュラーステージまでの活動について触れます(こう書くと論文みたいですね)。

 ファイナルシーズン以降の活動は『2nd Track』に記載します。


2. SOUND VOLTEXとは

 SOUND VOLTEXとは主にゲームセンターで展開されているKONAMI提供の音楽ゲームです。2012年1月18日から10年以上稼働し続けていますが、KONAMIの音楽ゲームの中ではそこまで古株ではないです。

 TAITO STATION Tradz所属選手の『WANIROU』がYouTubeチャンネルで公開している『SOUND VOLTEX初心者講座』を見てみてください(0:43から概要の説明があります)。


3. BEMANI PRO LEAGUEとは

 BEMANI PRO LEAGUE(以下BPL)とは同じくKONAMIが主催するeスポーツのプロリーグです。SEASON 2では対象タイトルが『beatmania IIDX』、『SOUND VOLTEX』、『DanceDanceRevolution』の3機種で、それぞれのタイトルで計8チームがプロ選手と契約し優勝を目指します。

 なお、リーグは以下で構成されています。詳しくは公式ページをご参照ください。

https://p.eagate.573.jp/game/bpl/season2/sdvx/about/regulation.html 引用


4. 所属までの経緯

プロテストには応募せず

 最初に述べておくと私は全チームのアドバイザーの殆どの方とは異なった所属経緯です

 BPLの選考テストにおいて、面接試験もしくは実技試験で不合格になってしまったプレイヤーのうち、希望者はアドバイザーとしてチームオーナーに紹介されます(引用元)。そのようなルートでアドバイザーになるのが一般的です。

 自分もBPLS2でSOUND VOLTEXが対象タイトルになると告知されたとき、選考テストに応募するぞ!と最初は意気込んていました。しかし、時間が経つにつれて「選手に求められるレベルの実力」「アドバイザーに求められる情報発信意欲」のどちらも不足しているという自覚が増していき、応募する勇気がなくなってしまいました。何とも意気地なしで苦い過去です。

 そしてプロテスト期間が過ぎ、各チームがドラフト会議に備え、選手候補の情報を得るためにアドバイザーを雇っていきました。それから間もなくしてドラフト会議が行われ、各チームが選手と契約し、知人が何人かプロになっていたのを微笑ましく見守ってました。それが2022年9月のことです。




謎の対戦モード「メガミックスバトル」

 ドラフト会議から1ヶ月後の2022年10月、先程紹介した『WANIROU選手』からとある相談を受けました。彼は大学時代からの友人でSOUND VOLTEXをほぼ同時期に遊び始めた仲です(余談ですが彼は当初から上達速度がイカれてました)。

 相談内容は「『メガミックスバトル』の仕様を分析して欲しい」というものでした。『メガミックスバトル』とはSOUND VOLTEXに実装されている特殊な1vs1の対戦モードです。初めてこのモードが実装されたのはSOUND VOLTEXの『EXCEED GEAR』という現行バージョンでそれ以前のバージョンでは似たようなルールで『AUTOMATION PARADAISE』というものがありました。

 音楽ゲームの対戦形式は一般的に1曲ごとのスコアの優劣を競いますが、このモードでは計12ターンの各スコアで勝敗が決まります。バトル前にお互いに5曲選択し、さらにその中からランダムに選ばれた1曲ずつを追加した計12曲を使います。各ターンに1曲が割り当てられるのですが、そのターンに1曲丸々プレーするのではなく切り取られた「特定のフレーズ」で勝負します。

引用:https://p.eagate.573.jp/game/sdvx/vi/howto/megamixbattle.html

 このモードはこれまでSOUND VOLTEXにおいて一種のおまけ要素の扱いでしかなく、また公式ページにも詳細なルールが載っていないためBPL開幕時点では誰もルールを熟知していないといっても過言ではないと思います。

 しかし、BPLのSOUND VOLTEX部門では先鋒戦にてこのモードで競うことになり、各チームはメガミックスバトルの詳細な仕様について調査を進めていたと思います。また、先鋒戦は点数配分的に重要なマッチです。




初めてSOUND VOLTEXを分析

 声がかかったとは言いつつも、それはチーム所属のお誘いではなく友人としてのお願いでしかありませんでした。WANIROU選手も半分冗談で頼んだのだと思っています。

 ですが、WANIROU選手のことは友達としてこれから応援してようと思っていたこと、そして何より自分が得意とするデータ分析の相談内容だったことから言われたことを真に受けてメガミックスバトルを調べ尽くしてやろうと意気込みました。

 そこから仮説を立てて分析方針を決め、何回かメガミックスバトルを録画してその映像から検証しました。すると、これまで明らかになっていなかった仕様が幾つも見つけることができました(負けているときにEGゲージが多くもらえる等)。それと同時に、SOUND VOLTEXを分析すること対して面白さを見出し、自分の中で完全にスイッチが入ってしまいひたすら分析していました。

 調べた結果をWANIROU選手に報告したところ「よくこんなにやる気になったね」と若干引かれた記憶があります。




チーム加入の決定

 その後、WANIROU選手から今度はチームに加入しないかというお誘いが来ました。理由は2つでした。

  1. チームに所属しないと得られない情報を使ってより詳しくメガミックスバトルの調査をして欲しいから

  2. データ分析する人や選手のスコアデータの管理などマネジメントをする人が不足していたから

 一般人としてBPLを楽しみたいと欲望がありつつも、音楽ゲームの分析屋として関われる機会は滅多にないと考え、加入することを決意しました。

 しかし、依然としてアドバイザーに求められがちな情報発信の意欲はあまりありませんでした。そのため、チームオーナーと話をするときに「PR活動のモチベーションはあまりないのでごめんなさい」と頼みました。それに関しては「慣れていけばいい」という形で承諾を得ました。

 こうして私は正式にTAITO STATION Tradzに加入することになりました。


5. レギュラーステージまでの活動

メガミックスバトルの情報収集

 ここからレギュラーステージでの私の活動を振り返ります。メガミックスバトルの情報収集で自分が取り組んだことは以下の通りです。


1.メガミックスバトルのルールを調べ、戦略を考える。

 引き続きメガミックスバトルの詳細なルールを調査していました。そして調べた結果に基づいてTradzのメガミックスバトルでの戦略を立てました。

 メガミックスバトルは戦況に応じてEXCEED GEARゲージの獲得量が変動するため、その性質上展開の分岐パターンが多いです。また、ゲームスピードが早いため選手が曲と曲の間で最適な戦略を考える余裕はほとんどないです

 そのため、選手と簡易的な戦略を組み立ててなるべくプレーに集中できるようにしました(戦略の内容は秘密です)。




2.各曲で流れるフレーズを調べ、スプレッドシートにまとめる。

 メガミックスを課題曲を一通りプレーし、各曲でどのフレーズが流れるのか調べました。というのも、先に述べた「特定のフレーズ」はほとんどの曲で一意に定まるので、どのフレーズが来るか知っておけば試合中に譜面を暗記した状態でプレーできます

 そこで、自分はメガミックスバトル対象曲を全てプレーし、どのフレーズが来るかスプレッドシートにまとめました。このことで選手たちはメガミックスバトル対象曲を座学でき、プレーせずに暗記したり振り返りができるようになりました。

 加えて、私の主観で要対策の曲や暗記する必要のない曲に振り分けて、なるべく選手の練習量を減すようにしました。最終的には選手3人にそれぞれの主観でつけてもらうことにはなりましたが、その際にもプレーしてみないと分からない難しさを持つ譜面をインプットさせました。




3.選手と一緒に練習する。

 これは情報収集ではありませんが、選手の練習相手になるために一緒にメガミックスバトルをプレーしたりしてました。

 …といっても私+アドバイザー2人と選手とでは天と地ほどの実力差があるので緊張感のある練習には全くなりませんでした。ただ、メガミックスバトルは1人でプレーしても自分の選曲しかできないため2人でプレーする場合の半分しか練習できないのでそれを補う意味で一緒に練習してました。


 

 以上がメガミックスバトルにおける活動です。おそらく選手と同じくらいメガミックスバトルをプレーしたと思います。


スコアデータの管理

 選手のスコアもスプレッドシートにまとめて管理していました。といってもシート自体はbeatmania IIDX部門で活動していた、実は大学の後輩でもあるやかん君が作ってくれたので大してメンテすることもなかったです。見やすくするための改良や選手に使い方を教えたくらいです。

https://twitter.com/yakan_iidx


対戦相手の分析、選曲予想

 週に1回、選手とアドバイザーが集まる定例の場で課題曲リストを見て対戦相手はどの曲が得意そうか、どの曲を選んできそうか話し合いをしていました。正直この頃の自分は途中からチーム参入していたことが原因で選手の情報をキャッチアップできていなかったのでほとんど会話に入れませんでした。これはレギュラーステージの大きな反省点です。


6. レギュラーステージの結果を受けて

 ネタバレを防ぐため内容はなるべく伏せますが、レギュラーステージは8チーム中6位(6位以上で通過)とギリギリセーフな結果でした。

 この結果になったとき内心ホッとしつつも悔しい思いの方が遥かに強かったです。データアナリストとしてできそうなことがまだ沢山あったのに、自分の中で勝手にそれをやることの意味があるのか考え込んでしまって結局やらずじまいになったことがいくらでもあったからです。

 相手が選曲する曲のヒントがすぐ近くに埋もれていたかもしれない。自チーム・相手チームの戦力をより具体化して勝つ可能性が高かった選曲・オーダーに誘導できたかもしれない。もっと効率良く選手が練習できるように配慮ができたのかもしれない。あらゆる可能性を検討して仮説を立てたことをまともに分析しないで放棄していたので正直データアナリストとして失格でした。

 もし、レギュラーステージで敗退していたら選手に顔向けできなかったです。選手の方がもっと勝つために考えて、葛藤をして、努力して、辛い思いをしているはずなのに、自分が手を動かせなかったのはそれを見て見ぬ振りをしていたからだと思います。選手の苦労をちゃんと理解していたらやらなくていいや、なんてことにはならないはずです。とにかく色んな後悔が渦巻いていて自分の詰めが甘かったのだと自戒しました。

 クォーターファイナルからは1回負けたら即敗退ということを常に頭に入れ、後悔が生まれないように少しでも勝ちに繋がりそうなことは全てやり尽くそうと強く決意しました。


7. 次回予告

 ここまでがレギュラーステージでの取り組みの振り返りです。クォータファイナル以降のお話は『2nd Track』 に綴ります。内容の予告になりますが、

  • データに基づく対戦相手の得意/苦手傾向の分析や対戦相手の選曲予想

  • 対戦相手のオーダー予想と自チームのオーダー・勝ち点獲得プランの立案

  • 選手練習曲の設定

 このあたりを中心に語ることになると想います。おそらく、かなり具体的な話に偏ってしまいますが、BPLS2を見ていない人は見てくださいもなるべく分かるように書くように努力します。

 以降はBPLS2 SOUND VOLTEX部門をすでに視聴した人向けの裏話的な内容になります。Tradzラジオで話した内容と被りますが、もう少し深掘りしているので気になる人は読んでみてください。

 では。


おまけ:試合の裏話

みそビーム発射にいたるまで

 レギュラーステージ初陣は村上さんが病欠になってしまい、みそびとわにろうの2人で臨むことが決まったのが収録の2日前くらいだったと思います。そして欠場時の対応の都合上、本来出る予定のなかったみそびが先鋒のメガミックスバトルに出ることになりました。

 当然ながら彼は選曲が決まっていないことはおろか、全くルールを知らない状態でした。しかし試合までの時間はかなり限られていたので、収録前日に自分とわにろうの2人の独断と偏見により「この曲みそび上手いでしょリスト」を作成しました。そのリストから厳選されたのがあれです。

あれ(https://www.youtube.com/live/D-r-ub05quU)

 リストの中からこの5曲を選んで貰い、あとは事前に練っていたメガミックスバトルの戦略をインプットさせて送り出しました。そして本番、Divine's:Bugscriptの24分トリルを全ピカさせ(みそビーム)たり、まさかあそこまで接戦したりすることになるとは思いませんでした。。。

 この試合は視聴者にとってみそびの圧倒的なフィジカルの強さを知らしめた印象的な試合になったと思います。同時に、チームとしては尖った強みを持った選手であればメガミックスバトルはほぼ練習なしでも十分戦える、ということを知れたのが大きかったです。ファイナルまででメガミックスバトルの出場回数がチーム内でかなり分散しているのはこのためです。




Lisa-RICCIA事件

 同様にしてレギュラーステージ2戦目も村上さんが欠場になったので本来わにろう&村上で出る予定だった中堅の自選曲を急遽決めることになりました。またしても当然、みそびは中堅の課題曲をほとんど詰めていなかったので、みそびとわにろうどちらもスコアが高い曲に絞ることになりました。それで残ったのが「Lisa-RICCIA [EXH]」「Avalanx [EXH]」だったと思います。

 そこからは議論してもなかなか決まらなかったのでチーム内で投票することになりました。その結果、「5-1」「Lisa-RICCIA [EXH]」になりました。

 そして中堅の試合結果は敗北でした。対戦相手のAPINA VRAMeSのPAPER.選手とYU11選手が対策していないという読みに関しては当たっていましたが、見事に対応されてしまいました。

 Lisa-RICCIA [EXH]は課題曲の中でもかなり平坦な譜面(でもなぜかPEAK)であるため、いわゆる単発勝負でした。この結果を受け、チーム内では以降の試合では『なるべく難所を有する譜面で攻めること』をするように意識が変わったと思います。その結果、チーム内の打ち合わせにて、比較的簡単な曲を自選曲にしようとするたびに「それ、Lisa-RICCIAじゃね?」みたいな空気になりました。それが結果として功を成したのかどうかはよくわからないです。

 ちなみに唯一「Avalanx [EXH]」に投票したのはみそびです。やはり鬼才か。




タイフーン村上

 レギュラーステージのインターリーグ戦、村上さん初の先鋒戦メガミックスバトルを担当することになり、とりあえず自選曲を探してもらうことになりました。まず、課題曲を1曲ずつ見ていき村上さんに自選候補になりそうな曲のチェックリストを作ってもらいました。そのうちの1つが「Typhoon Craaash!!」でした。

 次に練習でチェックした自選候補をプレーしてもらいましたが、「Typhoon Craaash!!」はなんとほぼ毎回S-PUCと異常すぎるスコアを出していました。明らかにヤバすぎてこれは絶対自選曲だろ、と思っていました。

 が、翌日チェックリストを見たら「Typhoon Craaash!!」のチェックが外されてました。村上さんに聞いたら「いやぁ、これはあまり差つかないでしょ~」と言われてしました。一瞬、村上さんが言うからそうなのか…?となりましたが、気を取り直して「勝手に消しちゃだめです、これは入れるべきでしょう」と自分が強引にリストに戻しました。

 そのまま本番の自選曲に入り、そして見事本番でもS-PUCを決めたときは「あのとき無理通しておいて良かった~」となりました。また、この出来事は他チームに村上さんの本番力、安定感を知らしめた瞬間になったと思います。

https://www.youtube.com/watch?v=TI47ddajr18

2nd Trackに続く…

Name: キギル/kigil
Twitter: @kigil_stn



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