未来の届けたい働き方

政府オススメの「フリーランス」は、ポイントがズレズレです

働き方改革が進められる今。みなさんの働き方には、何か変化が起こっているでしょうか? そもそも、どんなふうに改革されれば、みなさんはもっと豊かな働き方ができると思いますか?

このコーナーでは、「働き方」に関するさまざまな話題を取り上げて、「幸せな働き方って何だろう?」ということを考えていきたいと思っています。

■「Uber Eats」は個人事業主だから楽しめるのでは?

今、国会では、働き方改革の議論も引き続き進められています。2月4日には共産党の議員が「Uber Eats」について質問していました。

「Uber Eats」の配達員は企業の指揮命令によって働いているのに、労災保険がなく最低賃金も適用されず、団体交渉権も保障されていない個人事業主の扱い。これは健全なのかという内容でした。

安倍総理の答弁は、「指摘のような形が広がっていくことがいいとは決して思っていない」「フリーランスなど雇用によらない働き方の保護のあり方については、多様で柔軟な働き方を後押しする政府としても、取り組んでいくべき課題」というものでした。

この質問に対して、ちょっと引っかかったフリーランスの人は多いのではないかなと思います。「Uber Eats」は「自分の好きな時間に配達でお金を稼ぎたい人」と「食べたい飲食店の食事を家に運んでほしい人」とをマッチングするアプリで、配達員は雇用されている労働者ではなく、個人事業主。登録をすることで「稼ぎたいときに稼げるサービス」を受ける側とも言えます。ボーナスタイムに配達すればギャラが上乗せされるという、ゲーム的な要素もあり、これを配達員同士で情報交換しながら楽しんでやっている人もいます(以前配達員さんに取材をしたのですが、本当に楽しそうでした!)。

だから、副業として空き時間にやっている人も多いし、配達をしたくない日には仕事を受ける必要もありません。そういう働き方をしたいから「Uber Eats」の配達員をしたいという人が増えたわけで、これが一般的な「労働者」として働かなければならないのなら、やらないという人も多いのではないでしょうか。

フリーランスのいいところは、自分で仕事を裁量できるところです。そして、多くのフリーランスは自分で保険に入っていたり、賃金が低い仕事は断ったりしながら仕事をしています。保険も賃金も会社にきちんとお世話してもらいたいという人は、フリーランスにはなっていないのではないかなと思います。

■「閉塞感から抜けたい」だけでフリーになっても……

ただ、個人事業主になるということはそういうことなので、安易に「フリーランスという働き方を広げよう」みたいなことは、政府は言わないほうがいいんじゃないかなと思うんですね。

「未来投資会議」という政策会議から昨年12月に公表された「新たな成長戦略実行計画策定に関する中間報告(案)」には、こんなことが書かれています。

2.人材 ~組織の中に閉じ込められ固定されている人の解放
(1)フリーランスなど、雇用によらない働き方の政策
技術の進展により、インターネットを通じて短期・単発の仕事を請け負い、個人で働く新しい就業形態が増加しており、特に、高齢者の就業機会の拡大に貢献することが期待される。日本でも、40代以上のフリーランスが全体の7割弱を占めている。また、個人事業主・フリーランスと会社員の満足度を比較すると、個人事業主・フリーランスの方が満足度が高い。特に「達成感/充実感」、「スキル/知識/経験の向上」では差がついている。多様な働き方の一つとして、希望する個人が個人事業主・フリーランスを選択できる環境を整える必要がある。

フリーランスで生きていくには、スキル・知識・経験の向上はマストですし、「この仕事が好き」という気持ちがなければ続けていくことが難しいので、ここに書いてあることは当たり前です。

でも、フリーになったから正社員よりも満足度が高くなるのかといったらそうではないと思います。フリーでじゅうぶんに稼げずにドロップアウトする人もたくさんいます。受けた仕事をうまくこなせなかったり、そもそも人脈が作れず仕事が少なかったりして、会社員に戻っていくフリーランスを私は何人も見ています。

生き残っているフリーランスが、生き残れるだけの満足度を得ているだけなのではないかな……とも、上記の報告書を読んでいて感じてしまいました。だから、安易に「希望すればフリーになれる環境を」と言ってしまっていいものだろうか、と思うのです。

だいたい、見出しの「組織の中に閉じ込められ固定されている人」という書き方が、正社員の方々に失礼じゃないでしょうか……。仕事ができる人は、組織の中でも自由闊達に働き、リーダーとして多くの人をまとめたり、素晴らしいアイデアで利益を上げたりしているはずです。それに、企業が期待するだけの労働をきちんと提供し続ける代わりに、毎日の生活を安定させる権利を得る生き方だって、いいじゃないですか。

さらに、「閉じ込められる生き方が嫌」「固定から開放されたい」というだけでフリーランスで食べて行くことって難しいと思うのです。「これをやりたい」「これでもっと仕事の幅を広げたい」と自分の仕事をじっくり見つめた結果、フリーランスになるならいいのですが。

ちなみに、確かにフリーランスは自分の時間を自由に使えますが、閉じ込められたり固定されたりということから完全に解放されるわけではありません。仕事をもらうために人間関係を密に作っていく必要もありますし、納期に追われて寝ずに仕事をしても、誰もそれを「残業」だとは思ってくれませんから、愚痴を言うこともできません……。

■まずは今ある「下請法」遵守をお願いします!

……と、働き方改革の議論に対しては「なんかズレてるなぁ」と思うことが多いのですが、ひとつフリーランスの待遇を「こうしてくれ」というものがあるとすれば、企業に下請法遵守の徹底をお願いしたいなと思います。

フリーランスを守ってくれる法律があるとするなら、労働法ではなく下請法です。買い叩きや支払いの遅延などは、下請法で禁止されていますが、これに苦しむフリーランスは各業界に存在しています。あまりにもよく聞く話なので、夕刊紙で未払いを食らったフリーランスたちのインタビュー連載を行ったこともあります。その中には、数百万円の未払いによって仕事に必要な経費を借金したという人や、裁判をしてものらりくらりと交わされ続けて消耗しきった人も。

かくいう私も1度原稿料の未払いを食らい、フリーランスの弱さを実感したことがあります。頼れる先として中小企業庁の「下請けかけこみ寺」というものがあるのですが、ここにメールを2回送ったところ、どちらも返信はありませんでした。かけこみ寺、もぬけの殻……。

フリーランスという働き方を国が肯定的に見てくれるのであれば、今ある法律をきちんと守ってもらうことでフリーランスが生活できる環境をつくる、ということを徹底してほしいなと思うのです(あと、かけこみ寺もちゃんと動いてください)。
そこが疎かになったまま、フリーランスを増やすために何か飛び道具のような政策が飛び出してきたら、あちこちで阿鼻叫喚が響き渡ることになるのではないかとヒヤヒヤしてしまいます。


大西桃子
1980年生まれ。出版社2社、電子出版社1社の勤務を経て、2012年よりフリーのライター・編集者として活動。2014年より経済的に困難を抱える中学生を対象にした「無料塾」を立ち上げ、運営。

▼大西さんご執筆の最新刊はこちらです。


いつも「未来の仕事屋」のnoteをご覧いただいて、ありがとうございます。サポートは不要ですので、そのお金でどうぞ有料コンテンツをお楽しみください!