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インディゴの気分〜本当の別れ〜

久住くんか、
結局お前は男を選んだ。

俺は、お前を選べなかったのに。
木島、お前も俺を選べなかったんじゃないのか

あのとき、お前が俺の言葉を遮らなかったら。

まだ関係が続いているときに、ちゃんとお前が必要だと言えていたら。

照れくささとプライドと常識が、俺にお前への気持ちを言葉にさせなかった。

だけど、それは仕方がないことだと思っていた。
お前も男である俺を選べなかったと。


しかしどうだ。
お前はいっちょ前に久住くんとお付き合いを始めたと報告してきたじゃないか。
俺は動揺を隠せなかった。

じゃあなんで、、

じゃあなんで俺じゃなかったんだよ。


お前が欲しかったのは俺だったはずだ。

俺が欲しかったのも。




つらつらと出てくる言葉とは裏腹に
頭の中は嫉妬と喪失感で堪らなかった。


「お前、久住くんの話するとき顔がニヤけてんぞ。」


俺にそう言われてさらに頬を緩めるこの男を
このまま何もなかったかのように帰すのか。

俺への当てつけであってくれと
心の底で期待していた自分を殴りたい。

もう本当に木島を失ってしまったのだと。





お前が会いたいといえば会いに行った。

お前が抱いてほしいといえば抱いたのに。


お前が俺を好きだといえば、
俺も同じことを返したはずだ。


でもお前は皮肉やはぐらかしの言葉ばかりで、、



だから俺はお前を諦めたのに。




酷いやつだよ。
お前は。



そうやって、俺をまた試すのか。
酔って俺の肩に寄りかかって、
俺がどうするのか見ているんだろう。

この唇が重なれば、またお前と一緒に居たくなる。お前が欲しくなる。
久住なんてやつ忘れさせてやりたくなる。
妻や娘にも合わせる顔がなくなる。

でもこのまま、そうしたいと心の奥で叫んでいるんだ。

あの頃のように少しずつ、木島の唇に近づいていく。

木島が寸前のところで目を覚ます。


「ごめん。・・・ほんとにごめん。」


うるせぇ。
ふざけんな。


まるで俺が襲ったみてぇじゃねぇか。


明らかに目が泳いでんだよ。


なんで、、大事なところでいつも。


お前は俺に決めさせてくれないんだ。


こんなに、、胸が苦しいのに。
いつまでも燻って、、燻り続けて、、




「城戸くん。・・・まーたーね。」
タクシーを降りて、わざわざ俺の座席の窓を開けさせてお前が言う。


まだ俺を開放してはくれないんだな。



別れのあと俺は突発的にタクシーを降りて、木島を目で追う。


あいつがボロアパートの階段を上がって、
呼び鈴を鳴らす。

中から出てきた久住くんとやらは
木島を見て早々、迷いもなくあいつを抱きしめる。
強く。長く。とても会いたかったと言わんばかりに。


木島の顔は見れなかったが、幸せそうだった。
きっと俺には見せない緩んだ顔を見せているのだろう。


迷いもなく、なんの躊躇いもなく
あいつはあいつを受け入れてもらえたのだ。

それが一番幸せだろう。


そうだ。
そのはずだ。



あいつのことは俺が一番知っている。


だから、今日は
そのまま帰ることにするよ。


俺は俺の家族を大切にするから。
お前は、お前をまっすぐ愛してくれるやつと幸せになれよ。

躓いたら振り返ってくれれば、
俺がいるから。




安心しろ。




城戸士郎。

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