未来の届けたい働き方

教員の働き方改革が一歩前進。でも本質的なことを見落とさないで!

働き方改革が進められる今。みなさんの働き方には、何か変化が起こっているでしょうか? そもそも、どんなふうに改革されれば、みなさんはもっと豊かな働き方ができると思いますか?

このコーナーでは、「働き方」に関するさまざまな話題を取り上げて、「幸せな働き方って何だろう?」ということを考えていきたいと思っています。

■年単位で勤務時間を調整する「変形労働時間制」を導入

11月15日、衆議院文部科学委員会で、公立学校の教員の働き方改革を進めるための法改正案が可決されました。

改正案では、「変形動労時間制」を取り入れ、夏休み期間などにまとまった休日をとれるようにして1年単位で教員の勤務時間を調整できるようにしたり、教員の在校時間の上限を定めたりと、今の教員たちの過酷な長時間労働の現状を改善しようという内容になっているようです。

学校の先生たちの過重労働についてはここ数年、頻繁にメディアでも取り上げられるようになってきており、またSNSなどで声を上げる人も増えてきており、対応策が待たれる状態になっていました。

先生たちが書類作成や部活、研修などに追われて、子どもたちと向き合う時間がとれなくなってきている現状は、私も無料塾を運営しながら実感しているところです。どう考えても福祉などの介入が必要な家庭の子が見過ごされていて、そうした子の存在に気がつけるはずの場所である学校が、手も足も出せていないというケースは何件もあるのです。

行政の支援を受けるには一定の条件がありますから、苦しい状況にあってもその条件に漏れてしまい、耐えながら暮らしている子もいます。せめてその状況を理解し、寄り添う大人として、学校の先生が機能していてくれたら……と思うこともあります。ただ、教員の仕事に目を向けてみると、ひとりひとりの子どもたちに寄り添うような余裕があるとはとても思えず、「ならば地域社会の機能を復活させなくては」というほうに、私の意識は向いていくわけです。

もちろん、しっかり寄り添ってくださっている先生もいて、そうした方々は自分のプライベートな時間をゴリゴリと割いています。本当に頭が下がります。

少し前に教育学専門のある大学教授と話していたときには、こんなことをおっしゃっていました。

「学校の仕事というのは、悪い意味で〝プラス思考〟。効率化していこうではなく、ひとつ課題が生まれたらひとつ書類仕事が増える。一度増えた仕事はその後消えることはなく、その積み重ねで膨大な量になっていくばかり」

いじめ、不登校、校内暴力、体罰、モンスターペアレント……さまざまなことが社会で問題視されていくたびに、その対策として研修や書類作成仕事が増えていき、さらに現場での手が回らなくなっていく。このように負の連鎖が続いているのが現状だというわけです。

■時間だけに目を向けても無意味です!

今回の改正案では、こうした教員たちを少しはラクにしてくれるもののように思えます。

ただ、根本的な解決にはなっていないような気も……。

改正の中心テーマが「長時間労働からの解放」になっている限り、これは絶対にどこかにしわ寄せがくるはずだと思うのです。だって、仕事そのものを効率化しようとか削ろうとかいう話になっていませんから。時間を削ったところで、仕事量が変わっていなければ、学校外、つまり家で仕事をやる先生が多くなるだけではないでしょうか。

同じことは、一般的な会社の働き方改革にも言えます。働き方改革って、労働時間の削減がメインテーマなのでしょうか。

長時間働かせてはいけないというルールができること自体はいいのですが、そのための工夫がどこまでされるかが最も重要なことだと思うのです。

働き方改革の中で仕事がどう変わったかを会社員たちに聞いていると、ときどきこんな話が聞かれます。

「残業ができなくなっちゃったから、最近会社帰りにカフェで仕事をするようになった」
「仕事量が減るわけじゃないから、どうしても遅くなる日が出てくるんだけど……人事の人に怒られるから社内がギスギスしてきたんだよね」

時間削減ばかりに目がいってしまうと、そりゃあこうなりますよね。
帰れと言われれば仕事を放りだして帰れるのであれば、いいのですが……。

萩生田文部科学大臣はこの改正案の審議の際、「制度を導入することで、学期中の勤務がさらに長時間化しては本末転倒であると指摘されている」「導入にあたっては業務削減を前提にする必要がある」と話していますが、実際そうなっている会社はたくさんあるわけですから、ぜひ本気で向き合っていただきたいです。

形だけの働き方改革は、本当に必要ありませんから。


大西桃子
1980年生まれ。出版社2社、電子出版社1社の勤務を経て、2012年よりフリーのライター・編集者として活動。2014年より経済的に困難を抱える中学生を対象にした「無料塾」を立ち上げ、運営。


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