実は微妙

みなさまこんばんわかいむすめ。
♪しゃーぼんだーまトーンダウン
ってのを思いついたけれど、どうやってもウケそうにないのでここで消化してしまうきくっちゃんです。

突然ですが時は20年程昔に遡ります。


僕は田村君(以下田村)という友人と二人で、なぜか突然イタリア旅行に行くことになります。
ネットもHISもロクになかった当時、なかなかそれなりの冒険でした。
田村よ、記憶がアイマイなので間違ってたら指摘してくれー。

携帯電話もなかったな、そういや。
つまり情報源は現地に行ったことのある人の声と、現地で集めた情報と、『地球の歩き方』だけが頼り。
あとは勘。

ただ、行き当たりばったり旅としてはイタリアはとても分かりやすい国でした。
なにせホテルとレストランが明快。
ホテルは看板の★の数がそのまま値段と部屋のグレードを現しているし、部屋の下見もOK。
レストラン(というか食事)は、バル→ピッツェリア→トラットリア→リストランテ、っていうヒエラルキーがしっかりしていて、これまた値段とグレードの関係も明快。あと、食べ物に外れがない。
ってわけで、僕と田村はその日もローマ市内を歩き回って美味しそうなトラットリア(値段的にリストランテは厳しかった)を探しておりました。

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『地球の歩き方』に乗っているお店は、なんていうか、日本人だらけで入る気がしませんでした(この感覚も古いけど)。

もうだいぶ前のことなので最初に入ったきっかけは忘れたんですが、とあるトラットリアに入りました。
料理を注文したところ、なんか無愛想なおっさんがフォークとかを割と雑に投げるように置いてく感じで、なんか怖かった記憶が。
あ、イタリアのお店ってこんな感じ? って。

でも味は最高だった。
今みたいに色んな食材が出回る前なので、食べたことのないモノばっか。
まず机の上には太いプリッツみたいなのが置いてあって(いまから思うとグリッシーニ)、まわりをみるとみんな勝手に食ってる。

「これ、食うてええのんかな?」
「分からん。金とられるかも知れんけど、でもみんな食うとるな。ええんちゃう?」
「うわ! うまっ。なんやこれ」
みたいな。

一番の衝撃はモッツァレラチーズ。
チーズと言えばスライスチーズか粉チーズだった僕ら田舎ものにとって、もう完全に未知の食べ物。
今から思うとカプレーゼを頼んでたみたいなんですが。

「なんやこれ。ポモドーロ言うとったからトマトのサラダかなんかと思たら、豆腐出てきたで」
「ササミちゃうけ?」
「うわ! うまっ。なんやこれ!」
「やっぱササミやな」
「いや、なんかイマイチ肉っぽくないで」
「イタリア的な豆腐ちゃうけ?」

※ 帰国後そのイタリア豆腐を探し求めたが、結局何年も正体は分からなかった。モッツァレラチーズに辿り着いた時には涙出ました。

パスタも日本じゃ食べたことのない味。
ああ、書いててまた行きたくなった。

さてそのリストランテ。名前も覚えてないんですが、美味しいので僕と田村は次の日も次の日も、何回も通うことになります。
ローマには4-5日居たんだっけ?
ずっと通ってた。
無愛想だったおっさんはだんだんいい人になり、最後、「明日ローマ経ちますねん」的なことをどうにか身振り手振りで伝える頃には、「オー、マンマミーア!」みたいな名残惜しい顔までしてくれました。

そこからさらにフィレンツェだのミラノだのトリノ(車を見に行った)だのクールマイヨールだの中部北部を旅し、だいぶ慣れてレンタカーを借りてフランス国境まで行ったり、まあ随分満喫してローマに戻りました。半月ほど経っていたと思います。
帰国便がローマ発だったのですね。

と言っても、最後のローマは飛行機のために一泊するだけ。
お金も結構底をつき、なんとなくプラプラしてテルミニ駅の近くを歩いてると、なんと半月前に通ってたリストランテのオヤジが手招きしているんです!
なんかすごい嬉しそうな顔で「オーラオーラ、ジアッポネーゼボーイ!チャオチャオ」みたいな感じで。
「なんだよまたローマ帰ってきたんかよ! ほらほらぜひウチで食ってけよー!」って。
イタリア語は相変わらず???だったけど、半月もいると何となく分かるんですよね。

その最後の晩餐は最高でした。
本当に美味しかった。


さて、そこから時は六年ほど下って。

僕はまた、別の友達と四人でイタリア旅行をします。二回目の大学の同級生です。三回生の終わりかな? つまりみんなは21くらい。ぼくだけ26くらい。

さて、今みたいに人生の切なさを知らない僕は、上に書いた「前のイタリア旅行で最高だったリストランテのおやじ」の話を当然みんなにしております。
僕だけがイタリア二回目だったこともあって
「じゃあ最初はそこ行こうや!」
ってなりますよね、そりゃ。

記憶を頼りに恐る恐るそのトラットリアを覗くと、おお! ありました。
ちゃんと同じお店。
あ! 同じおっさん。
あのおっさんがいる!!!
僕たち四人はもう最高のテンションでそのお店に入ります。

なんせ、イタリアに詳しいきくっちゃんのオススメです。

えー。

結論から言いますと、なんかイマイチでした。

なんていうか、サービスも良くないし、味も普通というか、ぱっとしないというか。

でも
でも!
でも!
でも。

ああ。
みんなは僕に気を使って、僕は僕で自分の想い出を壊したくなくて、
「う、うん! おいしいねー。本場って感じ!」
っていう、なんて言うか、アレな、
アレな夕食となりました。

そのときのメンバーは全員建築学科の学生で、人よりもさらにセンシティブと言うか、いろんなことを感じちゃうメンバーだったので、本当にいま思い出しても恥ずかしい。
心から謝罪したい。


えー。話は以上です。


うそ。
もうちょいだけ書かせて。

結局その二回目のイタリア旅行も凄く楽しかったのです。
次の日みんなでぎゃあぎゃあ言いながら探しまわって入ったトラットリアはすごく美味しかったです。
謎の料理を身振り手振りで説明してくれる店のオヤジ。
出てきてもまだ何の肉か分からない(けどめちゃんこ美味しい)料理。
どれだけ聞いてもミスト!ミスト!としか説明してくれないパスタ。
あまりに美味しいのでそこはそこで何回か通いました。


えっと。何が言いたいかと言いますと。

「それぞれの旅行に、それぞれ美味しい店があって、あるいは素敵な場所があって、しかもそれは毎回違う」
ということ。

そしてそのことに気づけた貴重な体験だった、ってこと。


前回お気に入りだったお店がイマイチだった。
それは、お店の味が変わってしまったせいかも知れない。
たまたまその日、お店の人の調子がアレなだけだったのかも知れない。
僕の味覚が変わってしまったのかも知れない。
メンバーの雰囲気とか、その日の体調かも知れない。
季節とか天気とか、そういう違いがそうさせたのかも知れない。

まあ、「なぜ?」はどうでもいいんです。
大事なのは、その時々で「素敵な体験」みたいなのは変わってしまうってこと。

だから僕は言いたい。
声を大にして言いたい。

「ねえねえアレ楽しかったよねー。また行こう」
みたいなことを無邪気に言う人が好きじゃない。
「このお店はねー、小龍包と蟹のスープなんよ。すみません小龍包と蟹のスープ4つね!」
とか、"そいつ定番"を疑わない人が好きじゃない。

特に、家族旅行に多い次のパターン。
「○○の海水浴の帰りは絶対あそこのお蕎麦屋さん。お父さんは天ざる、お母さんは冷たいおろしそば、お兄ちゃんは三色そばで、弟くんは親子丼なー、にこ」
みたいなやつ。
ほんとはもっといいお店あるかもなのに(たぶんある)。
せめてほんとはもっとその日の気分にフィットしたメニューがあるのに(たぶんある)。
勝手に楽しかった想い出を再現しようとするな!
たとえ家族でもそういうところを楽するな!

素敵は移動するんじゃ!


というわけで。
「前のあの衣装すごく良かったから、あれと同じがいい!」と言ったら哀しそうな顔をするしょったんの気持ち、凄く分かります。
「イイナヅケブルーみたいなああいう曲、もっと作って下さいー」って言われて哀しくなるいつかちゃんの気持ち、凄く分かります。

だから、次のアルバム、やらかしちゃっても許してね皆様。てへ。


あそうだ。
こういう、良かったアレをまた再現したい鈍感ピープルが引き起こす哀しくて切ない微小なセツナレンサ。

一応名付けておいたので、最後に書いておきます。

「同じメンバーで行く旅行って、三回目くらいから実は微妙」理論
と言います。

おやすみなさい。

(2016.4.20のアメブロ記事より移植)

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