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原付ライダー青春グラフィティ (20)

20.昨今のバイクへの違和感

 本章の内容は、「年寄りの戯言」として読み飛ばして欲しい。

 僕らの世代から見れば、昨今のバイクの進歩…というよりも変貌は目を見張るばかりだ。最大の変化はと言えば、バイクにもECU(エンジンコントロールユニット)が搭載され始めたことだろう。従来からバイクの整備、チューニングの要(かなめ)であった燃料系、排気系、点火系、駆動系、制動系など走るための全ての機構がコンピュータの制御下に置かれてしまった。今後は、バイクのチューニングも「ECUチューニング」が主流となっていくのだろう。1990年代から4輪車のECU搭載が一般化したが、当時のバイクはまだまだキャブ車が多く、走行系もメカニカルな制御が主流だった。しかし、2000年代の半ば頃から、主に俳ガス規制等の環境問題からバイクはキャブからFI(フューエル・インジェクション)へと変わっていった。キャブ車が消えてFIへの移行が一気に進んだ頃、バイクもいずれはECUによる制御が主流になると予想はしていた。しかし現実にECU搭載バイクが増えてくると、何だか寂しい気持ちになってくる。はっきり言って、ECU搭載バイクなんて面白くもなんともない。

 FIはつまらない。環境面でのメリットはよくわかるし、欧米の排ガス規制強化の動向から見て、もう二度とキャブ車時代が復活しないであろうことも十分理解している。でもつまらない。キャブ車なら、ダイレクトにアクセルでスロットルを開けた感覚が伝わってくる。当然ながらエンジンの調子を把握しやすい。そして、整備もしやすいし、チューンなど手を加えやすい。

 さらに、FI化に伴って一般化したフライ・バイ・ワイヤ(スロットル・バイ・ワイヤ)が気に入らない。バイクの運転は、アクセルグリップを回すことでワイヤーを引っ張ってスロットルを開け、それに応じてエンジンの回転数が上がり、その力がタイヤを通して路面に伝わる感覚を感じながら走る…からこそ楽しいのだ。

 キャブ車では、アクセルグリップを回すと中のワイヤーが引っ張られてスロットルバルブが開く。それによってエンジンに送り込まれる混合気が増加してエンジンの回転数が上がる。しかしフライ・バイ・ワイヤでは、アクセルはスロットルバルブに機械的にはつながっていない。アクセル開度を電気信号に変換してECUに送り、ECUがその他の情報を加味してアクセル開度を決定し、モーターに指示を送ってスロットルバルブを開閉する。これでは何だか、自分の意思でアクセルをコントロールしている気がしない。実際にフライ・バイ・ワイヤのバイクに乗ってみたことがあるが、アクセルグリップでワイヤーを引っ張っている感覚、つまり「抵抗感」が全くなく、あれはただの「ダイヤルスイッチ」だ。そしていちばん違和感があるのは、キャブ車のワイヤーにある「遊び」の部分がうまく感じられないことだ。

 普通、バイクのアクセルグリップを回すと、最初は軽くてそのあとに徐々に重い手応えを感じるようになっている。最初の軽い部分が「遊び」だ。これは、クラッチワイヤーと同様に、常に引っ張られた状態にならないようにワイヤーを少し緩めてあるために生じるものだ。「遊び」の分は、アクセルグリップを回してもエンジンは反応しない。そのためこの「遊び」の量を調節することで、ダイレクト感を高めて自分の好みのスロットル感覚を得ることができる。これがいいのだ。

 あくまで個人的な考えだが、バイクというのは、内燃機関を備えた乗り物の中では「いちばん人間の感覚に寄り添った乗り物」だと思っている。要するに、自分にとってバイクは「アナログ」な乗り物であって欲しいのだ。バイクは、単なるコミューターだとは思っていない。単なるコミューターなら、小中排気量バイクなど、すぐにでも全部を電動化すればいい。事実、現在は電動アシスト自転車が原付市場の多くを奪っている。小型・大容量の固体リチウム電池が開発されたら、大排気量車も含めて全てのバイクが電動化する日も近いかもしれない。前書きにも書いたが、2021年に川崎重工が「日本や欧米などで販売するバイクの主要機種を2035年までに全て電動化する」と発表した。世界的に進む様々な環境規制、特にユーロ4、ユーロ5と進んできた欧州の環境規制の進展状況を見ていると、ホンダ技研やヤマハ発動機、鈴木自動車などのメーカーも、最終的にはこうした方針に追随せざるを得ないだろう。

 そしてバイクは、「乗りやすければよい」というものではない。「乗りにくさ」を何とかするところが面白い。控えめなエンジン出力、フラットなエンジン特性を持つバイクばかりになったら面白くもなんともない。

 バイクは安全性を高めるためなら何をやってもよい…とも思っていない。一例として、2輪であるバイクは運転をミスれば簡単に転倒する。転倒を避けるために2輪ではなく3輪にすればよい…という考えは成立しないはずだ。

 そんな自分は、ABS(アンチロック・ブレーキシステム)も好きではない。ABS搭載車と非搭載車では安全性と制動距離に圧倒な差があることは、重々承知している。「安全」を考えれば絶対に搭載すべき機構だと十分に理解している。濡れた路面上でのブレーキング制動距離が、ABS搭載車と非搭載車で圧倒的な差があり、転倒を防ぐなどの安全面でも圧倒的な差があることはデータ上でも明らかだ。安全性の面から重要な装備だし、あった方が絶対にいいとは思うけど、個人的にはABSが効いた状態での運転感覚は嫌いだ。けっして自分のブレーキコントロールの腕を過信しているわけではない。少なくともABS搭載車にはスイッチでABS機能をキャンセルできる機構を付けて欲しい。
 CBS(コンバインド・ブレーキシステム)も嫌いだ。バイクが勝手に前後ブレーキの制動力を最適なバランスに自動調整する…なんて、前後のブレーキを使い分けることこそが「走行をうまくコントロールするための基本技術」と思っていた僕の世代にとっては、悪夢に等しい。

 ところが2018年10月1日から、バイクにも新車販売時にABSの搭載が義務化されてしまった。具体的には126cc以上の大型/普通自動二輪車にABSの搭載が、51~125cc以下の原付二種にはABSまたはCBSの搭載が必須となった。さらに、スイッチでABS機能をキャンセルできる機構を付けることも禁じられた。継続生産されている車両や輸入車についても、2021年10月1日からABS、CBS搭載が義務化された。

 そういえば、生産中止が話題となったヤマハのSR400が最後までABS非搭載を貫き、その点を評価して駆け込み購入するライダーが相次いだ。これは、僕のようにABSに頼らない運転を是とするライダーがかなり存在することを物語る。

 繰り返すが、バイクのFI化やECU搭載、そしてABS搭載が悪いことだとはけっして思っていない。環境に良いこと、安全性を高めることは、乗り物として当然の方向だということは十分に理解している。

 しかし自分は年を取った。孫がいる世代だ。もうバイクを運転することはほとんどないし、事実上ライダーを卒業している。でも、仮に今再度バイクに乗るなら、絶対にFI車には乗らない。中古でも海外生産車でも何でもいいからキャブ車を探して乗るだろう。幸いなことに、本稿を書いている2021年時点では、日本メーカーも東南アジアや南米などでシンプルなキャブ車を生産している。ABS搭載車に乗るのもゴメンだ。ブレーキは、自分でコントロールしたい。

 埒もない話を書いたが、いずれにしても現在の「ユーロ5+令和2年排出ガス規制」の下では、排気ガス規制はむろん、灯火類やABS標準装備の規制、OBDステージ2(高度な車載式故障診断システム)搭載の義務化によって、SR400のようなロングセラーの名車が消えていっている。2024年には、さらに厳しい規制となるユーロ6が実施されるだろう。そして近い将来、ガソリン内燃機関そのものが消滅する。そんな状況の中で「FI車に乗りたくない」とか「ABSが嫌い」だとか、こんな話をしていても全く意味がないのだけれど…

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