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テレワークで生産性は上がっていますか?

働き方改革が進められる今。みなさんの働き方には、何か変化が起こっているでしょうか? そもそも、どんなふうに改革されれば、みなさんはもっと豊かな働き方ができると思いますか?

このコーナーでは、「働き方」に関するさまざまな話題を取り上げて、「幸せな働き方って何だろう?」ということを考えていきたいと思っています。

■テレワークを導入した、その先を考えてみよう

3月、みなさんの働き方はどう変わっているでしょうか。

私のまわりでは、完全テレワークになった人、時差出勤をしている人も多くいます。営業や接客など、現場でないとできない仕事に就いている人はいつもどおり出勤していますが、働き方を工夫できる会社は状況を見て柔軟に対応をしている印象です。

日本の場合、もともと働き方改革の中でテレワークなど働き方の多様化によって生産性を上げようと呼びかけられていました。厚労省も「テレワークではじめる働き方改革 テレワークの導入・運用ガイドブック」なるものを作成しています。

生産性とは主に、投入資源(働く人の数や、働く時間)に対してどれだけの成果を上げるか、ということです。

働き方が変わったみなさんは、この生産性の向上を実感されているでしょうか。

生産性の低い企業の特徴としてよく言われるのが、長時間労働です。ひとつの仕事から生まれる収益が低く、人件費などをカットするために今いる人の労働量が増える→労働時間が増えるというわけですが、長時間労働によってまた人件費がかかって生産性が落ちる、という負のスパイラルに陥っている企業もあるようです。

この3月、みなさんの労働時間はどう変わったでしょうか。

私の周囲では、「在宅勤務になったのになぜか残業が増えた」という声も聞こえてきました。通勤時間やムダな会議などがなくなり、なんとなく働く時間は短くなりそうなイメージですが、在宅によって働く時間が増えているという人、実は結構いるようです。

世界15カ国に調査をしたILO・欧州生活労働条件改善財団の共同刊行物(2017)でも、テレワークやモバイルの利用頻度が高いほど、労働時間が長い傾向になっていることが示されています。

日本の場合、平成30年度「テレワーク人口実態調査」(国交省)によればテレワークを導入している企業は19.8%と、5社に1社の割合で導入されていることがわかります。

平成29年度の調査ではテレワークの効果についても調査していて、雇用型テレワーカーのうち、プラスの効果があったと答える人が53.1%と半数以上に上っているのに対し、マイナスの効果があったという人は4.8%に留まっています。

プラスの効果があったと答えている人の理由で最も多いのが「自由に使える時間が増えた」で、次が「通勤時間・移動時間が減った」というもの。一方、マイナスの効果だったという人でも、最も多い理由は「仕事時間(残業時間)が増えた」という時間に関する内容でした。

働く時間が増えるのには、いろいろな理由があると思います。家では気が散って効率が落ちてしまう人もいれば、「ついでにこれもやっておいて」と上司からどんどん仕事を振られてしまう人(目の前で見ていないから、これくらいできるだろうと思われてしまったり)、テレワークが苦手な人の分の仕事も回されてしまう人、そもそも現場に行ったほうが効率のいい仕事をしている人もいるでしょう。

今回、一気にテレワークが進むことになるのなら、次に考えるべきことは「本当にテレワークで生産性が上がるのか」ということです。

テレワークのほうが気分がラクだと喜んでいても、肝心な生産性が落ちてしまえば、企業の経営状態を悪化させるだけです。気分の問題ではなく、自分自身の生産性にどう変化があったかを、働く人それぞれが考えてみるとよいと思います。

■ちなみに生産性の話はビジネス上だけにしてください!

……と、今回は生産性の話にしたのですが、生産性を重視するのはビジネスの場面だけにしてください。先日、相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で19人もの命を奪った植松聖被告に、死刑判決が言い渡されました。

植松被告は、「生産性のない人間には生きる価値がない」という主張をこれまで繰り返してきています。このことは、私たちの社会が、生産性の有無や高さによって、人間の価値を決めているということを象徴しています。

LGBTのカップルには生産性がないという主張で国会議員が批判を浴びたこともありましたが、生産性のあるなしで人を評価するという行為は、ビジネスの中だけで十分です。ビジネスにおいても、労働に対する対価が支払われるだけで、人格やその人の命そのものが評価されているわけではありません。

ビジネス上の価値観と、人としての営みの価値観が、こんなにも一緒くたになっている世の中が、私は今ちょっと不安です。こんなご時世で、自分の仕事をストップさせながら、これまで稼いできたお金をどんどん寄付に使っている人もいます。これってビジネスで言ったらめちゃくちゃ生産性が低いですよね(寄付には生産性があると思いますが、とりあえずその人の収益だけで考えるなら)。

一方で、マスク転売で大金を稼いだ場合は生産性がめちゃくちゃ高いと言えます。でも、こういうときには私たちは人を生産性で評価しません。自分の言動で人の心を豊かにするか、さみしくするかは、生産性にかかわることではありませんね。その気持ちを常にもてないでしょうか。

この状況だからこそ、そんなことを改めて考えている日々です。


大西桃子
1980年生まれ。出版社2社、電子出版社1社の勤務を経て、2012年よりフリーのライター・編集者として活動。2014年より経済的に困難を抱える中学生を対象にした「無料塾」を立ち上げ、運営。

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