ミニ小説 短歌 詩 雑文

「それで、お前は俺の何が気に入らないんだ」
深夜三時、このまま永遠に続くかと思われた沈黙を破ったのは修二の一言だった。
少しの沈黙の後、洋子が続けた。
「あなたといたら、息が詰まるのよ」
「ふん」
修二はコップを持ち上げ、もう中にはほとんど残っていないはずの水を飲み干すように勢いをつけて口に向かって傾けた後、吐き捨てるように言った。
「何が、息が詰まるだ」
「あなたといたら、息が詰まるのよ」
「だから何が息が詰まるんだと言ってるんだ!だいたいお前がだらしなく、間違ったことばかり言っているから俺もお前に注意しているんだ」
「あなたといると、まるで部屋が深海のように重くなるの」
「あ?」
「あなたといたら息がしにくい、息苦しいのよ。まるで深海にいるみたい」
「何が深海だ。はっ笑わせやがって」
「あなたといるのはね、重厚な機械だらけの部屋に連れ込まれて、私が動くたびに反応する幾つものセンサーがモニターに映っていて、その部屋の中でなんの指示も与えられずに過ごさなければいけないような気分だわ!」
「あぁ?」
「なにを見られているかわからないけど、とにかくジロジロ私の一挙手一投足を監視されている気分になるって言うことよ!!」
「俺は監視なんかしていない!そう感じるのはお前自身の問題だろ!!」
「天日干ししている昆布の横に、バケツにパンパンの洗剤が入っているのを見ている気分だわ!」
「はっ」
「なんらかの工程で昆布をバケツの中の水に入れるのかも知れなくて、それを間違えて洗剤の中に入れちゃうんじゃないか、って無駄な心配をしてしまってストレスになるのよ!!」
「それもお前が勝手に気にしているだけだろう!!」
「深夜の公園で何か個人撮影のようなものをしていて、その横を通るときに撮影を中断して、中断していることを悟られないような気を遣っている風に雑談めいたことをされるより、完全に動きを停止してこちらが過ぎるのを待っている、というふうにされた方が気を遣わないのよ!」
「お前にはもう付き合ってられない!」
修二は部屋を出て、洋子は1人部屋に残った。まるでさっきまでドーナツが入っていた空き箱のような部屋の中に、ぽつんと一つのドーナツが残っていて、そのドーナツはこれから長い時間を1人で耐えなければならない、誰が食べるかも、いつ食べられるかもわからないまま、コーティングされたチョコレートの奥にあるオールドファッションのカリカリのドーナツそのものの部分がスカスカに乾いていくのを秒単位で感じながらも、表面のチョコレートは光沢を失わないかのようだった。 完

・助けて 助けて 助けて と 5日前泣いた彼女が見てる TVerのドラマの巻き戻した部分

・炊き立てのご飯の匂いで気持ち悪くなると、知ってから気持ち悪くなる呪い

肉を食った 食った 食った 野菜も食った 食った 食った 家で眠った 眠った 眠った 外で歩いた 歩いた 歩いた 寒かったので 少し歩いて
家に 帰って 私 大号泣

先日、ウーバーイーツの配達員として都内を稼働していた際、商品を受け取りに行った店舗で、中に入るなり「ウーバー!?もうちょっと待って!!」と怒鳴られた。そこから少し待って、商品ができあがりそれを受け取る際もなぜかその人はめちゃめちゃ怒ってて、その怒りはおそらく、というかほぼほぼ明らかに僕が理由ではなく他の理由からなんだろうけど、僕が何かをしたらラストの一押しになりそうで笑って店を出て、お客さんに商品を届けた後、心が折れて家に帰ってしまった。その日はあと5配達はやろうと決めていたのに、心が折れてしまった。
しかし本来は僕には心が折れる権利なんてないのてす。なぜかというと、僕は過去にアルバイトしていた漫画喫茶において受けたお客様の背筋が凍るような、冷たく、そして冷徹な悪魔のような接客態度をとっていたからです。どのような接客態度だったかは、とてもここに書けるようなものではありません。ただ一つ、言い訳のような聞こえるかもしれませんが、僕は最初から接客態度が悪かった訳ではないのです。入ったばかりの頃はニコニコと楽しく接客をしていました。それが次第に、何度注意してもブースの中に30冊以上の漫画を放置して帰る客、会計をしつこく誤魔化そうとしてくる客、身分証がないと使えないのに、身分証無しで使わせろと1時間以上交渉してくる客、嘔吐するカップル、嘔吐するサラリーマン、ここには書ききれないほどの数々の接客に出会い、僕の体に少しづつ羽が生え、ツノが生え、牙が生え、最後には完全な悪魔の姿になってしまいました。そのイライラしていた店員も、理由があって悪魔になったはずなのです。
僕は今、なるべく人間の姿でウーバーをやっているつもりなのですが、ふと、それでもたまに悪魔の姿になってしまう時があります。先日、配達先のトラブルでウーバーがスムーズに行えず、デビルウーバーになってしまっていた時がありました。近所のコンビニの前に自転車を停め、商品をピックして急いで届け先に向かおうとしている時、じっと顔を見られました。(ウーバーイーツをしている姿がそんなに面白いか!!)と思い、ついキッとそちらを見てしまうと、その方は「ガクヅケの木田さんですか?」と僕に声をかけてくれました。その瞬間、僕に生えていた羽やツノや牙はとれ、人間の姿に戻らざるおえませんでした。僕は邪推をする癖があるので、本当に申し訳ないことをした、と思いながら感謝を伝え、ウーバーに戻りました。これからは勝手に攻撃的な気分にならず、世の中を楽しんで生きていきたいと思いました。

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