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始終の死生を雪と同うす

貴方はセッケイカワゲラさんじゃありませんか。こんなところで何をしてるんです?

周囲を歩き回ったけど、この一匹しかいなかった。それも謎。

気温は0℃。彼らにとっては最適な温度。

最寄りの渓流までの距離は約150㍍。そこからこの場所まで歩いてきたのは間違いない。

「北越雪譜」に、この類の昆虫に関する記載があった。
曰く、「越後の雪中にも雪蛆あり。此虫早春の頃より雪中に生じ雪消え終われば虫も消え終わる。始終の死生を雪と同うす。」
うむ。格調高い文章だ。

雪譜の著者(鈴木牧之)はその後に、蝿は灰から発生し、シラミは人の熱から発生する、金属の錆からは必ず虫が生じるとかいう説を展開している(だから雪からは雪虫を生じると)のがご愛敬。

フランチェスコ・レディ(Francesco Redi)が自然発生説を否定する実験をしたのが1668年。北越雪譜が刊行されたのは1837年だから、その差は約170年。江戸時代にオランダ経由で本邦に様々な知識が伝わっていたのは周知のことだが、生物学については遅れていたのか。

科学の徒が世界観を覆す知見を得たとしても、市井の人々がそれを我が物にするのはずっと後になるのだろう(ついにその機会が無かったりして)。

世界観が覆るというのは、どこかの文章表現の正誤が逆転するような次元のことではなくて、ある認識に立脚してそこから様々な理解が派生していたものが、根本が改まることで根こそぎでんぐり返ることだ。
そりゃあ、年がいった人にとってはその負担は耐え難いものだろう。

この頃の人たちはこういう認識を持っていたのか、というのが垣間見える点では興味深い。(2023.1.6)

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