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学生よ、アルバイトで働く基本姿勢を学んでおこう

働き方改革が進められる今。みなさんの働き方には、何か変化が起こっているでしょうか? そもそも、どんなふうに改革されれば、みなさんはもっと豊かな働き方ができると思いますか?

このコーナーでは、「働き方」に関するさまざまな話題を取り上げて、「幸せな働き方って何だろう?」ということを考えていきたいと思っています。

■「時給で働くな」がブームでも、学生はまず時給で働いてみて

私は現在、本業とは別に中学生を対象にした学習支援団体を運営していますが、この時期になると卒業して高校1年生になった子たちから「アルバイトを始めた」という連絡がちらほらくるようになります。

今年度は入学してもずっと休校が続き、高校に本格的に通い始める前からアルバイトデビューをしたという子も。

今まで何人もの卒業生たちがアルバイト先を教えてくれましたが、飲食店だったりするとボランティアスタッフたちと一緒に様子見がてら利用することもあります。10代前半から見てきた子が一生懸命に働いている姿を見ると、ひとまわり大きくなったように感じてジーンとしてしまいます。

さて、現在は多くの人が学生時代にアルバイト経験をしていると思います。独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)の「平成30年度学生生活調査」によれば、2018年度にアルバイトに従事した4年制大学(6年制学部を含む)昼間部の学生は86.1%にのぼっています。

学費や生活費などを自分でまかなわなければならない学生にとっては、学業と両立させながら手っ取り早く稼ぐにはアルバイトは欠かせないものでしょう。

一方で、最近では時給で働くことについて、「自分で価値を生み出す力が身につかなくなる」「時間さえやり過ごせばお金がもらえるから成長できない」などと否定的に考える人も増えてきていて、意識の高い大学生の中には起業など成果によって報酬がもらえる働き方を考える人もいます。

また企業によっては、新卒の採用面接の際にアルバイト経験ばかり熱く語ると「学業に専念していなかった」ととらえられ、落とされてしまうこともあります。

ただ、私は高校生や大学生のうちに、アルバイトをしておくことはとても重要だと感じています。もちろん学業と両立できる範囲で、ですが。

自分の頭で考えて、行動し、自ら価値を生み出す力は、もちろんこの先生きていくためには重要なものです。人の役に立つ、価値のあるものを生み出す力があり、売る方法を自分で工夫することができれば、労働時間は短くても大きく稼ぐことができるようになります。労働時間から時給を換算したら数万円、数十万円にのぼるという人も世の中にはたくさんいます。

そして、時給で働く人が「決められた時給の分だけ働けばいいや」という考えに慣れてしまうと、こうした力を身につけることはできなくなります。

ただ、自分で価値を生み出す以前に、働く基礎姿勢を身につけていなければ、ビジネスで成功することはかなり難しくなります。

常識外れなキャラクターで注目される実業家も一部いるにはいますが、本当に限られています。同じように強烈なキャラクターと強靱なメンタルをもち、もともとずば抜けた発想力や行動力、発信力をもっているならうまくいくかもしれませんが……。YouTubeの配信などで一発当てた人の中でも、5年後や10年後にさらに稼いだり、同じ収入を維持できる人となると、かなり絞られてくるはずです。

自分でビジネスを始める、あるいは正社員として就職して活躍するためにも、働く基本姿勢が身についているかどうかで特にスタート地点のスムーズさはまったく異なります。

■ビジネス上の意思疎通のしかた、お金の価値、学べることはたくさん

お金を稼ぐために、まず最も必要なのはコミュニケーション能力です。誰とでもすぐに友達になれるとか、人見知りしないとかいう話ではなく、同じ職場の人や取引先などとスムーズに意思疎通ができるかどうかや、お客様に喜んでもらったり感動させたり信頼してもらったりできるかどうかという、ビジネスにおいてのコミュニケーションです。

これはアルバイトでも十分に身につけられるものですが、アルバイト経験がなくいきなり新卒で入ってきた社員が上司とまともにコミュニケーションがとれないということもよく聞きます。

私も以前働いていた会社で、アルバイト経験のない新入社員にコピーのとり方の間違いを注意したら、「この仕事って僕がやる意味あります?」と逆ギレされたうえに会社を飛び出されてしまい、焦ったことがあります。確かにコピーとりは誰がやってもいい仕事ですが、だからこそ誰でもスムーズにコピーをとれるようになっておいてほしかったのですが……。

組織として仕事を円滑に進めるためには、間違っていたら指摘されますし、ミスが重なれば叱られます。全体を見て仕事を動かしている人と、自分に与えられた仕事にフォーカスして物事を考える人とでは目線も違うので、それを理解してコミュニケーションをとることも必要です。

アルバイト経験があれば、これくらいのことはすぐに飲み込めるはずです。

また、お金の価値についてもアルバイトで学んでおくことが重要だと思います。

1000円の時給の自分と、1500円の時給の先輩とでは、何が違うのか。1000円稼ぐために、どれくらいの労力がかかるのか。自分の労働力は1000円の価値に見合っているのか。そうした感覚があると、起業したり正社員で働いたりする際に、提供する価値ともらえる報酬のバランスがわかりやすくなります。

先日、宅配ピザ屋でアルバイトを始めた高校生が、こんな話をしてくれました。

「中学生のときは宅配ピザって高いなあと思ってましたけど、働いてみたら納得できました。ひっきりなしにくる注文をとって、一分一秒を無駄にしないようにピザを作り続けて、急いで配達をする。ベテランの先輩たちの動きを見ていて、この値段は当たり前だって思ったんです」

先輩たちがいかにピザをスピーディーに効率的に作っているかという話をとても誇らしげにしてくれたのです。モノやサービスの価値を今まさに学んでいこうとしている子を目の前に、「学生のアルバイト経験、ほんとに大事!」と改めて思いました。

■学費の価値も考えながら両立しよう

学校を卒業して社会に出たときに、今までの環境とあまりに違いすぎてストレスをためたり、働くうえでの基本姿勢がわからずに戸惑ったりしないためにも、私はぜひ、学生時代はアルバイト経験をしておいてほしいなと思います。

ただ、注意してほしいのは、「この時間、言われたことをやっていればいいんでしょ」と自分の頭をまったく使わずに過ごすという働き方をしないことです。世の中には言われたことさえできない人もいますので、まずは言われたことを求められたとおりにこなすことができるかどうかが第一歩(これができずに社会に出てしまうとつらいです)。

慣れてきたら、その仕事の技術を自分で磨いてみること。接客ならお客様に「ありがとう」と言われたり笑顔で帰ってもらう回数を増やすことだったり、単純作業ならそれをさらにスピーディにこなすことだったり、磨ける力はいろいろあるはずです。ちょっとした技術でも、それが今後どのように活きることになるかわからないので、磨けるうちに磨いておくべきです。

さらに慣れてきたら、その現場や会社全体のお金の流れについて考えたり、仕事が効率化できないか考えたり、新しいアイデアを提案したりと、できることは無限にあります。

学生の間、時給を大幅に上げてもらうのはなかなか難しいことですが、お金以外に得られるものはすべて得てやるというつもりで働いてみると、後々の社会人生活で必ず活きてきます。

お金の価値を考えながらアルバイトができるようになれば、学業をおろそかにすることもないはずです。払った学費と自分の学びの質や量をきちんと天秤にかけられるようになっていくからです。

学生のみなさんは、意識高く、バイトに挑戦してみてください。


大西桃子
1980年生まれ。出版社2社、電子出版社1社の勤務を経て、2012年よりフリーのライター・編集者として活動。2014年より経済的に困難を抱える中学生を対象にした「無料塾」を立ち上げ、運営。

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