VRの『つぎの世界』は何か、『リアル世界』と『VR世界』の関係性から考えてみた
はじめに(『はじまりのおわり』に続く時代とは?)
僕がVRChatを始めたのは2021年12月のことだ。当時(旧名)OculusQuest2の大規模セールが行われており、僕も含め多くの人がVRChatの世界に参入していた時期だった。
そのころから、「VRChatの『始まりの時代』は終わりかけているのでは?」とぼんやり思っていた。少数の人間が当事者意識を持ってコミュニティを形成し、盛り上げようとしている雰囲気が僕がVRChatを始めた当時はかろうじてあった気がする。
時が経ってVRChatのプレイヤーが増え、良い意味ではVRChatの世界に入りやすくなった一方、悪い意味ではVRChatに対する当事者意識が薄れて行っていた気がする。
それは自分が10年ほど前から居たtwitter(現X)の移り変わりを見ているようでもあり。「VRChatの世界も遠からず同じ道を歩むんだろうな」とぼんやり思っていた。
そんな「VRChatの黎明期のおわり」をより強く意識するようになったのが2023年の1月に見たキヌさんのバーチャルライブ『はじまりのおわり』だった。
一つの時代のおわりを認識しながら、「それでも自分はここで表現し続ける」という覚悟のこもった言葉とパフォーマンスに強く衝撃を受け、それ以来「VRChatの、そしてVR文化の『はじまりの次の時代』はなんだろう?』とより考えるようになった。
ということで、本稿では『VR文化の「はじまりの次の時代」とはなにか』について述べていこうと思う。
VR文化の「次の時代」を考えるにあたって、いろいろな視点での捉え方が可能であると思うが、本稿では「リアル(物質)世界」と「VR世界」との関係性について注目して話を進めていきたいと思う。
リアル世界とVR世界の関係についての二つの「極論」とそれへの反論
リアル世界とVR世界(『メタバース』と呼ばれることもあるが)の関係性と将来について、2つの両極端な意見を時折見かける。
リアル世界とVR世界は完全に異なるものであり、今後VR世界はリアル世界とは別の方向へ進化発展していくだろう。
VRのブームは既に終わっており、VR世界は今後衰退しやがて消滅するだろう。
僕は「恐らくVR世界はどちらの道も歩まない」と考えている。その理由についてこれから述べていこうと思う。
1-1 リアル世界から独立するには、VRで体感できることは少なすぎる
まずは「VR世界はリアル世界とは別の道を歩む」という意見に対しての反論から。
簡単に言うと、人間の五感のうちVRで補える感覚は『視覚』と『聴覚』の二つに過ぎない。残りの『味覚』『嗅覚』『触覚』を欠いた状態での体験は、どうしてもリアルの体験よりも印象が弱くなってしまうと感じている。
1-2 進みつつあるVRとリアルの『接続』
また、この一年だけで見てもVRとリアル(現実世界)を接続するような内容のイベントが増えてきている事実もある。
VRChat内で活動しているDJやバンドがリアルのクラブやライブハウスで演奏した、という話も目立つ(9月に開催された『VARTISTs(ヴァーティスツ)』は後者の代表例ともいえる)し、今年夏と冬に行われた「バーチャルマーケット2023 リアル(Vket Real)』はVRとリアルを大規模に接続しようとしたケースと言える。
「リアル世界の代替になるにはVR世界は体験の強度が弱いし、事実としてVRとリアルが接続するイベントが増えてきてる」というのが『VRがリアルとは別の方向に進化していく』意見への反論の要約になる。
2-1 X(twitter)やYouTubeなどのSNSでは出来ない『密なコミュニケーション』
次は『VR世界は今後衰退し消滅する』という意見に対する反論。
『VRガンナガン』のワールドについてバーチャルライフマガジンで記事を執筆した際、VRワールドの制作団体の代表理事であるとむこ(TOMCO)さんがこんな事をおっしゃっていた。
オンラインゲームに限らず、X(twitter)やYouTubeなどの(VRではない)SNSにおける交流において、相手の姿は見えない。『文字(種類によっては音声も含む)データしかない相手』を相手にコミュニケーションすることになる。
これに対して、VRでの交流は『アバターとして目の前に存在し、身振り手振りでコミュニケーションを取ってくる相手』が対象になる。こちらの方がより(喜怒哀楽の有る)人間を相手にしている感じは出るだろう、と感じる。
インタビューでは『暴言の減少』という視点のみで利点が語られていたが、それだけでなく『SNSでの交流よりもより深く、密なコミュニケーションが行える』という利点も挙げられる。
(非VRの)SNSと比べてより密なコミュニケーションができるというのはVRの大きなアドバンテージになりうる、と自分は感じている。
2-2 『無料で使える場所』としてのVRSNS
VRガンナガンの少し後に書いた『MilCrysta DJ Party at Club Regulus Delta』というDJイベントの記事関連でインタビューを行った際、リアル・VR両方の世界でVJ・DJとして活躍しているnovuさん達に『リアルとVRのクラブの違いってどこでしょう?』と質問したことがある。その時のnovuさんの回答(の一部)がこちら。
クラブイベントに限らず、現実世界においてはイベント開催に『運営コスト』というものが発生する。会場の維持管理費や人件費、その他色々なところでお金が発生する。
ところが、VR世界ではその『コスト』を気にすることなく会場を使ってイベントを開くことが出来る。
これはVRChatをはじめとしたVRSNSのプラットフォームを運営している会社が『サーバー使用料などのコストをいちいちユーザーに請求せず、基本無料で提供している』という運用方針を取っているところに依る部分も大きいと思うが、ともかくそのおかげで駆け出しのパフォーマー・イベント主催者が採算を気にすることなく何度でも表現活動をすることが出来るシステムが出来上がっている。
観客も参加費を気にせずに多くのパフォーマンス・イベントを楽しむことが出来る、という点も含め、VRでは多くのパフォーマンス・イベントを無料で開くことが出来る事はVRのもう一つのアドバンテージと考えている。
『VRでは(非VRの)SNSと比べてより密なコミュニケーションが出来るし、無料で多くのパフォーマンスやイベントを開催し見る事が出来る。これはリアル世界や既存のインターネットでは代わりの効かないVR世界のメリットであり、これが有る限りVRが無くなることはないだろう』というのが僕の反論のまとめになる。
まとめ~表現・交流の拠点としてのVR世界~
僕は、VR世界は『リアル世界を補完する、表現や交流の拠点』として生き残っていく、と考えている。
VRの世界には既存のインターネットでは置き換える事ができない、リアル世界に無いメリットや魅力がある以上、ブームが終わったからと言って消えてなくなる事は無いと思う(そう信じている)。
その一方で、リアル世界における体験の強さにはVRはまだまだ敵わないし、VR世界を不自由なく楽しむにはスマートフォンなどでインターネットをするよりも遙かに高い出費が必要となる事を考えるとVRが独自の世界を構築するほどに広まる未来も想像しにくい(あくまで今の段階では、だけど)。
なので、僕の考える『VRのはじまりの次の時代』は『リアルを補完する表現・交流の場としてVRが歩み続ける時代』……と、言葉にすればこういう事になる。
ありがちで面白みの無い結論かもしれないけど、「これが自分達の現在地なんだ」という認識を持ってこれからのVR世界で生きていこう、って僕はそう思ってる。
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