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FF14: ある冒険者の手記

眼前にある錆びた階段、割れ落ちた窓から伸びる蔓草、半開きの鉄扉。

私は、この廃墟を訪れるのは初めてであるはずだ。

しかし、眼前の情景はすべて、既に見たことがあるものに違いない。

何故だろう?

これらの情景は、失われた前世の記憶だとでもいうのか?

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先日、錆びた廃墟を訪れた後から、ある情景が夢のなかに繰り返し現れるようになった。

そこでは私は、騎乗してラノシアの、あるいはザナラーンの平原に立っている。

そこから眺めているものはというと。

空の一角を占め、禍々しく揺らめく赫い天体‥‥
青燐機関で浮かぶ、巨大な昆虫のような魔導艦の一群がゆるゆると動く。‥‥
そして地上には闇の結界と、次々と出現する異形の怪物たち‥‥

いずれも、話に聞いていたところの第七霊災直前に出現した凶兆であり、世界が終末へと雪崩れ落ちる徴だ。

こうした心象は、私を何処へ導こうとしているのか?

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ある日、私は理解した。

夜毎に現れる幻影は、霊災で命を落とした者の、星海からの訴えなのだった。

あのあと私は再び廃墟へ赴き、錆びた床のうえに落ちていた光る装身具を見つけた。

それを手に取って検めたとき、私の『越える力』が発動したのだ。

その装身具には名前が刻印してあり、「○○○ ○○○」と読めた。

彼はここに居て、この施設を慈しみを持って管理しており、そしてこの場所で命を喪った。

過去視の幻影からは、様々な感情が私の心に流れ込んできた。

‥‥馴染み親しんだ情景が崩壊することへの哀悼。
‥‥親や子が劫火に灼かれた者の慟哭。
‥‥終末を迎えた世界に対する絶望。

しかし、また、そこからは、持ち主が抱いていた希望の存在も感じ取れた。

‥‥再び世界は蘇り、安寧に抱き取られた日常が戻ってくるという確信。
‥‥復興後には旧友との再開を悦び、飼育している魚たちをまた見せてやりたいという願い。
‥‥施設を管理する長の任を解かれたら、気の赴くままに世界を旅して歩きたいという望み。

絶望を、そして希望を訴える人々は、皆一様に、ある言葉を口にしていた。

ここに私がいたことを覚えておいてほしい。忘れないでいてほしい‥‥と。

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私は、人々の真実を見せつける『越える力』を持つことを、恨みに感じていたときもあった。
人の無力さ、醜さ、怖れや悲しみばかりがこの世にはあるものなのかと。

だが、今は違う。

力が到らないからこそ理想を目指し、気高さと醜さの間を浮き沈み、怖れ、かつ悦ぶ、それが人の姿であると気付いたからだ。

そうした人の営みを書き記し、後の世に伝える。それが私の務めだ。

霊災で命を落とし、また、震災を生き延びた者らすべてに祈りを捧げる。

世界は完全ではないが、それ故にあらゆる可能性に満ちた存在であるのだ。‥‥

(手記はここで終わっている。)

(2023.9.15-17)





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