未来の届けたい働き方

時給で働くことが「不幸せ」にならないために

働き方改革が進められる今。みなさんの働き方には、何か変化が起こっているでしょうか? そもそも、どんなふうに改革されれば、みなさんはもっと豊かな働き方ができると思いますか?

このコーナーでは、「働き方」に関するさまざまな話題を取り上げて、「幸せな働き方って何だろう?」ということを考えていきたいと思っています。

■時給で働くことが「不幸せ」にならないために

7月21日に投開票が行われる参院選。今回は公約に「最低賃金の引き上げ」を掲げている候補者や党も多く見られます。

現在、最低賃金は全国平均で864円。最高額の東京都では985円、最低額の鹿児島県761円。

この最低賃金の引き上げは、日本の格差問題、貧困問題を解決するためにはとても重要です。深刻化している子どもの貧困問題も、その元は親の貧困となりますから、子ども食堂や無料塾などが全国で増えてきていても、元の問題を経たなければ解決とはいきません。

2018年労働力調査によれば、日本の労働者のうち、非正規雇用者が占める割合は37.9%、3人に1人以上は非正規雇用ということになっています。そして、非正規雇用者がもらっている賃金は、平均で209.4万円です(平成30年賃金構造基本統計調査)。

特に女性の非正規の年収は、100 万円未満が全体の 44.1%を占めています。例えば、子育てをしながら働かなくてはいけないシングルマザーにとっては、非正規雇用という選択肢しかとれない場合も多く、そうした人たちがこのような低賃金で暮らしています。子どもの貧困は、このような状況から生まれているわけです。

非正規雇用の賃金を上げなければ、この国の格差は広がるばかりですし、子どもの貧困の解決はできません。生まれてきた子どもたちが、生まれながらにさまざまな選択肢を奪われる状況を、改善することはできません。また、苦しい生活の中で生まれてしまう自殺や虐待など、人の命にかかわる悲しい出来事を、減らしていくこともできません。

■時給で働くことが、普通の選択肢になったなら

ところで、この「未来の仕事屋」のnoteには、「時給で働くのやめませんか?」というタイトルがついています。連載小説「生活残業クロニクル」でも、時給で働くことにより見失われていくひとりひとりの「やりたいこと」や「精神的な豊かさ」といったものが描かれています。

ですが、もし、最低賃金がじゅうぶんに上がり、時給という働き方でもじゅうぶんに暮らしができるようになったとしたら、どうでしょう。

時給で働くということには、メリットもあります。シフト制であれば、自分のスケジュールに合わせて働く日や時間を月ごとなどに組み直すことができますし、子育てをしながらとか、他の仕事とかけもちをしながらとか、別のことと両立しながら働くことが可能になります。

会社の意思決定や責任問題に関わるような大きな仕事を任されるチャンスは減ってしまうかもしれませんが、それでも、どのような立場からでも会社の利益のためにアイデアを出したり、意見を言ったりすることはできますし、アルバイトでも面白い企画を任されるような場面はあると思います。

「時間を切り売りするような働き方」に違和感を覚える人もいるかもしれませんが、時間を切り売りするというのは、働く人それぞれの感覚であって、切り売りしているわけではなく、精一杯目標を持って労働をして、その対価として満足のいく賃金をもらっているのだと思える人もいるでしょう。その賃金が、正当なものであれば……。

働けども働けども、時給で労働である以上、生活は豊かにならず苦しいばかり……。そのような賃金の状況から抜け出せるのであれば、「時間を切り売りする」という感覚は薄れていくかもしれません。

非正規雇用という働き方は、決して「悪いもの」「ダメな働き方」ではないはずです。ライフスタイルに合わせて、それぞれが幸せな働き方を選べればいいと私は考えています。

正社員でなければ、社会の底辺にいってしまう。そういう構造があるために、就職で失敗したことで「自分はダメな人間なんだ」と自己否定感を強くもってしまった、就職氷河期時代の人たちはたくさんいます。でも、非正規雇用というのが「それしか選べない」ものではなく、「選択肢のひとつ」として普通にあるものだったら、働き方によって自己否定をしたり、誰かを恨んだり、人をバカにしたり、そんなギスギスした社会は少し平和になるかもしれないなと思います。

ですから、最低賃金の引き上げ、これはどんな人たちも働くことに幸せを見出せる、少なくとも無駄に不幸な出来事を生み出さないために、本当に必要なことなのではないでしょうか。


大西桃子
1980年生まれ。出版社2社、電子出版社1社の勤務を経て、2012年よりフリーのライター・編集者として活動。2014年より経済的に困難を抱える中学生を対象にした「無料塾」を立ち上げ、運営。

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