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「長女の誕生日」

太陽が獅子座に入座する少し前、ぎりぎり蟹座で生まれた長女が16歳を迎えた。
夕方、行きつけの海にみんなで入りながらわたしはふと、「いったい誰が、この日をこの地で迎えるということを知り得るんだろう」と、途方もない気持ちになった。
自分で決めている一方、実はなーんにも決めてない気もするからそんなふうに思う。

一万人に満たないこの村。おまけに地図で見れば沖縄はひときわ小さいし、車を走らせるとすぐに「果て」に辿り着いてしまうけど、この海はどこまでも広大である。だから、「狭いな」って感じているときは、自分の思考こそが狭くなっているやも知れん。

そんなことを考えながら、仰向けにぷかぷか浮かんで耳を澄ますと、プチプチカプカプというちいさなやわらかい音がする。なんの音なんだろう、これが「やまなし」のクラムボンなのだろうか。
プチプチカプカプ。細胞が跳ねるような耳ごこちのよい破裂音をBGMに、身体をうんと伸ばして大の字になってみたり、目を開けたり閉じたりしながら太陽を追ったり、そうやってただただぽっかり浮び続けた。
「みんなはどうしてるんだろう」と、いったん海に立つと、長女はテラと日陰でおしゃべりに講じている様子。潤ちゃんと長男、きっちゃんは浮遊物みたいに波に漂っている。
そんななか、末っ子とミオは果敢に狩猟採集に励んでいるけど、いったい何を獲っているのか。

この、なんでもなさよ。

日が暮れて、夜はそのままの流れで、「土居昆布店」の美味しい昆布出汁がちょうど届いたので、迷わず豚しゃぶにした。べんり菜、という少し苦味のある青菜、しめじ、島豆腐を土鍋に静かに投入。
ああそうだ、「鯖タロウ」の生七味があったっけ。
胡麻油と結晶塩、黒酢と醤油。
「やっぱ夏は鍋だよねー」とか言い合いながら(んなはずないじゃん!)

潤ちゃんが作ったバースディケーキ、「マンゴータルト」には、ジャスミンの白い花が飾ってあった。間に島バナナもサンドされていて、実に実に、夏っ子にふさわしいケーキに仕上がっていた。

おめでとう。



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