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書物の転形期:和本から洋装本へ

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このエッセイでは日本で洋装本が登場してから定着するまでの時期、すなわち十九世紀後半から二十世紀初頭までを対象として、書物の技術と当時の新聞広告や目録の記述などとを照らし合わせつつ…
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2021年4月の記事一覧

書物の転形期07 洋式製本の移入4:共立学舎による米国版教本の模倣

尺振八と共立学舎  鈴木徳三「明治期における『ボール表紙本』の刊行」(『大妻女子大学紀要 文系』24号、1992.3)は、「ボール表紙本の創始」として、ともに1872年刊の『国立銀行条例 附成規』、『傍訓英語韵礎』の二書を挙げている。しかし、「ボール表紙本」という呼称は後世のものであり、1872年当時はこれが洋装本の一様式として認識されていたわけではない。「ボール表紙本」という様式が認知されていく過程は後にまとめてふれることにして、ここでは「ボール表紙本」と見なされるような製

書物の転形期06 洋式製本の移入3:米国の教本と「工業的な書物」

米国の教本とその輸入 19世紀欧米の書籍産業は近代的産業に変貌していく。製紙は機械化され、印刷機も世紀の中頃には蒸気機関で稼働するようになった。製本も例外ではなかった。綴じ付け製本による自家製本から、表紙・背と印刷本体とを別々の工程で作り、最後に本体に表紙・背を被せて接続するくるみ製本(case binding)による版元製本への移行が進んだ。大貫伸樹『製本探索』(印刷学会出版部、2005、13p)は、「綴じ付けずに済ます「くるみ製本」の発明は生産効率を大幅に高める」と指摘し