今、フィリピンでキチママと暮らしてます。(12)

姉妹

キチママは家族を大事にする。それは異常なまでに。

特に姉と妹のことが、これまで一番大事だった。(ちなみにキチママは次女)

長女については、「今までずっと一緒に助け合って生きてきた特別な存在。姉がいなければ私は生きていけない」と言うほどで、尊敬もしてるし、畏怖もあった。姉に怒られると思えば、キチママは何でもする。　

私も初めはこの姉と一緒に住んでいたが、姉が今の旦那さんと知り合ってから、マニラで一緒に暮らしている。キチママも姉に会うために、年に数回は娘を連れてマニラに滞在する事がある。いつも仲良しのいい姉妹だった。

そんなかけがえの無い姉との関係を絶縁したのは実は最近のことで、理由はこうだ。

キチママには今年20歳になる天真爛漫のかわいい妹がいるのだが、その妹がなんと、昨年在学中に妊娠してしまい、大学も中退してしまった。

今年その子供が産まれ、子供の父親も同い年の学生で、子供ために働くと言って大学を中退したが、いつになっても働かないで毎日、家にいるらしい。

家族を養うため、妹が働きたいと言っても、彼は妹が働くことを嫌がっているため今はお互いの親に仕送りしてもらって生活していた。

しかしお金を送金していたキチママの父親がコロナにかかり入院してしまったため、妹はキチママと長女に頼った、・・が長女には断られた。なぜかと言うと、長女はその時整形手術をしてお金がなかったからだ。

キチママは多少なりとも工面してやったのだが、私からのお小遣いでは足りない。(私がキチママの家族への仕送り金の限度額を設定しているので)あまり大きな援助はできない。

そこでキチママからも長女にお金を送るようにお願いしたのだが、そこで話がこじれて口論になったらしい。

キチママ曰く、「姉は今までどんな時でも家族のために、なんでもしてくれたが、今の旦那出会って変わってしまった」と激怒していた。

長女からすれば、10代のころから今までずっと自分の人生を犠牲にして家族のために働いてきた。私の知る限り、キチママに出会った頃、姉は日中ショッピングモールの化粧品コーナーで働き、夜はガールズバーで働きお金を実家に送っていた。

彼女が一生懸命、自分を犠牲にして働いて実家に送金していたお金には三女の学費も入っていたのに、三女は勉学に励むどころか、子作りに励んでしまった。もちろん、妊娠が発覚したとき一番激怒したのがもちろん長女で、さすがのキチママも仲裁に入るのをためらったぐらいだ。

その姉が今の韓国人の旦那さんと出会い、旦那さんがキチママの家族を養っているが、姉は子供の世話をyayaさんに任せきり、自身は美容やショッピングにお金を費やして結婚生活をエンジョイしている。

今までずっと家族のために尽くしてきたんだ。贅沢して、自分自身にお金を使ったって罰は当たらないと思うが・・。

実際、姉のような境遇のフィリピン人は多いときく。

外国に出稼ぎにきている多くのフィリピン人たちは、出稼ぎ先の国で過酷な生活を送り、稼いだお金を実家に送金している。しかしそんな海外で働く家族に依存し、全く働かずに、自分たちは家や車を買って、毎日うまいものを食って生きている家族や親戚たち。

キチママと出会った当時は月に1万ペソほど渡していたが、「仕送りが足りない」とキチママの母親に言われていた。

ボホール島の山中にある小さな村で「そんな大金、何に使うんだ？」という話になるが、キチママの母親は毎日ギャンブル三昧で食費や光熱費を払うお金がないので、キチママに「もっと金を送れ」と言い、全く働かず家にいるキチママの兄が私にバイクを買ってくれと言ってくる。

自分を捨てた親だ。義理だてする必要もない。

そう私はキチママに言ったが、

「これが私のobligation(責任)なの」

と言っていた。

私がキチママの責任の重大さを知っていながらも、何度言ってもキチママのお小遣いを増やさないので、やむ無く長女がその分を稼ぎお金を実家に送金していたのだ。今は全て彼女の旦那さんが全額負担してくれている。

そんな長女をキチママや三女だけでなく、身内全体でバッシングしていた。姉は今の旦那と出会って傲慢になった。身内のことが大事じゃなくなったと。その中心となっているのがキチママで「姉はもう家族じゃない、絶縁する」とまで言っていた。


私は要らぬお節介で、火傷をしたくなかったので、うん、うんと聞いているふりをしたが、正直言って、可哀想だったと思ってる。

私もキチママと付き合い始めたころ、母親からキチママにお金を送れという連絡が毎日のようきていた。母親だけでなく、キチママの親戚と名乗る人まで私やキチママにお金をくれとメッセージがきた。

「外国人はお金があるんだから、もっとお金を貰え」

私が今まで言われた中で一番腹が立った言葉だ。

全く働こうもせず、身内に依存している人たち。キチママや長女が自分の母親に対して「早く死ねばいいのに」と言っているがその気持ちも分からなくはないと思った。

元はと言えば、キチママたちの母親が父親のお金を盗んで浮気相手と駆け落ちして、父親もそんな苦痛の日々から逃れるように新しい家族を持って幸せに暮らしている。

親に見放され、親戚に育てられたキチママたちは辛い子供時代を過ごした。毎日、親戚や祖父母に怒鳴られて、殴られて育った。

そこへ浮気相手と別れ、その人との間にできた子供を連れて帰ってきた母親やまだ小さい兄弟を育てる為、姉は大学も通えず、16歳から働いた。働いて、これまで家族のために尽くしてきたのに、自分のためにお金を使ったことで絶縁とまで家族に言われている。

理不尽が理不尽を生み、
理不尽は連鎖する。

キチママたちを見ていると本当にそう思う。

でも、この姉との決別がのちに私自身や私の家族も巻き込んでいくことになるとは、そのときは思ってもみなかった。


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