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「鰻」

「29日に鰻が届きます!」
あっこから、実に簡潔なメールが届いた。
鰻(うなぎ)?そっか、そんな話したっけ。いっしょに食べよう、ってことになったんだっけ。
そもそもあっこファミリーは鰻食べられるのかな?という素朴な疑問が浮かんだ。というのは、わたしが知っている限り、あっこと次女以外は海老や貝、生魚など、苦手だったりアレルギーだったりいろいろあるので、「鰻は?」と思ったのだった。
あっこからの返信はひとこと、「鰻だけは全員大好物!」
それはよかった。もちろん我が家も全員大好物!

当日、あっこからまたメール。
「鰻届いたんだけど、思ったより上品な大きさで、みんな(11人)で分けたら足りないかも。いっそお茶漬けにする?」
え、まじですか?お茶漬けだとー。
鰻ほどソロで完結している食べ物はない。なので、かさ増しとか正直避けたい。胡瓜や錦糸玉子と合わせてちらし寿司にしても、胡瓜7:玉子2:鰻1というバランスになったら悲し過ぎる。
理想の鰻丼への妄想は募るばかりで、「中途半端に食べるくらいなら、いっそ食べないほうがいいっ!」と見限った。もはや、食い意地の権化。
それにあっこファミリーの大好物なんだから、うちの家族5人分の鰻をそっくりそのままあっこファミリーに食べてもらったほうがよほどせいせいする。鰻と向き合えるこのチャンス、今回はあっこ家に譲ろう。
頭と胃袋で、鰻について真剣に考えてみた。
その旨をあっこに率直に伝えるも、「縁起物なんで、みんなで食べましょ♡」とあっさり却下された。
後でわかったことだけど、この鰻はあっこの奢りであった。それは、冬に飲食の共同出店をあっこ夫妻としたときに、わたしはそれほど仕込んでいかなかったので、売り上げのほとんどをあっこ夫妻に渡した。それを彼女はずっと覚えていたらしく、「鰻はそのときのお礼」だと言う。
お礼は気持ち。それはまさしく縁起物。ならば、ありがたく頂こう。

夕暮れ時、あっこファミリーが鰻と炊き立ての白米のお櫃を抱えてやってきた。「足りなかった場合の明太子もあるよー」と、厨房の作業台に未開封の箱を置く。わたしも何か用意したい。
「じゃあさ、店をハシゴするみたいに、鰻食べ終えたら水餃子のストックがあるからそれを焼き餃子にしよう。鰻屋行った次は餃子屋に行く、ってテイで」「いいね、そうしよう!」
かおるちゃんが持ってきたシードルで乾杯をした。シードルはすでに開封済みで、コルクではなくラップで栓がされていた。「すいません、ひとくち飲んでみたらすごく美味しかったんで、どうしても飲んで欲しくって」そういうところがほんとうにかおるちゃんなのだ。

今帰仁産のとうもろこしをつまみにおしゃべりしてると、飯台にきれいに盛り付けられた鰻丼がやってきた。
「思ったより量があるじゃーん!」と、子どもたちからどよめきが起こる。
それにあっこファミリー6名中、お父さんと息子は「鰻よりスタジオ」と、名護の貸しスタジオにドラムを叩きに行ってしまったとかで、彼らの分の鰻も食べちゃって、とまさかの不在。

オーバルの取り皿に、きっちり等分に分けられた鰻丼。
蒜山の温泉水で1週間以上泳がせ休ませた、という鰻は、全然臭みがなく、清冽な川魚そのもの。思わず、目をつむって食べた。
「縁起物」というマジックワードのおかげで、食の権化も鎮まったようだ。

結局、鰻屋の次は、餃子屋に行き、パスタ屋(スタジオから帰ってきたふたりに明太子パスタ作る)、締めは屋我地の名店「tutan」(潤ちゃんがおつまみセットをテイクアウトしてきた)と、4軒ハシゴした。

「いいゴールデンウィークだねー」と、子どもたちが言った。












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