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救いの無い状況からのサルベージ〜その1〜

昨年の2月頃、落ちることの無い物干し竿からバスタオルが足元に落ちてきた・・・

直感的にイヤなものを感じた、30分後に警察から電話があった。
父親から通報があったと警察からの説明を聞き、男が侵入してお金を盗んで行ったという内容だった。
警察としては事件性が無いと判断し、壁に貼られた連絡先にある僕の電話番号に掛けてきたそう。

兄に連絡を取り、急遽、実家に二人で向かった。
実家がゴミ部屋になっている状況を見ることになった。
ひたすら片付けることになったが、その間に兄と話をしながら一昨年の8月頃の状況の話を聞くことになった。

その時も部屋が汚れ、ホーローで出来た蓋付き寸胴の中は腐った何かが液体状になっていたと、部屋は散らかり放題で
片付けするのが大変であったことをその時に初めて聞いた。
兄は嘆いているが、その状況を知りながら一切何もせず、僕に知らせる事すらしなかった。
何もせずにただただ半年放置したという事実が浮かび上がった。
片付けだけで3日以上掛かった。

昨年、両親が共に認知症になり、自治体からはホットスポット扱い、町内からはマークされた状態。
既に一昨年の8月には分かっていたはず、兄の子供達も一緒に片付けたのだから。
何も対処せず放置して状況を悪化させた、僕はその責任はとても重いと考えている。
半年の遅れをどのように取り戻すのか、本人にその意志があるのかどうかを測りかねた。
全く意に介さない状態だと、後に東京に戻った際に信じられない気持ちがありつつも兄を信じる事にした。


片付けながら考えたのは通帳やキャッシュカードや年金手帳などの事だった。
そう、両親に訊いても幻覚で見えた男(警察に通報した内容)が盗んで言ったというばかりで最初は何も無かった。
銀行の通帳、キャッシュカード、暗証番号、各種保険証書、印鑑、運転免許証、土地の権利書、建物の権利書、車検切れの車、車検証の紛失、クレジットカード、年金手帳、印鑑証明発行カード。
全てが無かった。

救いの無い状況からのサルベージ

が始まった。

そんなことが有り得るのか?作り話しでは無いか?そのように思う人も居るでしょう。
認知症は進行すると物を隠すようになり、そして、自分でその隠した記憶すら無くしてしまう。
父親の記憶は10分も持たない。
母は父親よりも早くに認知症を発症していた、兆候はあったものの父親から比べて1年くらい前に発症し始めていたのだと思われる。
そして、何もしなければ良くなる事は無い。

両親共に幻覚が見えるようで、母は常に部屋には20人くらい人が居るそう。
父は男が一人見えるようだが、幾ら居ないと言っても強く否定する。
あいつが盗んで行ったのだと、それしか言わない。


片付けから探索に代わり、まずはどのような請求が来ているのかを探るところから始めた。
郵送物を中心に仕分けていく。
そこからヒントを得て、ライフラインの契約を探る、どの保険会社と契約しているかを探る。
途中で灯油を入れている専用のクレジットカードの存在を知るが、最終的には見つかることは無かった。
ただ、請求書には番号の記載があるので、クレジットカード番号だけは知る事が出来た。

通帳が出て来ない、全然出て来ない・・・困った。
郵送物から推測するに、どうやら地元の信金に年金等の振込がされている事は分かったが、ライフラインの引落しと同じになっているかどうかがわからない。
探索を続けるうちに使用済みの通帳が一部出てきた。
新聞が入った袋の中に紛れて入っていた。

信金の手帳だった。
印鑑が見つからない、どうにかならぬものか・・・
食堂ではゴミが人の身長ほどに積まれていた。
まずは居住スペースの片付けを行わなければならなかったので、食堂とされている部屋の片付けは後回しにする事にしていた。

食堂の片付けをする傍ら、ゴミを開封して分別していく。
途方に暮れながらゴミの中に重要なものが無いかを探していく。
皮肉にも食堂の床からゴミ箱を発見した、ゴミ部屋からゴミ箱かよと。
当然、全てのゴミが詰まっている。

そのゴミ箱は幼少の頃より馴染みのあるものだった。
円柱型の曲げ木で出来ていた。
ゴミ箱は上げ底構造になっており、念のために裏をチェックした。
すると、ガムテープでグルグル巻にされたものが底に張り付いていた。

ガムテープを剥ぎ取り中を確認したところ、そこに恐らく今回発見した印鑑が全て入っていた。
銀行の届出印では無かったが、変更手続きをすれば何とかなるだろうと思えた。
使用済み通帳と印鑑は見つかった、キャッシュカードが見つからない。

唯一あったのは、父親が数年前に何かあった時に僕にキャッシュカードを一枚渡していたことだった。
僕が体調を崩して仕事を辞めた時に保険としてのお金を入れていてくれた。
3年半前に兄と共に帰郷したので、その時にそのカードを返却すると父親に返そうとしたが受け取ろうとはしなかった。
それで僕はお金は使うことにすると宣言して、有難く頂くことにした。
そのカードは僕の自宅にあったので、入出金のハンドリングは最悪はそのカードで行うように考えていた。

信金の手帳も見つかったので母を連れて近くの信金に行き、届出印の変更とキャッシュカードの再発行手続きをした。
母のキャッシュカードが無い、全く出て来ない。
信金以外にも口座はあるはず。
予約してある飛行機に乗り込むまでに時間もそれほど残されていないので、初回の片付けは完了とし探索は次回にすることにした。
漁った書類はカバンに詰めて持ち帰った。
エクセル表にしないと何も整理が出来ない情報量だった。

途中で車検証などの優先度の低い書類は100円ショップで買ったケースに詰めておき、ここに大事な書類を入れてあるから触らぬようにと兄が告げて家を後にした。

===その2へ===

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