見出し画像

山本大地の韓国音楽2023総括

今年の韓国大衆音楽シーンを総括し、アルバムのリストも発表したいと思います。


総括文

韓国大衆音楽シーンにとって、例年以上に多くの変化を経験した一年でした。と同時に、多くのジャンルはいま過渡期にあるでしょう。

NewJeansが全ての主役だったK-POP

まずK-POPでは、言うまでもなくNewJeansが変化の主役であり原動力でした。「Ditto」のヒットによりDrake、Lil Uzi Vertを超え、もはやジャージークラブ、Bモア・サウンドを流行らせたアイコンのように定着してしまった。年末の英米メディアのイヤーエンドリストでNewJeansの楽曲が当然のように選出されたことが物語るのは、今やK-POPは世界的な音楽シーンの流行を追いかけたり吸収するのではなく、リードすることができるということです。そのサウンド自体の関心を高めたNewJeansは、ストーリーとコンセプト、ダンス、ビジュアルなど様々な要素が重なり合う”総合芸術”であるK-POPにおいて、”音楽”そのものを再び中心に持ってきたのです。これはNewJeansの成功というよりミンヒジンと彼女が招聘したソングライターなどまで含めたNewJeansチームの成功というのが正しいでしょう。その成功に続き、英米圏のチャートで成功したFifty Fifty、春以降はLE SSERRAFIM、aespa、IVEまでもそれまでの華やかで、忙しなく展開の変わるマキシマムなサウンドから脱却した、ダンサブルでイージーリスニングなスタイルの楽曲を試して見せました。もはやK-POPはあの、ジャンルがぶつかり合い、大音量の破壊力を持った独歩的な形から脱却し、英米圏のポップそのものになったとも言えます。それはNewJeansのように流行を先導したという意味でもそうだし、Fifty Fiftyやジョングクのように自ら北米ポップの真ん中に飛び込んだアーティストを見ても言えるでしょう。これらは<HYBE>のバン・シヒョク議長の語る「K-POPから”K”を取らねばならない」という話とも関係がありそうですが、ここから彼らやJYPなどの世界戦略の話まで言ってしまうと、韓国国内音楽を語るこの文章の趣旨から外れてしまうのでここまでにします。

インディの登用、新人グループから見えるもの

変化はこれだけではありません。K-POPはこれまで以上にK-POP専門のソングライター以外の力も使っています。インディ・ミュージシャンも多数ソングキャンプに参加させ、NewJeansの「Ditto」に作詞で参加したOOHYOやジョ・ヒュイル(The Black Skirts)、TOMORROW X TOGETHERの「Skipping Stones」のメインソングライターの一人であるHANRORO、SUPER JUNIORのイェソンに継続的に作曲でサポートするキム・ダニエル(wave to earth)、IVE「Either Way」の作詞に参加したSWJA/ソヌジョンアらが実際に、彼ら彼女らの繊細な感性やユーモラスなリリック、ロック的なサウンドやソフトなメロディをK-POPアイドルの楽曲に乗せて、K-POPの音楽的多様性を拡張させました。Kiss Of Life、RIIZEなど新人グループの音楽性を見渡しても、K-POPの音楽的なアイデンティティは良い意味で揺らいでいると思います。多様性とも言えるし、どこに向かっているか模索している過渡期とも言えるでしょうし、まずはこの変化を楽しみたいです。

メインストリームの中心にいるのはもちろんアイドルだけではありません。AKMUの両A面でもないのに2曲ともヒットしてしまったシングルの大ヒットはもっと強調されなければなりません。K-POPを「韓国の若者たちのカルチャー」とするならこの2人こそがアイコンなのですから。

終わりじゃない、多様性が目立ったヒップホップ

Show Me The Moneyの終了や、1LLIONAIRE、VMC、HI-LITEといったシーンで影響力を持っていたレーベルの活動終了が2020年以降相次いていることで、みんなが「終わった」みたいな絶望的な言葉を吐き出していたヒップホップ/ラップシーン。ヒット曲は減りましたが、その分皆が口を揃えて「良いアルバムが多かった年」だと言っています。今年一番目立ったのはBeenzino、E Sensといった実力者がそれぞれのやり方で、ヒップホップのオーセンシティやスリルをもってして、出した、2枚の名盤です。Beenzinoはラップスキルはもちろん、誰もが口ずさみたくなる個性的ながらキャッチーなフロウ、ソングキャンプで募ったというサンプル使いが面白いトラックたちが良くて年末までずっと事あるごとに聴きたくなりました。E Sensはいつも通りのリズミカルでメリハリのあるラップに、聴き手をハッとさせたり、あるいは自身の内面を深掘りしたリリック、Hukky Shibasekiが全面プロデュースしたベースラインの強いトラックでこちらも完成度の高いアルバムでした。さすがです。それ以外に若手から中堅でも前作に続きKid Milliのアルバムもよかったし、ラップと自己プロデューシング共に大きく成長し汚面返上したSkyminhyuk(スカイミニョク)、エレクトロニカ・トラックで完全に個が際立った釜山初のデュオ、HYPNOSIS THERAPY、昨年末に大先輩BILL STAX、ブレイク中のoygliを率いてレーベル、<SKRR GANG BUSINESS>を創立し、実際に”トラップ代表”的な良作アルバムを出した代表lobonabeat!、フジロックに出演、説明不要の個性的なクルー、Balming Tigerなど多様なスタイルのアーティストが自身のキャリアのベスト、あるいはシーンに名前を告げるに十分のアルバムを出しました。それ以外にも「CHRISTIAN」で春にSNSとあなたの耳を席巻したZior ParkやSionを抱えた<Beautiful Noise>、Rad Museum、Tabberの2組のアルバムも素晴らしかった<you.will.knovv>、先述のBalming Tigerなどの、それぞれジャンルを超えメインストリームポップやロックのフィールドにまで勝負を出来る、韓国大衆音楽におけるオルタナティブな存在だと、個人的に思っているレーベルやクルーたちの存在感も年々強くなっているように感じます。こういう状況を見ていると、11年ぶりにShow Me The Moneyがなかった今こそジャンルの多様性が広がって、可視化されるのではと改めて思いました。

アンダーグラウンドが面白いR&B

R&B/ソウルシーンではZion T、Crush、DEANという2010年代のスターたちの帰還が頼もしかったですが、その次のアイコンが育っていないようにも思えます(トラップ・バラードというジャンルを開拓し続けるPaul Blancoの今後には少し期待)。ですが、若手の間でのオルタナティブR&B実力派の形成も見逃せません。Jerd、Jclef、SUMINなど自己プロデュース能力にも長けているアーティストが、親密で繊細な感性や先鋭的なビートで独自の世界を切り開き続けています。一方、バンド・スタイルのR&B、ネオソウル系サウンドからは、このジャンルでは一級のアーティスト、THAMA、THAMAのアルバムにも参加した韓国のFee Nationalとも呼ぶべき若手バンド、Sould Delivry、フリージャズを奏でる3人組バンド、Mandong、ジャム・サウンドで一線にい続けるCADEJOなど、どれも演奏力からステージングの華までかっこよく、個人的にもっと深く追っておきたかったです。このシーンではアンダーグラウンドでは才能が色々なところでリスナーの耳を楽しませています。

希望と心配のロック/インディ・シーン

長くなりましたが、後半の山、ロック/フォーク/シンガーソングライターをはじめとするインディーシーンを見てみます。韓国最大のロックフェス、INCHEON PENTAPORT ROCK FESTIVALは史上最大の観客動員数、15万人を記録したし、パンデミックが終息し、規模の大きいライブが増えたからこそ活躍が目立った、チャンギハ、Silica Gel、Se So Neon(So!YoON!(ファン・ソユンのソロ・アルバムも素晴らしかった)、イ・スンユン、TVのオーディション番組を経てさらにブレイクしたTOUCHED、ユダビン・バンドなどの活躍もまさに頼もしかったです。前述のようにK-POPシーンにフックアップされるインディシーンの才能たちがも多数見られるし、東南アジアなどでのインディバンドやR&Bアーティストのツアーの成功と海外でのリスナーの大幅な増加傾向は、今や海外でもK-POPの周辺にあるジャンル音楽に対する関心が高まっていることを知らせ、これらは今やこのジャンル/シーン自体の成長可能性を示した大きな例でした。

しかし、前述のアーティストたちのキャリアの第一歩を支え、成長させてくれたインディ/アンダーグラウンドシーン、その土台では、新人ミュージシャンたちの”目標”だったNaver ONSTAGEの終了、EBSの新人大賞「EBS共感ハロールーキー」が開催もされなかったりと、どのジャンル/シーンよりもインフラストラクチャー/基盤の安定性が重要なだけに今後を心配させるニュースが相次ぎました。コロナ以降、多数のライブハウスが営業を終了したり、人材が他ジャンルや業界に流れていってしまったような話も、未だ終わりでないのだなと思わせるほどよく聞きました。プラットフォームの多様・多数化による過渡期とも見れますが、個人的にはシーンの優れた人材や資本がK-POPなどの主流音楽に流れることには前向きな見方だけを持つことは出来ません。何よりインディ/アンダーグラウンドの基盤が強く維持され、そこからも多くの才能が発掘され光が当てられている状況であればいいのですが、その基盤が維持どころか、崩れ落ちそうな現状だからです。またK-POPのシーンでは、流行に適応すること、早く利益を出すことの優先順位も高まります。もちろん他ジャンルの働き方を体験することで学ぶこともたくさんあるしょうが、皆がK-POPや主流音楽を最終目標にしそればかりを目指す状況は健全とは思いません。インディ/アンダーグラウンドの基盤が維持されてこそ両者の交流は意味が強くなると思うのです(それは次の段落で紹介される、自らのアイデンティティを守って活動するアーティストたちのことを思えばなおさら)。外から見ている状況とは違って、韓国インディ・シーンはその”脆さ”がいま表面化してしまっているように思います

個性を確立したインディ音楽家たち

もちろん、このジャンルも主役はミュージシャンと作品そのものです。今年生まれた作品を見ると、このジャンルもヒップホップ/ラップジャンルで話したように、原点に戻ってルーツを確認したり、音楽性を変えながら自分だけの個性をさらに強化しようとする動きが強かったです。

特に20以上の国内フェスに出演したり、ファンダム規模もかなり大きくしたバンド、Silica Gelは、ファズ・ギターとメタリックで機械的な質感の音で自分たちだけのシグネチャーを作り、Melon Music Awardステージで大衆にもアピールさせました。自らが信頼出来るエンジニア、MV監督などと共に巧みにブランディングした点も含めそのDIY性は、メインストリームへのオルタナティブとして、インディペンデント・ミュージシャンやクルーたちのロールモデルとして、素晴らしいしものでしたし、彼らこそその活躍は韓国の大衆音楽シーン全体を見てもNewJeansと並ぶ「今年のアーティスト」級です。似たような方法論を持っていたhyukoh、ADOYのようなバンドが走り続けられなかった”次の道”を、年末に発表されたアルバム『POWER ANDRE 99』と共に2024年にも走り続けるでしょう。そのほかにも、バンド、Mandongのメンバーの実験的なジャズサウンドとマッチしたyoura、Cloud/アン・ダヨンの力を借りてオルタナティブロックのSSWと化したJungwoo(ジョンウ)、同じくプロデューサー、Piano Shoegazerとエレクトロニカの新しい可能性を見せたJang Myungsun(チャン・ミョンソン)はいずれも自らの音楽性を次のレヴェルに持ち込んだ姿が頼もしかったです。また、世界的に高く評価されたワンマン・シューゲイザー、Parannoulの後に続くように、インターネットにたくさんのファンダムを持つ、シューゲイズ、ミクスチャー、ベッドルーム音楽のBrokenteeth、nokdu、wapdiのような才能ももっと光が当たればいいなと思います。エレクトロニカでも、チャン・ミョンソンのアルバムをサポートした鍵盤シューゲイザーのPiano Shoegazer、Crush、So!YoON!へのトラック提供など注目の<Sound Supply Service>のMount XLR、Easymindとのコラボ作もよかったoddeenなど注目の才能を発見できました。フォーク音楽では、Lee Heemoon(イ・ヒムン)、Lee Minhwi(イ・ミンフィ)、Jeon JinHee(チョン・ジンヒ)、Yeoyu and Seolbin、Jeong Milla(チョン・ミラ)など、個人と社会を行き来しながら、自分の視点でアルバムを出したアーティストも輝いていました。

改めて、23年の韓国大衆音楽シーンは例年以上に「変化」、「過渡期」といった言葉が似合いました。このリストは私の個人的な好みを示すものではありません。そんな変化の中で、(0)単にアルバム自体が優れていて、今年を象徴していることはもちろんですが、(1)その変化を象徴していたり、(2)忙しなく動く韓国音楽シーンで自らの個性をアピール出来ていた作品、(4)そうすることでシーンやジャンルに2024年以降の”次・未来”を見せていたと思う作品を選んでいます。私の言いたいことがリストを通して伝われば幸いです。(対象期間2022年12月1日〜2023年11月30日)

30 Best Koean Albums of 2023

30. Yeoyu and Seolbin "희극 COMEDY" (Folk)
29. Young K "Letter with notes" (K-POP, Rock) 
28. bongjeingan ボンジェインガン "12 Languages" (Punk, Alternative-Rock, Hard-core)
27.  taepyong 태평시간 太平時間 "Love Candle" (Post-Punk, Noise)
26. Jeong JinHee "아무도 모르게 Without Anyone Knowing" (Folk) 
25. Lee Minhwi "미래의 고향 未来の故郷" (Folk) 
24. lobonabeat "Trapstar Lifestyle" (Rap, Trap, Hip-Hop)
23. Parannoul "After the Magic" (Shoegaze)
22. Crush "wonderego" (R&B, POP)
21. Lee HeeMoon, CADEJO "GANGNAM OASIS" (Traditional, Folk, R&B)

20. Brokenteeth "How to Sink Slowly 추락은 천천히" (Shoegaze)
19. Balming Tiger "January Never Dies" (Rap, Alternative Hip-Hop)
18. Lee Seolah イ・ソラ "Tiny Village 작은 마을" (Folk)
17. Skyminyuk "LIBERATION 해방" (Rap)
16. Tabber "Madness Always Turn to Sadness" (Pop, R&B)
15. RM "Indigo" (Pop, R&B)
14. youra "꽤 많은 수의 촉수 돌기 1" (R&B, Jazz)
13. E Sens "Jeogeumtong" (Hip-Hop, Rap)
12. WONHO ウォンホ "The Flower Time Machine" (Korean Rock, Psychedelic Rock, Folk)
11. Jclef ジェイクレフ "O, Pruned" (Alternative R&B)

10. Yoon Jiyoung ユン・ジヨン "In My Garden" (Folk, Folk-Rock, Pop)

9. Gongtokki ゴントッキ "하얀 밤 붉은 사랑 White Night Red Love" (Alternative Pop)

8. So!YoON! “Episode1 Love” (Pop, R&B, Rock)

7. jerd "BOOM" (Alternative R&B, Electronica) 

6. Jungwoo チョンウ "Cloud Cuckoo Land" (Alternative Rock, Pop, Folk)

5. NewJeans "NewJeans 2nd EP 'Get Up'" (K-POP, POP, Electronica)

4. HYPNOSIS THERAPY “PSILOCYBIN 실로시빈” (Hip-Hop, Rap, Electronica)

3. Silica Gel "Machine Boy" (Rock, Electronica)

2. Jang MyunSun チャン・ミョンソン "Angel's Share" (Electronica, Folk)

1.  BEENZINO "NOWITZKI" (Hip-Hop, Rap)

BEST PRODUCER

Hukky Shibaseki (E Sens "Jeogeumtong")
Cloud(Jungwoo "Cloud Cuckoo Land")
Piano Shoegazer(Jang MyungSun "Angel's Share")
Kim Chunchu(Yoon Jiyoung "In My Garden")

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?