個人事業主も意識を高めていく時代
働き方改革が進められる今。みなさんの働き方には、何か変化が起こっているでしょうか? そもそも、どんなふうに改革されれば、みなさんはもっと豊かな働き方ができると思いますか?
このコーナーでは、「働き方」に関するさまざまな話題を取り上げて、「幸せな働き方って何だろう?」ということを考えていきたいと思っています。
■吉本興業の騒動から改めて考えたいこと
ここ数日、ワイドショーは吉本興業の話題でもちきりになっています。あの一連の騒動を問題別に分けて考えてみると「反社会勢力と芸人との関わり」「芸人が嘘をついたということ」「会社の体質」という3つのカテゴリーに分けられるかと思います。このうち3つ目は、社会で働く多くの人にも関わりのある問題と言えそうです。
現在、吉本興業という会社の体質については、次のような問題点が挙げられています。
①個人事業主となる芸人との間に契約書が交わされていない
②(若手を中心に)ギャラが安い
③ギャラの配分が不明確
④パワハラが横行
①については、実は私がこれまで働いてきている出版業界でもよくあることとなっています。
フリーのライターが原稿の執筆を依頼されるとき、あらかじめ原稿料の額や著作権の帰属などについて、契約書が交わされる会社というのはあまり多くはありません(最近は増えてきた印象もありますが)。原稿料については、口約束であることがほとんどで、振込日も「出版物が出た後」となることが通例で、原稿の納品をした後に何らかの事情で発売が延長された場合、いつ振り込まれるかわからないギャラをただただ待つことになります。
同じようなことは、アニメ業界の人や音楽業界の人からもときどき聞きます。今回、公正取引委員会も「契約内容が不明確なことで優越的地位の乱用などを誘発する原因になり得る」と指摘していますが、これは芸能界に限らず他のいくつかの業界に当てはまる指摘だと言えるでしょう。
②については、吉本の場合は最低賃金という概念もないようですが、ここ数年の社会では、最低賃金の引き上げを訴える声はどんどん大きくなってきています。不当に安い賃金、健康で文化的な生活ができないような賃金で人が簡単に雇えてしまえば、格差はみるみる拡大していってしまいますから、これは本当に重要な社会問題だと言えます。
③についても、配分を決める権利が会社にあるとしても、その配分によって仕事を受けた側が不当に安いギャラしかもらえないというのはよくありません。
④のパワハラについては、現代のビジネス社会の中で今、徐々に「人権」というものがしっかり意識され始めてきたところだと思うのですが、まだ一定の世代以上を中心に認識が改められていないことは残念という他ありません。
これら4つの問題について、「自分の会社(業界)でもあるな」と感じる人は、少なくないのではないでしょうか。
■働く側はどうしたらいいのか?
では、もし自分がこうした問題に直面してしまった場合には、どうしたらいいのでしょうか。
「会社を辞める(今後契約をしない)」という選択肢もひとつだとは思います。ですが、そういう選択ができる人というのは、その仕事や立場を失っても、次に稼げる見込みがある人だったり、すでに当面暮らしていけるようなお金を手にしている人だったりだと思います。
また、不利益は被っていても、そこでの仕事が大好きで、やりがいを感じていたり、会社への思い入れが強かったりして、離れるのはイヤだという人もいるでしょう。今回、吉本興業の芸人たちの動きを見ていても、「簡単に辞められる人」とそうでない人がいるのはわかるかと思います。
辞めるか辞めないかというのは、個人の生活や考え方次第だと思いますが、辞める以外の方法もたくさんあります。
今はインターネットで個人が世間に向けて自由に意見が言える時代です。最近では、「夫が育児休業明け2日で関西への転勤を命じられた」とツイッターに書き込まれた企業が、対応に追われたケースもありました。ネットを中心に巻き起こった「KuToo運動」を意識して、女性の履き物のルールを見直す企業も出てきています。会社に直接言いにくい場合や、訴えても聞く耳をもってもらえない場合には、このようにネットなどを利用して世間に訴えていくやり方もあるということです。
また、今は労働問題に取り組むNPOも増えてきており、そこに所属・提携する弁護士などの力を借りながら、会社と交渉することも可能です。
相手が上司であろうと、会社などの組織であろうと、おかしいことをおかしいと言うのが「当たり前」になりつつあるのです。
■おかしいことを見過ごしてしまうと……
会社や業界の構造や、パワハラなどの問題を「おかしい」と思っても、声を上げずに見過ごしてしまうと、その問題が解決されずに自分自身が泣き寝入りをすることになるだけでなく、自分たちの次の代、その次の代まで悪習を引き継いでしまうことにもなりかねません。
私も、先輩ライター、編集者たちに言いたいです。先輩たちが、「ギャラが不明確なことだらけでもOK」という感覚で仕事をやってきたことによって、バブル崩壊以降、若い世代がめっちゃワリを食ってませんか? なーんて。
先輩たちだけでなく、1000文字500円とか1000円、みたいな原稿料で仕事を受けてしまっている人たちにも言いたいです。私たちは原稿を書くスキルを時間をかけて磨いてきたはずです。その額で本当にいいんですか? その原稿料で受けることで、ライティング料のデフレ化を進ませてしまうので、やめてもらえませんか……。
最後は愚痴になってしまいました(汗)。
でも、おかしいことはおかしいと言う、不当な条件の仕事は受けない、こうしたことを私たちが積極的にやっていかないと、これから世に出てくる若い人たちに不幸が引き継がれていくだけです。
このへんで、みんなで頑張って食い止めませんか?
大西桃子
1980年生まれ。出版社2社、電子出版社1社の勤務を経て、2012年よりフリーのライター・編集者として活動。2014年より経済的に困難を抱える中学生を対象にした「無料塾」を立ち上げ、運営。
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