「学校を立て直す」をミッションに、イノベーションが起きないか?
働き方改革が進められる今。みなさんの働き方には、何か変化が起こっているでしょうか? そもそも、どんなふうに改革されれば、みなさんはもっと豊かな働き方ができると思いますか?
このコーナーでは、「働き方」に関するさまざまな話題を取り上げて、「幸せな働き方って何だろう?」ということを考えていきたいと思っています。
■何度も出ては消えた9月入学制度案
緊急事態宣言が継続され、学校の休校も各地で延期となっています。多くの子どもたちが3月から学校で勉強できず、自宅学習に励んでいます。励む環境がある子は、ですが……。
小さな兄弟が多い子は学習に集中できる環境をもてなかったり、家計がピンチになってバイトを始めたり、シフトを増やしたりしている高校生たちもいます。環境によっては、このように勉強どころではない子どもたちもいます。
学校に行けば、勉強に集中できる場所と時間が与えられる。でもそれが奪われてしまって、もう2カ月が経ちました。
そしてこのところ、にわかに「学年の始まりを9月にしたらどうだろう」という話が持ち上がってきています。この9月入学という話は、もうずっと前、それこそ昭和からたびたび持ち上がってきていた話でした。
海外の多くの国では、学校は9月に始まります。日本もそれに合わせるべきではないかということです。そうすれば、今のグローバル社会において、海外からの優秀な学生に入学してもらいやすくなるし、そのまま日本の企業で活躍してもらうこともしやすくなる、と。
ただし、この話が持ち上がるたびに、就職活動に混乱を来すとか、会社の事業年度とのずれをどうするかといった問題点が持ち上がり、うやむやになってきたというのが現状です。
東京大学も平成24年に9月入学の構想を公表していましたが、日本の就職活動との時期のずれや、大学に合格した高校生が3月に卒業してから9月まで何をすればいいか、といった課題がクリアできず、導入が見送られています。
こういう経緯がある中で、コロナの問題が起こり、学校はストップ。それならば、いっそ9月始まりにしてはどうか。今こそ変えるチャンスなのではないか。9月入学に賛成してきた人たちは、ここぞとばかりに声を挙げています。
実は私も、9月始まりにできるならしたほうがいいと思っていました。それは、企業の新卒一括採用の撤廃とセットでという考えですが……。
ただ、今はどうしても、「やめて」と思ってしまいます。今賛成している人が、「学習指導要綱の消化をするにはそれしかない」という理由で推しているなら、なおさら「ふざけるな」と思います。
■IT化もできないのに制度改革はムリ
学校を9月始まりにするというのは、新しい単元を授業で習えないまま止まってしまっている子どもたちにとっては、一見いいことのようにも思えます。家庭に勉強する環境がなく、今の時期に予習が進められていない子も、9月からちゃんと授業で受けられるなら安心です。
ですが……。今の教育現場が、9月始まりですんなりと動けるとは、まったく思えないのです。なぜなら、今この時点で、やれることがやれていないからです。
たとえば授業のオンライン化。もちろん、導入が難しい理由はよくわかります。家庭によってIT環境の差があるため、平等な教育が実現できない。これについては一番よく理解できます。
ただ、それ以外の理由はちょっと「?」です。聞いてみると……、
「学校のパソコンではセキュリティが厳しく、YoutubeやZoomなどを使えない」
「オンライン授業をどうやってやればいいのか、先生たちが慣れておらず手が出せない」
「学校のサーバー容量が足りないから映像配信ができない」
このあたりの理由は、もう聞いていてツライですね。先生方が悪いわけではありません。これまで学校という労働環境がいかに時代遅れな場所であったかが、よくわかるという話です。
40代くらいまでの先生方なら、ITスキルはそれなりにもっている方も多いと思います。そのスキルで仕事を効率化できると思ったことも多々あったはずです。でも、それが実現されてこなかった。そのツケが、今回ってきているのだと感じます。そして、そのツケは子どもたちに回されています。最終的に、いつも子どもたちが振り回されることになってしまう……。
もし、これまでの教育現場に、少しでもビジネス社会で普通に進化してきた仕事効率化のノウハウが取り入れられていたら、こんなことにはならなかったはずで、もどかしい思いです。時代の進化についていくということの大切さを、改めて感じてしまいます。
でも、だからこそ、今はそこから変えてほしいんです。しかも早急に。今すぐに。お金や人材が必要なら、とにかくあらゆる手段で投入して。9月入学にすることになれば、そういう余裕はもう1ミリもなくなりそうで怖いです。今がないがしろにされてしまうように感じます。
本当に変えるべきは、何なのでしょうか。
■子どもたちの「今」をサポートするアイデアを!
子どもたちは、待っています。
学校は、勉強を教えるだけの場所ではありません。たくさんの人とのかかわりの中でコミュニケーションを学び、自分を見つめ、ともに生きるとはどういうことかを考える場所です。そのことも、学校には忘れないでいてほしいと思います。
「クラスの子たちとちゃんと関係が作れるか心配」
「担任の先生がどんな人かわからないから不安」
「とにかくクラスメイトと話したい!」
子どもたちは学校にいる「誰か」と、かかわる機会をずっと待っています。
だから、オンラインで「授業をする」「勉強をやらせる」ことだけにこだわらず、今できることをやってもらえたらと思います。集団で教室に集まる以外にも、「かかわる」機会の作り方はいろいろあるはずです。
そこにアイデアを出して行くこと、そしてそのアイデアを上層部はきちんと検討すること。「従来やってきていないから無理」という判断だけはしないこと。つぶれる会社の典型的な判断ミスのようなことは起こさないでいただきたいです。上が判断ミスをしてもつぶれない公立の学校では、その割を食うのは子どもたちですから。
子どもたちは、今も成長しています。
自己管理をしてしっかり勉強に励んでいる子。家族を頑張って支えている子。不安な気持ちと向き合っている子。
学校が止まっても、子どもたちの成長が止まっているわけではありません。その、「今」の子どもたちの成長にフォーカスすれば、できることはまだまだあるはずです。
そして、私たちは、「学校は何をやっているの」と批判だけするのではなく、学校の先生たちの労働環境の問題にもう一度目を向けて、どうやったら変わっていけるのかを一緒に考えるべきです。
うまく効率化ができない職場が有事にどんな不具合を起こすのか。組織体制が古いとどういう面で困るのか。目的と手段を手違えるとどんなことが起こるのか。申し訳ないですけれど、ビジネスのあり方を見直すには、今の学校はいいモデルになってくれています。学校を今すぐ機能させるということを考えてみると、さまざまな業種から面白いアイデアもたくさん出てきそうです。
教育に関係のないお仕事をされている方も、少しビジネス視点で学校を見て、明るい方向で意見を出し合ってみませんか。「学校を立て直す」というミッションを仮定して、頭を動かすことで、何かが生まれるかもしれません。
大西桃子
1980年生まれ。出版社2社、電子出版社1社の勤務を経て、2012年よりフリーのライター・編集者として活動。2014年より経済的に困難を抱える中学生を対象にした「無料塾」を立ち上げ、運営。
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