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ELAC BS312の愉しみ

遍歴

狭い部屋で、納得してオーディオを鳴らすのは難しい。

これまで、KEFのXQ20、SONYのSS-NA5ESPE、VIENNA ACOUSTICSのHAYDN SEと、巷間に人気のブックシェルフスピーカーを遍歴してきた。
どれもミドルグレードと言われる価格帯ですな。

いずれのスピーカーも、他に引けを取らない美点はあるのだけれど、
惜しいと思う部分もあった。

KEFは、とても定位が良く、音色も明るく、楽しいスピーカー。ジャズとかポップスを聞くと、大きな不満が出ない。けど、オーケストラや、中低音楽器主体の室内楽、ピアノ、そしてメタル系では、低音の量感に不足を感じた。相対的に、ツイーターがキツいと思う音源もあった。

SONYは、密度感と音場の自然さ、ほのかな艶、そして部屋を満たすような鳴り方が素敵だった。ツイーターが3連で付いていたり、バーチ材の堅牢な造りも、理詰め・メカニカルな感じがして、好感を持っていた。ただ、低音の量が多くて、被ってしまうから苦労した。質は悪くないと思うのだけど。
また、ごくごく僅かに鼻声のように感じさせる音の'曇り'に悩んだ。

VIENNA ACOUSTICSは、弦楽器など共鳴板を持つ楽器の再生が本当に素晴らしく、低音もそこそこ出る上に、制御されて弾むような鳴り方。透明感も高い。
けど、音像は密度感が薄めで、それが気になってしまった。

改めて、オーディオは無い物ねだりの趣味なのだな、と思う。

結局、どんな音で聞きたいのか

で、考えた。自分は、狭い部屋の中で、どういう音で聴きたいんだろうか。

低音。量感は適度でいい。それよりも、キビキビしていて、被りが少ないほうがいい。

中高音。柔らかさよりも、グイッと前に出てくるはっきりした音がいい。ただ、妙に鋭かったり、高音をやたら強調したのは苦手。その意味では、ピアノがキンキンキラキラせず、自然に聞こえるものがいい。

音色。信号をそのまま音にする生真面目さがほしい。また、特定の楽器だけ引っ込むような‘苦手’を持たないものがいい。

試聴会の記憶

そんな事を考えていたら、昔、試聴会で出会ったELACを思い出した。

その時は、400ラインのトールボーイを聴いた記憶がある。イメージは、とにかくツイーターが凄いぞ、というもの。高音に引っ張られて音が鳴っている印象だった。

キレキレで余裕綽々のツイーターに、ウーファーが並走する。音場は確かに素晴らしかったが、全部に光を当てる感じで、陰影には乏しい感じがした。セクシーな感じは皆無。溌剌。低音は少しゆったりめ。

どこか違和感を感じたのも事実で、ツイーターとウーファーが釣り合ってないのかな?と、一瞬頭を過ぎった。ところが、あのツイーターに、キレキレのウーファーが付いていれば物凄い音になるでは?とも妄想していた。

それってBS312じゃないの?

と、はたと気付いた。

このスピーカーは傑作だ、という評をよく見る。好きじゃないという評はあっても、欠点を明快に指摘した評が殆ど無い。そして、新製品を乱発するELAC(失礼)が、十年近く仕様変更をしてないところも好感が持てる。

お店に行って、棚に乗っかってる状態だったけど、試聴してみた。家の部屋くらいの広さ(横長めの9畳)で、かなりのパフォーマンスを出しそうだと直感。迎え入れることにした。

家で鳴らした印象 − 長所と短所

低音は思いのほか出る。でも収束が早いので、音の被りがなくなった。
モワッとせず、音程感も良いと思う。

このウーファー、とてもよく働く。メタルなんか鳴らしたら、ピストンしまくってる。この闊達なウーファーに、鋭敏なツイーターJET-Vが乗るものだから、ピリッとしてキレがいい。

素直なケーブルを選べば(※)、音の輪郭はしっかりしてるし、スネアやシンバルの(比較的このツイーターでは苦手との評もある)アタック感や炸裂感も程々のレベルに。

弦楽器は、HAYDNに負ける。でも、録音された分の音は過不足なく出てると思う。

結果、演奏家目線ではない、客観的な鳴り方になる。自分で演奏する人なら、楽器から少し距離がある音だと感じるのではないだろうか。

これは、スピーカーの箱が金属で固められていて、付帯音が少ないことに依るのだと思う。

音場が広いと言われるけど、それはスピーカー正面側の小ささに起因する定位の良さに加え、ツイーターが微細な音まで出す影響も大きいだろう。
セッティングや部屋によっては、スピーカーの外にも広がるような音が実現するかも。それに、こんな音まで入ってたっけ?という発見が多々ある。

苦手そうな点は大音量。普通の部屋では、そんな大きな音は出さないので、ぜんぜん問題ないけど、もしそんなことをしたら、ウーファーが頑張りすぎて音が混濁しそう。

あと、艶めかしい鳴り方はしない。深々と陰影のある音楽性、、、みたいな音は、どうしたって出てこないだろうと思わせる鳴り方。飽くまで四面四角としてハツラツ。真空管アンプを使うと化けるのかな。

あと、スイートスポットは狭い。ツイーターの真正面に居る時の音が一番。家族団欒の場所で使うスピーカーにはならなそう。

ということで、狭小住宅で、気合を入れてHi-Fiをやるなら、かなり上位に食い込むスピーカーではなかろうか。

(*)ケーブルは、電源ケーブル・USBケーブル・RCAケーブルがFURUTECH、スピーカーケーブルは、Acoustic ReviveとKimberケーブルを両方つないでいます。DACはTEACのNT-505、アンプはSPECのRSA-888DT。
比較的最近まで、PrimareのI21というアンプを使っていました。とても気に入ってたし、それに応えて長持ちしてくれました。思えばこれも、音場表現と力強い低音が一体となった銘機ですね。

ケーブルはFURUTECHが大好きです。音のエッジが丸まらず、ハッキリした音になる感じがするんですよね。変に個性を出したりしないというか、足し引きなく、普通に情報を伝えてるというか。

(注)遍歴スピーカーについては、飽くまでウチの環境、機材、当時のセッティングでの感想です。また、他の品種については、分かりません。

BS312については、奥横の壁から1m程度ずつ離して、1.6m正三角形の配置、ツイーターは耳に向けて内振りにして聴いてます。
準ニアフィールド的なセッティングですかね。

ついでに一言。
KEFに少し難癖つけすぎた気がしますが、長く使ってただけあって、今でも好きなメーカーです。XQより後の、QシリーズやRシリーズ、LS50系になると、より広帯域で、低域の支えがしっかりした、更にバランスの良い音に進化しているようです。