未来の届けたい働き方

虐待問題から考える、親が追い詰められない働き方とは?

働き方改革が進められる今。みなさんの働き方には、何か変化が起こっているでしょうか? そもそも、どんなふうに改革されれば、みなさんはもっと豊かな働き方ができると思いますか?

このコーナーでは、「働き方」に関するさまざまな話題を取り上げて、「幸せな働き方って何だろう?」ということを考えていきたいと思っています。

■責めて終わりではなく、背景をひとつひとつ考えてみよう

先月、鹿児島県で4歳の女の子の虐待死事件が起こりました。2018年に起きた船戸結愛ちゃんの虐待死事件の公判も今月から始まっています。この、いくら悲劇が繰り返されても尽きない虐待事件に胸を痛め、親を非難する人も多いのですが、ただ非難するだけでなく、社会の仕組みや空気から、虐待を止めるという視点をもつことが重要だと私は考えています。

虐待事件にはそれぞれ個別な背景があり、しかもさまざまな要素が複合的に絡み合っているのでが、その多くのケースで、親もまた苦しんでいたということが言えます。自身も幼少期から愛情を受けて育てられておらず、子育てのしかたがわからない。過度なプレッシャーのもとで育ち、それが普通だと思い込んできた。貧困生活から抜け出せず、生活苦の中で追い詰められていった。そういうさまざまな要素を紐解いて、どのようにしたら防げたかを考えていかなければ、同じような事件は今後も起こるでしょう。

■非正規雇用者のうち年収200万円未満は男性6割、女性8割

その中でも、貧困の問題は、社会の流れが変われば食い止められるものだと私は思っています。

私が運営する無料塾にくる生徒の親御さんは、ほとんどがシングルマザーで、非正規雇用の方も多くいます。離婚をして、子育てに追われ、就職をする余裕がなく、やっと余裕ができてもスキルや経験を問われ、また年齢的にも、就職が難しくなってしまっている。しかも、アラフォー世代のお母さんたちは、就職氷河期世代でもあります。そのときに就職の機会を逃した方もいます。就職ということに関しては、常に不利な状態でここまでの道を歩まれてきたのだろうなと思います。

お母さんたちからはときどき就職の相談も受けますが、一緒に仕事探しをしてみても、やはり希望に沿う(といってもそれほど高望みをしているわけではありません)仕事を見つけるのは容易くなく、暗澹たる気持ちになることもあります。

現在、日本の労働者のうち、正規の職員・従業員は3476万人、非正規の職員・従業員は2120万人となっています(総務省「労働力調査」平成30年)。約4割の労働者が、非正規雇用ということです。そして、そのうちの約7割、1451万人が女性です。

給料を見てみると、非正規雇用者の男性の場合は100万円未満が29.0%、次いで100~199万円が28.6%で、年収200万円未満の人は約6割です。非正規雇用の女性の場合は、100万円未満が44.1%、次いで100~199万円が39.1%で、年収200万円未満が8割以上。

もちろん、共働きで「家計の足しになれば」と働いていて、この年収でもじゅうぶんだという人もいるでしょうが、非正規雇用の女性で年収300万円以上を稼いでいる人は、たったの4%です(男性の場合は20%)。

年収300万円未満という状態で、働きながら家事をして、子どもを育てる母親たち。私は「自分だったら」と思うと、どうしてもストレスフルなイメージしか湧いてきません。

■働けども働けども、追い詰められる人をなくすには

平成30年「労働力調査」で、非正規雇用の仕事についた理由については、こんな結果が出ていました。

自分の都合のよい時間に働きたいから……男性27.7%、女性39.9%
家計の補助・学費等を得たいから……男性13.3%、女性22.5%
家事・育児・介護等と両立しやすいから……男性1.1%、女性17.8%
通勤時間が短いから……男性3.9%、女性4.8%
専門的な技能等をいかせるから……男性11.5%、女性5.4%
正規の職員・従業員の仕事がないから……男性20.6%、女性9.3%
その他……男性22.0%、女性9.2%

自分の都合に合った働き方ができるのが、パートやアルバイトなどのメリットではありますが、それをポジティブにとらえるか、「正社員でそれができればいいけれど、できないから」とネガティブにとらえるかでも見方は違ってくると思います。家事・育児・介護と両立させるために非正規を選んだという人も女性は17.8%います。

みなさん、さまざまな事情があって非正規雇用を選んでいる(選ばざるを得ないケースも多そう)というわけですが、その結果、低所得世帯となってしまい、苦しい思いをしている人が多いのです。

小さな子どもを抱えるお母さんやお父さんたちが、このような経済的状況に置かれていて、外に助けを求めることもできない状態。しかも、他人の子育てでダメなところが見つかればすぐに「親失格」と烙印を押し、「自己責任」といって手を差し伸べる人、心を寄せる人が少なくなっている時代。

「稼げない、ちゃんと教育ができないダメな親」と他人に言われたり思われたりするのが怖くて、ますます助けを求められなくなっていく時代。そういうふうに親たちを追い詰めているのが、今の社会なのではないかと私は思います。

先の参議院選挙でも一部争点に上がってはいましたが、非正規雇用の待遇改善、最低賃金の引き上げ、さらに望めば正規雇用も選ぶことができ、子育てや介護と両立できるような仕組みをつくること。これらは必要だと思いますし、それに伴って「あなたが選んだんだから、あなたの責任でしょう」「親なのに、きちんと稼げていないあなたが悪い」というような冷たい言葉を浴びせる人を一人でも少なくすることも重要だと思います。

つらい、悲しい思いをする子どもたちを減らすためにも、今私たちにできることは、加害者となった親を叩くよりも、その背景にある「親を追い詰める要因」を少しでも解消することではないでしょうか。


大西桃子
1980年生まれ。出版社2社、電子出版社1社の勤務を経て、2012年よりフリーのライター・編集者として活動。2014年より経済的に困難を抱える中学生を対象にした「無料塾」を立ち上げ、運営。

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