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「うつくしい光景」

奄美に到着した次の日、潤ちゃんとさっちゃんと「パラダイスストア」に出かけた。
素敵なお洋服を見て触って、潤ちゃんは帽子を、わたしはグレーのビーサンを買った。
「パラダイスストア」の立地はほぼほぼ砂浜で、引き寄せられるように波打ち際へと足が向いてしまう。
11月だけど日差しがまだまだ眩しかった。
そんな陽をさえぎる木陰は、ガジュマルの巨木である。
縦横無尽なガジュマルの根っこにつまずかないように、太い根も細い根も跨いで歩く。
そこに、「おや、青いパパイヤ?」というような緑色の楕円がポッと佇んでいた。
近寄ると、それはうずくまったアオバトであった。
動く様子は微塵もない。
両手で持ち上げると、張りのある羽はひんやりと冷たく、いのちの暖かさはとうに失われていた。まったくの無傷であるから、強風に煽られて頭をぶつけたのか?
哀しみよりも、そのうつくしさよ。
「なんてこった」
青緑、黄緑、くちばしや足先はラベンダーの紫。アオバトは自分がこれほどまでに美しい、という自覚があるのだろうか。

さっちゃんにアオバトを差し出すと、「わあ」と、静かにびっくりした。
しばらく眺めていたけど、そろそろ埋葬しようかということになり、ふたりでしゃがんで手をショベルみたいにして穴を掘った。
ザクザクと湿った砂を掻き出すと、たちまちふさわしい穴が掘れた。
砂浜に咲いていた紫色のちいさな花を底に敷き詰めて、アオバトを横たわせた。アオバトの身体の上にも花の布団をかぶせて、うーとーとー(お祈り)した。
砂をかけると、まさかここにアオバトが眠っているなんて誰にもわからない。
だから踏まれないように、目に留まった流木が鳥の形をしていたので、それを目印に置いた。

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昨日は、乗馬の県大会だった。
毎年この季節、今年は沖縄市の三原乗馬クラブでの開催である。
うちの子は3名とも、おのおのの種目で出場した。
末っ子の出る競技は、乗馬をはじめたばかりの年端のいかないちびっこたちが大勢出るので、「たまごクラブひよこクラブ」よろしく、とても可愛くてたまらない。サイズの合わないヘルメットやぶかぶかの白いシャツ、馬が軽くジャンプするだけで乗っている子も飛んでいきそうな覚束なさは、今だけの風景。
それでも「悔しい」とうなだれたり、歯軋りしたりする子もいて、子どもにとっては真剣勝負なんだな、と思った。

長男は場数を踏んでいるだけあって安定の走りだけど、長女の緊張は見ているわたしにもありありと伝わってきて、久しぶりに心臓が口からこぼれ落ちそうになった。
障害80cmのバーは、思ったよりも高く見える。
長女の出る種目は、コースでそれを何本も飛ぶ。乗る馬は、白馬カマルグのゆきちゃん号だ。

「ピッ!」と笛が鳴り、長女がゆきちゃんを、ゆきちゃんが長女を躍動させる。
1本、2本、3本、4本、5本、6本、7本!
すべてのバーを飛び越え、無事にゴールに届いた。
「はあー」、安堵のため息がもれる。
長女は、ゆきちゃんにもたれるように、白い躯体の首や脇腹を何度も何度もおおきくやさしく撫でていた。
「よくやったね、えらいねーありがとうねー」って。
その姿があまりにも尊くて、ゆきちゃんをほんとうに心から慈しんでいるのがよくわかって、親バカ全開、「なんてやさしい子に育ったのだろう」と、ぼおっとした。

障害競技の結果は、1位が長男、2位が長女、3位はあっこ家の長女であった。
参加人数が少ないので、入賞しやすいのはありがたいではあるが、なにより子どもたちの成長を見れる大事な日、さながら運動会なのだ。

という具合に、11月もまもなく終わろうとしている。
青い秋空に、心地いい疲労感がほどけていくよう。






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