未来の届けたい働き方

「働き方」の多様化について子どもたちに伝える

働き方改革が進められる今。みなさんの働き方には、何か変化が起こっているでしょうか? そもそも、どんなふうに改革されれば、みなさんはもっと豊かな働き方ができると思いますか?

このコーナーでは、「働き方」に関するさまざまな話題を取り上げて、「幸せな働き方って何だろう?」ということを考えていきたいと思っています。

■中学生に、「仕事」の授業をすることに

私が今運営している、学習支援団体で、「子どもたちに『仕事』について考えてもらおう」という授業を行うことになりました。

相手は中学生、アルバイトをしている子もおらず、まだ働くということを身近には感じていない年頃です。それでも情報が発達している今は「高校生や大学生で起業している子がいる」とか「ブラック企業っていうのがあるらしい」といった話題は出てきます。こんな仕事をしてみたいという夢をもっている子もいます。でも、まだまだ仕事というものに対するイメージはぼんやりしている段階です。

こういう年頃の子どもたちに、どんなことをどういうふうに伝えようか。この授業を担当してくれるチームが、いろいろなことを考えてくれました。

そこで決まったこととしては、まず、前提として伝えるのは、中学卒業後にどのような進学先を経たとしても、最後にたどりつくのは、たいていの場合「仕事」であるということ。専業主婦という選択肢をとった場合それを仕事ととらえるかどうかとか、病気などで働けない場合とか、何かの拍子に大金持ちになって働かない人生もあり得るかも、ということもありますが、だいたいの人は学校を出たら「働く」ということになるはずです。

作成してくれたスライドでは、この前提からはじまり、仕事の種類や、そのためにどんな進路があるのかといったことが盛り込まれています。授業の後半ではグループに分かれて、実際に社会でさまざまな仕事をもっているボランティアスタッフたちが、その仕事の話をするという流れになりました。

この授業の準備をしながら、スタッフたちが議論をしているのを見て、私にはさまざまな気付きがありました。

■仕事の種類だけでなく、働く動機や働き方も重要

まず、自分の仕事をどうやって見つけるのか、という方法を伝えるときに、

「仕事をしなければならないからではなく、自分がやりたい仕事またはこうありたい者になるために仕事を選択する」

ということを盛り込もうといった案が出てきたこと。

大人になって働いていると、仕事はどうしても「やらなければならないこと」という感覚になってしまい、その姿を身近な子どもたちに見せ続けると、その子どももきっと「仕事は大人の義務」と思ってしまうだろうなと思いました。

これについて、20代の男性がこんなことを言っていました。

「働いたことがないときの仕事に対するイメージは、『つらい思いをしてガマンをしながら働く』というもので、『忙しく働くのがカッコイイ』というイメージもありました。でも、実際自分が働いてみたら、そうではなかったことに気がつきました」

働くことにはさまざまな動機があるということに気がつき、このイメージどおりにガツガツ働いている人もいれば、必ずしも週休2日ではなく、必要な分だけ働くという人もいて、働き方の多様化にも気がついたということです。

こういうやりとりを見ていて、中学生に仕事のことを伝えようとすると、どうしても「どんな仕事があるか」ということをメインにしてしまいがちですが、どんな動機で働くのか、どんな働き方をするのかということも、とても重要なことなのではないかと思いました。

大人はどうしても、子どもに何かを伝えようとするときに、自分が生きてきた道を中心に話してしまいます。「会社で働く」ということが圧倒的に「普通」だと思われていた時代は、もう終わりに近付いてきています。今までは「どんな会社に入って何をするか」という、業種名や職種名を入り口として仕事について語るのが普通だったのかもしれませんが、子どもたちが大人になる頃にそれが通用するのかはわかりません。そろそろ大人たちも変わるべきだなと感じました。

■この仕事にこういう価値がある、と決めつけない

ちょっと話は変わりますが、先日、ある研究会で学習支援についてお話しする機会をいただきました。そのとき、子どもたちにキャリア授業も行っているという話をすると、

「ぜひ公務員という働き方を勧めてあげてほしい。人のために働くという尊い仕事だから」

と言われました。公務員として数十年働いてきた方からの言葉でした。

私はこの言葉にとても違和感を覚えました。

公務員というのは選択肢のひとつとしてもちろんあるのですが、特定の働き方を「勧める」ということは私はしたくないし、子どもたちには自由に選んでほしいと思っています。

それに、公務員だけが人のために働いているわけではありません。公務員は人のために働く尊い仕事だから他の仕事よりも上なのだ、という価値観をもっているのだとしても(そういう意識があるかどうかは聞きませんでしたが)、それを人に押し付けるのは間違っているのではないかと思いました。

子どもたちに対して大人が仕事を語るときには、あくまでも、「その子の将来のメニューのひとつとして、仕事の価値というものを決めつけずに提示する」といことを心がけたいなと思いました。起業したから偉い、有名な会社に入ったから偉い、公務員として地域や国を支えるのが偉い、といった感覚に子どもたちを染めないように。

誰もが、自分なりの動機をもって仕事を選び、その仕事に誇りをもてるように。


大西桃子
1980年生まれ。出版社2社、電子出版社1社の勤務を経て、2012年よりフリーのライター・編集者として活動。2014年より経済的に困難を抱える中学生を対象にした「無料塾」を立ち上げ、運営。


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