未来の届けたい働き方

これからの時代、「学歴」は人に幸せをもたらすのか?

働き方改革が進められる今。みなさんの働き方には、何か変化が起こっているでしょうか? そもそも、どんなふうに改革されれば、みなさんはもっと豊かな働き方ができると思いますか?

このコーナーでは、「働き方」に関するさまざまな話題を取り上げて、「幸せな働き方って何だろう?」ということを考えていきたいと思っています。

■「こうすれば安泰」なんて答えは、ないのでは?

年始早々ネット上で話題になっていたのが、開成中学校・高等学校の柳沢幸雄校長がプレジデント・オンラインに寄稿した記事。『18歳の一人暮らしは「風呂なし3万円」で十分だ』というタイトルで、男子は18歳になったら家を出して、風呂なしトイレ共同物件(家賃3万円)に住まわせたほうが、独立が早くなるという内容でした。

なんでも、パンツを脱ぎ捨てても片付ける人がいない、寒い冬に温かい食事を作ってくれる人がいなければ、やってくれる人がほしくなるから、結婚も早くなるとのこと。いろいろツッコミどころがあり、すでにたくさんの方が突っ込んでおられるのでここではあえて書きませんが……。

教育に携わる人が、このような古い価値観に縛られ続けていると、子どもたちは将来大変な目にあうだろうなと思います。

そして、この記事にまざまざと現れていたジェンダーバイアスだけではなく、「偏差値の高い学校に入れば幸せな生活が手に入る」というのも、今や古い価値観のひとつになっていることに気付いていない人も多いのではないかと思います。開成のような有名校では、もしかしたらこういう古い価値観にがんじがらめになっているのではないかと心配してしまいます。

みなさんは今、学歴について、どのようにお考えでしょうか。

私は、以前は「学歴は高いほうがいい」「高い偏差値の学校に入った人のほうが、仕事でも必要とされることが多いはずだ」と思っていました。でも最近、それがなんだか揺らいできています。

男性が脱ぎ捨てたパンツを女性が拾って洗うのが当たり前ではなくなったのと同じように、高偏差値の学校へ行けば安泰という信仰も、そろそろ終わりが近付いてきているのではないかなと。

■学歴が効く(かもしれない)のは新卒採用のときまで

大人になると聞かれるのが、「社会人になったら学歴なんて関係ない」という言葉です。実際、最近では学閥があるような会社はほとんどなくなってきていますし、入社をしてしまえば学歴がすごく役に立つということはあまりないのではないでしょうか。

たまたま知り合った人が同じ学校出身ということで盛り上がったり、それで仕事がやりやすくなったりすることはあるでしょうが、それは東大だろうと地元の○○中学校だろうと同じでしょうから、学歴そのものが役に立つということはあまりないはずです。

でも就職にあたっては、確かに今はまだ多少、どんな学歴か、どんな大学を出たかを判断材料にする会社はあるようです。ただ、学歴を判断材料にするというのは、その学歴を得るために培った能力が必要とされているということです。

わからないことがあっても粘り強く学んで習得しようとしてきたか、物事を理解するスピードはどれくらいか、理論的に物事を考える方法を身につけているか、知識の吸収力はどれくらいあるのか。受験勉強を通してどんな力を培ったかを、測られるわけです。

そう考えれば、大学名などを判断材料にするのは合理的にも思えます。多くの入社希望者がいる会社の場合には、一人一人じっくり時間をとって面接をするにはコストがかかりますから、履歴書で判断できる学歴をひとつの判断基準にせざるを得ないということもあるでしょう。

それでも、就職して以降は、学歴でその人が評価されることはありません。あなたは○○大学出身だから、△△大学出身の人よりも給料を高くするね、なんてことはありません。そして、学歴が効力を発揮して有名な企業に入れたとしても、その後幸せな生活が手に入る保障は何もありません。あとは、その人がどんなふうに働いていくか、どのようにキャリアを作り上げていくかにかかっています。

今は、いったん入った会社がずっとその人を守り続けてくれる時代ではなく、会社にどれだけ利益をもたらしているかがシビアに測られることになります。そして、会社に利益をもたらす能力というのは、決して受験勉強だけで培えるものではありません。

■大人になってから、テストの点を振りかざすのは痛いです

今、企業の有効求人倍率は1.57倍と高い水準になっています。しかし一方で、早期退職者を募集する企業は増えています。要はリストラですね。

東京商工リサーチの調査では、2019年には早期退職者数が6年ぶりに1万人を超えたことがわかっています。ちょっとニュースを遡ってみると、味の素で50歳以上の管理職約100人。ファミリーマートで40歳以上の社員約800人。東芝で約400人、レナウンで約150人、コカ・コーラ販社で約950人、協和発酵キリンで約300人、アルペンで約350人、富士通で2850人……。これ全部、2019年です。

人手不足で売り手市場、若い人材はほしいけれど、会社に十分な利益をもたらせていないベテラン社員たちは要らない。そんな時代です。そしてリストラにも、学歴が高いから優遇しますなんてシステムは存在しません。

今、20〜30代で「学歴がないから自分はダメだ」と思っている人や、逆に「自分は○○大卒だから優秀だ」と思っている人は、そんなことに意識を向ける前に、もっと別のことに集中したほうがいいでしょう。

・今やりたい仕事のために、どんな力を身につけるべきなのか?
・今の仕事でもっと利益を出すために、何をしたらいいのか?
・これから挑戦したいことのために、今やるべきことは何か?

学歴というのは、いったん働き始めるとなかなか更新することはできません。つまり、過去のものです。そんなものにいつまでも自分を価値づけられていては、前に進むことはできません。私たちが使えるのは、出身校のネームバリューとか過去に受けたテストの結果とかではなく、生きてきた中で努力して得た能力だけです。それを磨き続けなければ、前に進むことはできません。

ひとつでも高い偏差値のところへ進学したい、と頑張る子どもたちを私は応援していますが、それは、受験を通して「何らかの目標を定めて努力すること」「目標到達のために行動し、課題を見つけ、解決する力を身につけること」ができるからです。もし子どもたちに、進学以外に具体的な目標があるのなら、受験は二の次でもいいと思います。

今の世の中に、「こうしておけば安泰」なんて答えはありません。

男の子は一人暮らしをすれば結婚したくなるとか、結婚すればあとは妻が身の回りのことをやってくれるとかいう考えが古いのと同じように、いい学歴を得て大きな会社に入れば、あとは定年まで給料をもらい続けられるという考えも、古いものになっています。

私は、男は一人暮らしをさせて女性にパンツを洗わせればいいと言っているオジサンと同じように、○○大学を出たから自分は優位な立場にいると思い込んでいる社会人に対しても、ちょっと冷めた気持ちで見てしまうのです。


大西桃子
1980年生まれ。出版社2社、電子出版社1社の勤務を経て、2012年よりフリーのライター・編集者として活動。2014年より経済的に困難を抱える中学生を対象にした「無料塾」を立ち上げ、運営。


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