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旅の道具、僕のバッグ遍歴 ~愛するKarrimor、Kelty、Timbuk2…

 こちらの記事で書いたように、僕は旅が大好きだ。青年期以降の人生の大半を、多くの旅をして過ごしてきた。もう「好き」を超えて、これは「放浪癖」ではないかと思うぐらい、国内外のあちこちをフラフラと彷徨ってきた。同じ場所に定住・安住することが嫌いで、マイホームを持ったことがない。まもなく70歳になるというこの年になっても、放浪癖は変わらない。つい2週間ほど前にも、青春18きっぷを使って普通電車を乗り継いで大阪に行き、新今宮にある常宿の安ホテルに泊まって、3日間に渡って西成の居酒屋巡りをしながら朝から晩まで飲んだくれていた。
 
 そんな放浪癖のある僕にとって、旅の道具としてとても気にしているものがある。それは「ファッション」と「靴」、そして「バッグ」だ。旅のファッションと靴については別のところで書こうと思うが、ここではバッグについて書いていきたい。
 バッグの良し悪しで旅の快適さは大きく変わる。だから、「こだわり」というほど大げさなものではないけど、快適な「旅の友」「日常生活の友」を求めて、様々なバッグを購入して使ってきた。これまでの人生で、いったいいくつバッグを購入したのかわからないし、現在でも家には何十個ものバッグがある。あまりにバッグが多過ぎて、収納場所に困り、同居人にはいつも処分を求められている状態だ。ちなみに、僕はモノを捨てないし、モノに囲まれている生活が好きな「マキシマリスト」なので、自宅マンションは「本」「服」「バッグ」「靴」「レコード&CD」「カメラ」「オーディオ機器」「複数台のPCと周辺機器」など、モノで溢れている。

■Kelty(ケルティ)とKarrimor(カリマー)

 まずはリュック。僕らの世代にとっては「デイパック」ではなく「リュック」から始まる。僕は高校時代から登山をやっていたので、旅の道具として登山用の小型リュックを持ち歩いていた時期が長い。70年代は、神田の「さかいや」で買ったオリジナルの30リットルの登山用リュックを日常使用と国内旅行用に、海外旅行(バックパッカー)用にはKarrimor(カリマー)の40リットル強のモデル(確かジョー・ブラウンモデル)を愛用していた。
 余談になるが、僕が本格的に登山を始めた高校時代、ザックは「キスリング」が主流だった(お金持ちの登山仲間がJANSPORTのフレームパックを買って羨ましかった)。1960年代後半から70年代初頭に縦型のアルパインザックを販売していたのは、ミレー、カリマー、シュイナード(パタゴニアの前身で今は無い)ぐらいしかなく、いずれも高価で貧乏なアマチュア登山家には手が出ない代物だった。70年代半ばを過ぎて、国内の登山用品メーカーがコピー商品を作り出した頃、やっとキスリングが消えていったという経緯がある。だから、僕の世代はミレー、カリマー、シュイナードといったメーカーに、未だに漠然とした憧れを持っている。
 
 そしてこちらの記事で書いたように、1975年に平凡出版(後のマガジンハウス)から出版された「Made in U.S.A. Catalog」というムックで、初めて「デイパック」が紹介された。このデイパックなるザック、70年代前半は日本では入手困難で、実際に買ったのは70年代末だった。まずはそのMade in U.S.A. Catalogで紹介されていたTHE NORTH FACE(ノースフェース)のデイパックを買ったが、その後世界で最初にデイパックを商品化したKelty(ケルティ)の製品を知った。細身で本革のブタ鼻を誂えたデザインに惚れて、以後現在に至るまでKeltyを使い続けている。30代の一時期、GREGORY(グレゴリー)に浮気したが、結局Keltyに戻ってきた。

 Keltyのデイパックは3気室、2気室、1気室の3種類があるが、ヘタると何度も買い替えながら変わらず長年愛用しているのは、70 年代モデルを復刻した1気室のVINTAGE DAYPACK HD2。底部分をスウェードレザーで補強してある。Keltyのデイパックは細身でA4の書類などが入れづらく、また背中のパッドもないのでノートPCなどを運びづらい。また、18リットルは確かに容量不足を感じることもあるし、サイドにペットボトルを入れるポケットが無いのを不便に感じることもある。いずれにしても、決して機能性を詰め込んだバッグではない。でも、その独特のデザインと柔らかなボディ、そして背負いやすさは、他の何ものにも代え難い。何よりも、カッコいい。現在は黒とOlive Drabの2色を所有している。先に書いた大阪・西成居酒屋ツアーにも、KeltyのVINTAGEを背負って行った。
 18リットルという容量は、旅のバッグとしては少な過ぎるという人が多いかもしれないが、僕の場合は2泊3日程度のホテル利用の国内旅行には十分だ。僕の旅のスタイルは、季節にもよるが半袖または長袖のTシャツ、マウンテンパーカかウィンドブレーカー(加えて薄手のフリース)、カーゴパンツというスタイルだ。着替え用のソックス、下着(Tシャツとパンツ)を各2枚程度、超軽量折り畳み傘、加えて電子書籍リーダーやスマホ用の充電器・バッテリー、コンデジなど旅の道具を放り込んでも、KeltyのVINTAGEに余裕で収納することができる。

 こうしてKeltyのデイパックは長期に渡って使い続けているが、普段Keltyばかりを使っているわけではない。他にもここ数年、年をとってからよく使っているデイパックがある。それはKarrimorの「VT day pack R」だ。確か2015~6年頃に復刻版として発売されたもので、1本締めのクラシックなスタイルが気に入っている。22リットルというサイズは、国内の小旅行にぴったりで、荷物が多くてKeltyのVINTAGEでは容量が心もとない時に使っている。
 さらに、カリマーの同じシリーズで最も容量が小さい「AC Day Pack」は、普段使いに向いている。キャメルカラーを持っていて、散歩を含むちょっとしたお出かけ時に愛用している。ここ数年、日常ユースではKeltyのVINTAGEよりも使用頻度が高いお気に入りのリュックだ。1本締め、キャンバス生地のAC Day Packはとてもおしゃれで、特に年配者に似合うデイパックだと思っている(おそらく現在は廃番になっていて入手困難だ)。

■MANHATTAN PORTAGE(マンハッタン・ポーテージ)とTimbuk2(ティンバック2)

 そして80年代以降には、普段持ち歩くバッグとして、メッセンジャーバッグにハマった。実際、メッセンジャーバッグなるカテゴリーは、自転車を利用する「メッセンジャー」が脚光を浴び始めた80年以降に生まれたものだ。メッセンジャーバッグといえば、現在でもいちばん知られているのはMANHATTAN PORTAGEだろう。MANHATTAN PORTAGEは、まだ日本では存在が知られていない頃、おそらく1号店ができた40年前(1983年)に、当時住んでいたニューヨークで購入している。購入した1号店の場所は、確かアスター(Astor Place:グリニッジ・ヴィレッジの東側)だったと思う(場所についての記憶は曖昧だ…)。よく覚えているのは、その1号店で購入した際に「壊れたり破れたりしたら修理しますから、いつでも持ってきてください」と言われたことだ。そして安かった。ギリB4が入るぐらいの小さめのバッグが、30ドルちょっとで買えた。当時は今ほど製品種が多くはなく、手作り感があるブランドだった。その後、日本に戻って来てからはいろいろなサイズを買って、旅行や日常の持ち歩きに使った。MANHATTAN PORTAGEのメッセンジャーバッグは、ともかく生地が軽くて柔らかい。海外旅行に行く時など、畳んでキャリーバッグの隅に入れておけば、現地での街歩きにも便利だ。80年代後半から90年代半ば頃まで、様々なサイズのMANHATTAN PORTAGEのメッセンジャーバッグを購入して、いろいろな場面で使った。MANHATTAN PORTAGEは今でこそメジャーなバッグだが、90年代半ば頃まではあまり持っている人がいないのも良かった。2000年代に入って日本で有名になってからは、持っている人が多過ぎて、なんとなく使わなくなった。
 ビジネスシーンでもメッセンジャーバッグが使えないかと思っていた80年代終わり頃、吉田カバン(ポーター)からラゲッジレーベルのメッセンジャーバッグが発売された。これも一時期よく使ったが、同じバッグを持つ人を街中で多く見かけるようになり、バッティングするのが嫌ですぐに使わなくなった。
 そして90年代の半ば以降に、普段使いのメッセンジャーバックとして愛用したのはTimbuk2(ティンバックツー)だ。Timbuk2は、80年代の終わりにサンフランシスコで生まれたブランド。同じバリスティックナイロン製ながらMANHATTAN PORTAGEとは異なり、生地が分厚くがっしりとしており型崩れしない。肩掛けベルトも幅広く固い。その分、重い荷物も安心して運ぶことができる。Timbuk2は、渋いツートンカラーの「クラシックメッセンジャー」がカッコいい。Mサイズでも20リットル以上が入る。Lサイズなら、荷物が少なければ3泊4日ぐらいの旅行にも十分使える。実際に僕はバンコクやクアラルンプールなど東南アジアへの短期旅行に、Timbuk2のメッセンジャーひとつで出掛けたことが何度もある。そして生地が熱くて頑丈なので、ノートPCを入れても安心感がある。
 ただ、このクラシックメッセンジャーは、Sサイズでも日常持ち歩くには少し硬すぎて大げさな感じがする。そこで散歩も含む普段用に、同じTimbuk2の今は廃番になった「Metro Messenger」を購入した。このMetro Messengerは、日常の身の回りのものを入れて、さらに小型のカメラやPDAなどを持ち歩くのにちょうどいいサイズで、肩紐も柔らかく、長く日々愛用した。廃番になって残念だが、僕は現在も2つ持っており、カメラバッグ兼用で時々使っている。小型のミラーレスに単焦点の広角レンズを付けた状態で、そのまま裸で放り込んでいる。Metro Messengerは、日常ユースでは万能のバッグだ。
 
 メッセンジャーバッグと言えば、ROTHCO(ロスコ)のキャンバスバッグも捨てがたい。縫製も雑でいかにも安物だが、もともとミリタリー好きというのもあって大小ひとつづつ所有しており、90年代から時々使っている。大きい方は、いわゆる「24 ジャック・バウアーモデル」で、昔の中学生が持っていた白い帆布の肩掛けカバンに似たサイズだ。カーゴパンツとワークブーツ、ダブダブのオーバーサイズTシャツと合わせて、ちょっとやさぐれた雰囲気になるのがいい。不良老人の出来上がりだ。1~2泊の飲み歩き旅行向けのバッグとして、年をとってから使う頻度が高くなった。
 
 さて還暦を越えた現在は、普段持ちのバッグはその日の気分や持ち物の量で変えている。仕事メインだった時代は過ぎ去り、またスマホ1台で日常の情報活動の全てが事足りるため、普段持ち歩くものが減った。散歩時に使うのは小型のメッセンジャーバッグすら必要なくなり、主にサコッシュの出番が多くなった。一番よく使うのは、Karrimorの「TC sacoche M」か、Keltyの「VINTAGE FLAT POUCH S」だ。どちらもスマホ、メモ帳と筆記用具、サングラスなどを入れて歩くのにちょうどいいサイズで、その日の気分で使い分けている。
 このサコッシュだが、先日安くていいものを見つけた。それはワークマンの「Wジョイントスクエアサコッシュ」というヤツだ。1500円と激安で、持ち物が少ない時にはジャストフィットサイズ。作りも意外としっかりしており、ポケットも多くて使いやすい。色違いを3種購入して時々使っている。国内旅行時などバッグインバッグの形でデイパックに入れておけば、バッグ内の整理にも現地での街歩きにもちょうどいい。老人の街歩き用として、傑作商品だと思う。

■キャリーバッグは2ホイールがいい

 最後に旅行用キャリーバッグについても少し触れておこう。
 80年代後半からは、仕事で海外出張が増えた。ビジネス目的の長期の出張はサムソナイトのハードスーツケース一択だったが、短期の出張にはTUMIのソフトタイプのキャリーバッグ(2輪)を使っていた。現地到着後のビジネス活動に支障をきたす往路のバゲッジロストが怖いので、基本は機内持ち込みが可能な30リットル前後のサイズで、荷物が増える復路にはジッパーで容積を拡張できるエキスパンダブル・タイプを愛用した。
 キャリーバッグのホイールは2輪タイプに限る。4輪タイプは車輪径が小さいので、空港内はともかく、石畳が多いヨーロッパはむろん歩道がガタガタの海外の道では上手く引っ張れない。だから車輪径が大きい2輪タイプの方が移動はスムーズだ。一時期、短期海外旅行の機内持ち込み用途でRIMOWAのポリカーボネイト製の小型キャリーやキャリー兼リュックになる3wayタイプを使ったこともあったが、すぐにエキスパンダブルのソフトタイプに戻った。結局、機内持ち込み可能なソフトタイプのエキスパンダブル・キャリーと現地歩き用サコッシュか小型メッセンジャーバッグの組み合わせが、現在も海外旅行の基本スタイルだ。それにしても、最近は上質な2輪のキャリーバッグが少なく、4輪ばかりになって非常に残念だ。

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