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書物の転形期:和本から洋装本へ

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このエッセイでは日本で洋装本が登場してから定着するまでの時期、すなわち十九世紀後半から二十世紀初頭までを対象として、書物の技術と当時の新聞広告や目録の記述などとを照らし合わせつつ…
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2020年4月の記事一覧

書物の転形期03 出自から形へ2

「洋本」「和本」 洋装本の登場によって、初めて広告や目録に書型とは異なる書物の形が記載されるようになった。その新しい形が「西洋仕立」といった「西洋」を冠した言葉によって記されたことによって、それまで「日本」で流通していた書物の形もあらためて名称化される。 市岡正一編輯 ○漢語挿入/新選玉篇  日本仕立上下二冊○西洋仕立一冊○金二円五十銭(中略) 出版書林 甲府常盤町四番地    内藤伝右衛門 売弘支店 東京神田豊島町三丁目 山添栄助 (『東京日日新聞』、1877.6.1)

書物の転形期02 出自から形へ 1

出自としての「和本」 書物の外形をあらわす「和装本」という言葉は、もちろん「洋装本」と対になる言葉で、それ以前は「和本」だった。「和本」という言葉も今では「和装本」と同様にその書物の形を意識して使われることが多い。しかし、「和本」は江戸時代の出板目録(注:江戸時代は板木を用いるためここでは「出板」と記す)では書物の形を指してはいなかった。書物の形の違いが強く意識されるようになるのは「洋装本」登場以後である。その意識の変化を当時の人々の個人的なレベルで確認することは今のところ難

書物の転形期01 はじめに:和本から洋装本へ

 日本の印刷・出版は、19世紀の後半に大きな変革の時期を迎えた。活版・銅版・石版といった印刷技術が登場し、その技術が新聞・雑誌といった新たなメディアを可能にし、新たなメディアの登場に合わせて出版のシステムや法律も大きく変わった。そして印刷物のパッケージとしての書物も、19世紀前半までの和本を中心とした製本様式から、それ以後現代まで続く洋装本を中心とした製本様式へと大きく転換した。文字通り「書物の転形期」である。  この外形も構造もあまりに異なる二つの製本様式間の移行には、複