化けた豚の夢

酷い夢を見ていた。

季節は秋。快晴。

最初の場面は収穫間際の黄金色に実った水田で、傾斜地にある棚田のようなところだ。畦畔に立ち景色を眺めている。

静かだ。

耳を澄ましても何の物音もしない。

そこから立ち去ろうとしたときに、なぜか足元が崩れ、手を広げた範囲ぐらいにある土砂が稲もろとも下の田になだれ落ちていった。

慌てて飛び退いて事なきを得たが、これを放っておくわけにはいかない。
とはいえ、土地の持ち主も知らないし、誰に連絡すれば良いのかも分からない。

とりあえずこの場を離れようとして公道に出たあたりで、嫌なものを見た。養豚業の者が斃死した豚をそのへんに棄てていったらしく、腐敗しかけた死骸が半ば土に埋もれ、眼球のない頭部が虚ろに空を睨んでいる。体毛が濃い色の豚だ。

このように家畜の死骸を棄てるのは違法行為だ。通報する事が増えてしまった。
そこから坂道を歩いて降りていくと、こんどは至る所に豚の死骸がある。
足の踏み場もないくらいに、丸ごとの体や体の一部が散乱しており、腐敗しているので、強烈に臭かったはずだ。

そんな光景を目の当たりにして驚き呆れ、急いで立ち去ろうとしたあたりで目が覚めた。
あれは、獣医さんを手伝って豚熱の検体採取をしたときの猪の骸だったんだろうか。
いや、かつて殺戮に手を貸した膨大な数の豚が、化けて出てきたのかもしれない。

人や、他の命あるものが「化けて出る」というのは、何か遺恨があるとか、この世に未練があるからそうなるというのだろうか。
そのような残留思念は、化けて出られた者の心の中に遺っているものなのかもしれないが。
(2024.4.7)

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