未来の届けたい働き方

学校の中で「働き方」を教えるということ

働き方改革が進められる今。みなさんの働き方には、何か変化が起こっているでしょうか? そもそも、どんなふうに改革されれば、みなさんはもっと豊かな働き方ができると思いますか?

このコーナーでは、「働き方」に関するさまざまな話題を取り上げて、「幸せな働き方って何だろう?」ということを考えていきたいと思っています。

■埼玉県の公立学校でタイムカード導入

学校の先生たちの労働環境の改善を……。こではここ数年言われていることですが、埼玉県では、県立学校でのタイムカードの導入を認めることになりました。今回とりまとめられた埼玉県の「学校における働き方改革基本方針」では、教員の残業上限を月45時間、年360時間にするといった内容も盛り込まれています。

果たしてこれでどのような効果が出るか、注目したいところです。

実は新年度から、ツイッターで若手の公立学校の教員さんたちのアカウントをいくつかチェックしています。そこには、こんな悲痛なツイートが溢れています。

・45分と決められている休憩時間が、実際にはない
・勤務時間内に授業のための教材研究をする時間がとれない
・月80〜100時間のサービス残業が当たり前
・部活顧問を拒否できなかった
・土日も部活で休めないが、保護者に「練習時間を増やしてほしい」と言われた

この春に晴れて先生になった方が、4月の半ばには過酷な労働環境から、帰りのバスで思わず涙をこぼしてしまった……という話もありました。本当に胸が痛みます。

学習支援団体を運営している私からしたら、本音は「せめて子どもには、学校の中でしっかり格差是正をしてほしい」なのですが(そして、それができていない現実を見て団体を立ち上げたのですが)、授業外の補習を増やすとか、さまざまな事情のある子に個別にしっかり対応するとか、これ以上の負担を教員に強いるのは酷な話です。

学校は、まずその構造を変え、労働環境を整えるところから始めなければ、子どもたちへの教育の質は上がらないでしょう。2020年の教育改革では新しい教育課程も出てきますが、この意図をしっかり汲んですぐさま結果を出すというのは、今の労働環境ではとても難しいような気もします。

埼玉県のように、学校にもタイムカードを。こうした動きから、少しずつ始めて行くことが大切だと思います。ただし、タイムカードを定時を目安に押すだけ押して、実際はサービス残業をしている……なんてことのないように(そういう会社はいくつもあります)。

■子どもたちのためにも、先生の労働環境改善を

子どもたちにとって、「社会」を学ぶ場所であるのが、まず学校です。地域社会というのもありますが、昨今はあまり機能しなくなっています。

子どもたちは他の多くの子ども、また教員たちと毎日過ごしながら、学校という小さな箱を通じて世の中というものを考えるようになっていきます。そこにいる大人、つまり教員というのは、親以外に関わる大人の中で、とても大きな影響力を持ちます。この教員の皆さんが過剰なストレスや過労に脅かされることなく働けることというのは、子どもたちにとっても、とても重要なことなのではないでしょうか。

学校というのは閉ざされた空間だとよく言われます。いじめなどが起こったときには、学校内で解決することが求められます。外部からこうした問題が見抜きづらく、介入もしづらいのが現状です。

閉鎖された空間の中で、子どもたちはときにストレスを溜め込んだり、学校に行くのが嫌になったりします。そんな中で、先生たちもストレスを溜め込んでいたり、疲れ切っていたりしたら、空気は悪くなる一方ですし、何かが起こったときにしっかりした対応をとることは難しくなります。

また、学校の先生になりたい人が減ってしまうのも問題です。このところ、効率教員採用選考の倍率は下がっています。この背景には売り手市場の就職状況によって民間企業に流れる人が増えたことと、教育現場のブラック化の2つがあると言われています。

このまま倍率が下がっていけば、教員の質の担保ができなくなるということも、あり得るのではないでしょうか。やはり子どもたちのためにも、先生たちが安心して仕事ができる労働環境を整えることは、急務だと思います。

■この話、他人事じゃないんです!

と、学校の労働環境について書いてきましたが、多くの人はどこか他人事のように感じてしまうかもしれません。

「生徒たちのために自分を犠牲にできるのが、いい先生なのでは」

という感覚を持っている人も少なくないと思います。金八先生みたいな先生が昔はいたけど、今はああいう熱い人はいなくなった……と嘆いている人もいるかもしれません。

でも、そういう感覚が、すべての働く人の環境改善を妨げているということは、知っておいてほしいなと思います。

「仕事に情熱を傾けてプライベートを犠牲にするのが、デキるサラリーマンというものだ」「本当に仕事が好きなら、寝る間も惜しんで働くはずだ」こういう「情熱」とか「好き」という言葉を盾に、だから人生のその他の部分はないがしろにしてでも仕事を優先すべしというのは、ブラック企業を生き残らせる考え方に他なりません。

「公務員はまだマシ、自分なんか……」と不幸比べをするのもやめましょう。足の引っ張り合いをしていいことなんか、何ひとつありません。

どんな人にも、健やかに働く権利はあります。先生たちが働く人の権利を正しく使い、間違ったことには間違っていると声をあげてくれたら、子どもたちはその背中を見て育ちます。

その子どもたちが、次の社会をつくっていくのです。


大西桃子
1980年生まれ。出版社2社、電子出版社1社の勤務を経て、2012年よりフリーのライター・編集者として活動。2014年より経済的に困難を抱える中学生を対象にした「無料塾」を立ち上げ、運営。


いつも「未来の仕事屋」のnoteをご覧いただいて、ありがとうございます。サポートは不要ですので、そのお金でどうぞ有料コンテンツをお楽しみください!