未来の届けたい働き方

会って話したほうがいいこと、ネットでもじゅうぶんなこと

働き方改革が進められる今。みなさんの働き方には、何か変化が起こっているでしょうか? そもそも、どんなふうに改革されれば、みなさんはもっと豊かな働き方ができると思いますか?

このコーナーでは、「働き方」に関するさまざまな話題を取り上げて、「幸せな働き方って何だろう?」ということを考えていきたいと思っています。

■チャットツールでフリーランスの仕事が効率化

複数の会社から仕事をいただいて原稿執筆や編集をしている私ですが、最近ではそのやりとりに、さまざまなビジネスチャットツールを使うことが増えてきました。

会社によって使っているサービスが異なるので、ChatworkにSlackにBacklogにTypetalkに……と私が使うサービスはどんどん増えていき、さらにLINEやFacebookでやりとりさせてほしいという会社もあったりして、スマホには常にどこかしらに新着マークがついている状態になっています。もうこれ以上増やしたくない……できればどれか消したい……、と少し息の詰まるような気持ちになることもある、というのが本音です。

ですが、使ってみると確かに便利です。特に、複数の人が関わる仕事や複数の課題を同時に進める仕事では、全員がどこにいても相談や進捗状況などのやりとりができますし、どの課題がいまどうなっているのか見やすいものも。メールだと、返すときにいちいち「お世話になっております」などの挨拶をつけなくてはいけなかったり、CCを入れ忘れてしまったりということがありますが、チャットツールはそういうメールの面倒くささもカバーできているように感じます。

複数人で話し合いたいからオフィスまで来てください、となると、移動時間や交通費を費やすことになるわけですが、チャットツールで済ませられるのならそうしたコストはかかりません。フリーランスは打ち合わせのための時間や交通費は、いただく報酬に含まれずに自腹となりますし、移動する時間に原稿を少しでも前に進めたい……ということもあるので、ありがたい文明の進歩です。

■ネット上でのやりとりだけでは、ストレスは溜まる一方?

ただ、チャットの手軽さゆえに、何だかお互いの認識にズレが生じているなぁということもよくあります。相手がどう思っているのかなというのが、いまいち見えないこともあります。

ログが残りますから「言った言わない」の水掛け論になるようなトラブルはないのですが、どう見てもこれは相手は嫌な気分になっているのではないか……、どう見てもこれはこちらをナメているのではないか……この人はこの仕事をやる気があるのだろうか……そんな疑心暗鬼に陥ってしまうこともよくあるわけです。

そして、きちんと理解してもらおうと丁寧に質問をすると、自然に文章が長くなってしまい、それがまた相手に威圧感を与える。そういう悪循環に陥ることもあります。

ケンカのようになることはないのですが、それでも上記のようなモヤモヤした気持ちがずっと心にわだかまり、その仕事に対してのモチベーションを維持するのが難しくなることもあります。

ネット上だけで仕事のチームが作られて、会ったこともない、どんな人かもわからない担当者と仕事をする場合もあるのですが、ちょっと雑なメッセージが来たときに、「この人の性格だから、別に仕事を雑に考えているわけではないだろう」と推測することができないことも。

効率化やコストカットができるのはいいのですが、それと引き換えに、何か仕事において大事なことを忘れているような気もするのです。

■顔を合わせるからこそ生まれるもの

たいていの仕事は、自分ひとりでできるものではありません。

1冊の本を作るにも、執筆する人、編集する人、デザインする人、イラストを描く人や写真を撮る人、印刷・製本をする人、できあがったものを売る人と、さまざまな人がかかわります。こういう人たちとやりとりをするのに時間やお金を削減できるインターネットというツールはとても便利なのですが、全員が全員、誰とも顔を合わせずに作られたものと、全員が直接言葉を交わしながら作ったものとでは、その本の完成度は変わってくるのではないかと思います。

「ここはもうちょっとこうしたい」というニュアンスを、文章ではうまく伝えられないから、細かいところには目をつぶってこのままでいこう。どういう思いで作って、どんな人に手にとってほしいかをあえて文章で伝えられても面倒だろうから、営業さんにはいつもどおり頑張ってもらおう。といったことが積み重なって作られていく本は、ちょっとかわいそうです。

会って話しているうちに、顔を見ているうちに、相手の声のトーンやテンポに耳を傾けているうちに、「本当はこういうのを求めてるのね!」「実は納得していないのかも?」ということに気がついてお互いに納得いくものが作れたり、別のアイデアがふと思い浮かんで、よりよい方向へ仕事が進んだりということもあります。

チャットツールでは、ウダウダと文章を書くのは相手に負担を与えることだというのが常識になっていたり、素早く返すことが重要視されたりしているので、なかなかこういった、お互いの気持ちの調整や、仕事のさらなる改善、バージョンアップ、ということがしにくいのではないかと思います。

何より、ネット上だけのやりとりでは、お互いに仕事への志気を高めることが、なかなかしづらいように思います。相手のメッセージを読むほうも、どうしても他のタスクの間でサクッと読もうとしますから。

「パソコンがあれば今はどこでも仕事ができるから」なんて言われていますが、関わる人たちが大きな熱量を持って取り組む仕事に関しては、やはり対面でのコミュニケーションは絶対に必要です。とにかくお金だけもらえればいい仕事なら、時間や交通費の削減を優先してもいいですが、目の前の仕事の質をもっと高めたいと思うのなら、多少のコストはかけてしかるべきだと思います。

「幸せに働く」というのは、いかに効率的に物事を進めるか、いかにラクにお金が儲かるかということよりも、「手応えのある仕事」「思い入れをもってできる仕事」をすることだと、私は考えているからです。


大西桃子
1980年生まれ。出版社2社、電子出版社1社の勤務を経て、2012年よりフリーのライター・編集者として活動。2014年より経済的に困難を抱える中学生を対象にした「無料塾」を立ち上げ、運営。

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