見出し画像

「奈良へ」

「奈良へ」という漫画を読んだ。とても面白かった。「奈良へ」は大山海さんという方が描かれた漫画で、ツイッターを眺めていたら「奈良へ」が出版されるという告知のツイートを見て、表紙とタイトルと帯の町田康さんのコメントが気になって僕は購入したのですが、読後、かなり買ってよかったなと思いました。詳しくは調べてもらったりして皆様にも買ってみてほしいのですが、漫画の面白さはもちろん、「奈良へ」というタイトル通り、奈良が舞台に描かれている場面が多いという点も奈良県出身の僕には非常に胸に来るものがありました。

皆様は馴染みないかもですが、劇中に出てくる「大和西大寺」「新大宮」や「猿沢池」という言葉は僕が19歳で奈良県から出るまでに通いまくっていた地名や駅名という事もあり、常に頭にある帰省願望をめちゃめちゃにくすぐられました。もちろんその要素がなくても漫画としてとても面白いのは十二分なのですが、それでもやはり冒頭で主人公らしき男がバイトの帰り道、電車に揺られながら(奈良に帰りたい)と思っているシーンなどは心を掴まれました。

奈良に帰りたい。僕は高校生になってすぐ、学校に毎日通うという事が耐えられなくなって親に「全国のお寺を巡りながら小説を書きたいので、高校を辞めさせてほしい」と頭を下げて頼み込んで、逆に「一生のお願いやからせっかく入ったんやから高校だけは出てください」と頭を下げ返されて口論の末に僕が負けて結局高校3年間野球部に入って楽しく通った。本気で学校が嫌でしょうがない人はそこで辞めて親の制止も振り切って寺を回って小説を書いていたのだろうけど、結局僕にはそこまでの気持ちはなかったんだなという自分の気持ちの弱さを微妙に常に感じながら、毎朝割と長い坂道を上って通っていた。僕の高校は周りは田んぼだらけで何もないところで、学校の中に古墳がありました。3年前ほどに帰省した時に観に行ったら「火葬場建築断固反対」という横断幕が学校の周りに張られており(火葬場ができるんや)と思って少し面白かった。でも火葬場ができてもおかしくないくらい、周りには何もない場所でした。

奈良に住んでいた時はとにかく奈良から出ていきたかったです。奈良から出ていきたいというより地元から出ていきたい、小中高の知り合いがいない土地で暮らしたいという気持ちが非常に強かった。中学時代、家から車で少し走らせたところに僕の父と母が気に入っているお好み焼き屋があったのですが、そこらへんは中学のヤンキー達が大量に住んでいる地域で、いつどのヤンキーがそのお好み焼き屋に入ってくるかもわからないといった状況で正直お好み焼きなど食えるような状況ではなかった。僕は毎回お好み焼きがきたら吸い込むような速さで食い終わり「先車戻るから鍵貸して」と言って車の鍵をもらって車に戻っていた。車に戻ると、店内と一転して絶対に誰にも見つからないという強烈な安堵感と開放感がおそってきて手と足を暴れさせて叫んでいたのを思い出します。

つまりこういう生き方を奈良にいる限りはずっと続けないといけないわけで、それはとても耐えられる事ではありませんでした。

この漫画を読むと、なぜかそういう記憶が蘇ってきて、ああ、ああ、と思っているうちに読み終えてしまうというような感じでした。

近所にできたおかわり自由の定食屋にヤンキー達が乗り込み、米をぱんぱんに詰めた茶碗を外の駐車場にひっくり返してその写真をブログに上げているのを見た時(本物のアホや)と震えたのですが、あまりにその悪戯をされるのに耐えかねた店側がおかわり制度を廃止にしたという話を聞いた時、僕は心底震えたのを覚えています。勝てない。おかわり自由の店のおかわりを廃止にさせるなんて、ありえないことです。ここで生きていてあんな奴らに勝てるはずがない、と思いました。

その時の気持ちも思い出しました。僕も今東京にいますが、それでもやはり、でも、奈良に帰りたいと思います。

夜中に東大寺行きたいなあ。高校の時の友達が夜中に一度「いい場所がある」と言って東大寺の横の山のようなところをスルスル登って行ってかなり上の方にある小さなお堂に連れて行ってくれて、そこから見るとかなり夜景が綺麗で「ここええなあ」と話した記憶があるんですが、そこから実家に帰るたびにそこに行こうと探すけど全然見つかりません。あれどこにあんねやろというのが今でもふとした時に気になるけども調べ方がわからず、今度帰った時は絶対徹底的に探そうと思います。奈良帰りたい。

「奈良へ」とは全然関係ない自分の話ばかりでしたが、それくらい簡単には書き切れない熱がある漫画でした。

とても面白かったので、皆さんも買ってみてください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?