未来の届けたい働き方

働き方と生き方をリンクさせて考えてみる

働き方改革が進められる今。みなさんの働き方には、何か変化が起こっているでしょうか? そもそも、どんなふうに改革されれば、みなさんはもっと豊かな働き方ができると思いますか?

このコーナーでは、「働き方」に関するさまざまな話題を取り上げて、「幸せな働き方って何だろう?」ということを考えていきたいと思っています。

子どもたちそれぞれの個性を見つめて

私は、経済的な理由で塾などに通えない中学生を対象にした無料塾を運営しています。

そこでは夏休みになると、毎年、2泊3日のキャンプを行います。エアコンやガスのない、森に囲まれた施設の中で、みんなで薪割りをして火をおこしてごはんを炊き、キャンプファイヤーをやったりバーベキューをやったりして楽しみます。

このキャンプは、準備についても子どもたちが主体となって行います。3日間、どのようなスケジュールで過ごすのか。何を食べるのか。必要な食材は何で、いくらかかるのか。薬などの備品は何が必要か。必要なものすべてを購入して、宿泊費や移動費を払って、予算内に収まるのか。

そんなことを、みんなで協力して考えて準備作業をして、キャンプ本番に挑みます。

準備は、次のような班に分かれて行います。

・全体のスケジュールを調整し、キャンプ運営がスムーズにいくよう考えるリーダー班
・食事の内容を決めて、材料の調達や調理の段取りを考える食事班
・食材や、食事に必要な備品を管理する食材備品班
・病気や怪我をしたときの対応や、衛生面のことを考える美化保健班
・食事や勉強の時間以外に行うイベントを考えるレクリエーション班
・キャンプのしおりとフォトアルバムを制作する記録編集班
・各班の予算を吸い上げて計算し、全体予算内に収まるように調整をする会計班

この準備の様子を見ていると、まるで小さな会社の中を見渡しているようです。

リーダー班の子はそもそもリーダーシップのある子で編成されますが、その中でも「どう伝えたらみんながもっとまとまるだろう」「どう伝えたらスムーズに動いていくだろう」というふうに、真剣に考えながら全体を動かしていきます。

各班にもそれぞれリーダー役の子がいて、段取りが上手な子は周りの子を動かしながらサクサクとタスクをこなしていきます。じっくり周りと相談しながら進めていく子もいます。今までのキャンプにはなかったアイデアを出してくる子もいます。予定に従って準備を進めながら「もっとこうしたほうがいいんじゃない?」と柔軟にやり方を修正できる子もいます。

そんな様子を見ていると、将来この子たちはどんな働き方をするんだろうか、社会の中でどういう役割を担っていくのだろうかと、あれこれ想像してとてもワクワクします。それぞれの個性を伸ばして、うまく社会の中で活かしていってほしいなと思います。

私たちは、個性を活かして働いているか?

最近、よく「働き方は生き方だ」とか、「自分らしい働き方を」といった言葉を聞きます。

自分がどのように生きたいか、生きてきたか、社会の中でそれをどう活かせるか、自分が持っている強みでどのように社会に貢献できるか、そういうことを軸に働き方を考えていこうという意識が、人々の中で高まってきているのが今の時代だと思います。

でも、子どもたちが個性を活かし合って物事を前に進めていく様子を見ていると、私たち大人はまだまだ、働く現場の中で「個性を活かし合う」という感覚を持てていないのではないかと感じることがあります。

会社の求人情報では「あなたの能力を活かしてください」といった文言をよく見かけますが、実際に入社してみると、やることやその段取り、やり方はすでに決まっていて、そこから逸脱したことはやりにくかったりします。その中で他の社員と同じようにできなければ、評価が落とされてしまうこともあります。

自らその決められた方法にフィットできる人が「能力を活かせる人」で、違う方法を持っている人は「使えない人」と判断されてしまったりするわけです。

テキパキと仕事を進めて残業をせずに帰ろうとすると、周囲から冷たい視線を向けられたりもします。私たちはいつの間にかこうした同調圧力に飲み込まれて、「みんなと同じようにやらなきゃいけない」という考えに慣れてしまい、個性を活かすということを忘れていきます。

その結果「仕事=苦行」というような感覚にもとらわれてしまいます。

「みんなと同じ」に縛られないで

この、「みんなと同じようにやらなきゃいけない」という考え方は、誰も幸せにしないような気がします。

個性を活かすということの前に、「みんなと同じように」ということが頭にあると、弱みを認めることができなくなってしまいます。人には個性があるということは、弱みもあれば強みもあるわけですが、弱みが許されない環境では、その弱みをなんとかするほうにエネルギーを割いてしまい、自分の強みを発揮できる場面がどんどん奪われていきます。これでは楽しいわけがありません。

これは個の問題だけではありません。できないことを一定のレベルに持っていくことに労力を割かれる組織よりも、できることを持ち寄って大きなパワーにする組織のほうが、出せる結果は違ってくるはずです。

「みんなと同じように」という考え方があるから、私たちはたとえば「学歴で人を見る」ということもやめられません。本来は営業に向いていない人が営業部に回されて、あまりいい成績が出せなかったときに「社会人として使えない」というレッテルを貼られてしまう、なんてこともあります。

ひとつの基準の中で、みんなと同じくらいなのか、もっと上なのか、下なのかで、「これはいい、これはダメ」と無意識に振り分けをしてしまうわけです。

このような社会の中で、私たちの個性はどんどんつぶされているのではないかと思います。いきなり組織を変えるというのは難しいですが、私たちひとりひとりがもう少し、「みんなと同じじゃなくてもいい」「弱いところ、強いところは人それぞれ」というふうに考え、その考えをもとに行動することができるようになれば……。もう少し、みんなが働きやすい社会になるのではないかなと考えています。


大西桃子
1980年生まれ。出版社2社、電子出版社1社の勤務を経て、2012年よりフリーのライター・編集者として活動。2014年より経済的に困難を抱える中学生を対象にした「無料塾」を立ち上げ、運営。

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