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原付ライダー青春グラフィティ (14)

14.小排気量バイクの楽しみ

 僕は50年間近いバイクライフの中で、排気量やタイプを問わず数多くの多種多様なバイクに乗ってきたが、中でも特に小排気量のバイクが大好きだ。具体的には125cc以下の原付第一種、第二種のバイク、中でも50cc~90ccの2スト(2サイクル)のバイクが大好きなのである。

 小排気量のバイクは、日常生活の中でその性能をめいっぱい発揮することができる。考えるまでもなく、750ccに代表される大型バイクは、フルに性能を引き出して走る場所がない。

 大排気量車、特に高馬力のスーパースポーツは、確かに高速道路を延々と走るには非常に楽だが、自分は楽をしたくてバイクに乗っているわけじゃない。パワーに余裕のある大排気量車で100km/h前後で高速道路を1~2時間も連続して走っていると楽過ぎて眠くなる。トップギヤのままでアクセルを開けるだけで80km/hから120km/hあたりまでスムーズに加速するので、いちいちギヤをダウンしなくても簡単に追い越しができる。後に一時期乗っていたGSX-R750(1985年当時750ccクラスでは最軽量・最大馬力だった)で東京から神戸まで一気に高速を走ったことがある。コンスタントに100~120km/hで走ったが、あまりにも退屈でひたすら眠気との戦いだった。同じロングツーリングをするなら、250ccぐらいのバイクで高速と一般道を適宜使い分けて走った方が楽しい。例えば岩手、青森あたりを目的にした東北ツーリングに行く場合、とりあえず首都圏を抜けるために仙台あたりまでは高速を走り、後は一般道路で4号線なり45号線をいろいろと寄り道しながら北上する方が絶対に楽しい。高速道路を200k~300km程度走るだけなら、別に250ccぐらいの軽量バイクで十分だし、特に疲れることもない。

 そして、個人的には高速道路を走っても退屈なだけだし、できれば一般道だけでツーリングをしたい。そうなると、バイクは250cc車すらいらない。僕は、交通状況や路面状態、季節や天候、そして乗る車種などにもよるが、1日の走行距離が300kmぐらいまでなら125ccのバイクで何の問題もない。これを数日間連続で行っても構わない。諸々の条件が良ければ、125cc車で1日500kmでも快適に走れる。まあ、これは個人差もあるから力説するような話じゃないけれど…。

 まえがきで、「小排気量車よりも大排気量車に乗る方が高度な運転技術や整備知識を必要とする…というわけでもない」と書いたが、実際に公道では、小排気量車を運転する方が大排気量車を運転するよりも高度な運転技術を必要とするケースが多い。

 小排気量のエンジンは、一般的にパワーバンドが狭い。特に2ストの高馬力エンジン、5速以上のミッションを持つスポーツバイクで、その加速性能を十分に引き出すためには、タイミングのよい頻繁なシフト操作が必須だ。シフトタイミングが狂えば、スムーズな加減速と俊敏な走りは望めない。バイクは排気量が大きくなるにつれて、「横着な運転」できてしまうのだ。

 小排気量のバイクは、一般的に構造がシンプルだ。エンジン、吸排気系、駆動系、電装系など細かい部分まで自分で調整し手を加えることがたやすい。エンジンや吸排気系、駆動機構、車体周りの好不調を肌で感じることができる。

 そしてこれが非常に重要なことなのだが、小排気量のバイクは周囲に与える威圧感が少ない。ツーリングで見知らぬ土地を訪れ、道端に駐車しても、さりげなく風景に溶け込むことができる。

 小排気量のバイクは、性能をめいっぱい引き出さなければ、スムーズに走れない。だからこそ「乗り物をコントロールしている」という実感を味わいながら走ることができる。例えば5速ミッションを持つ高性能原付スポーツバイクで、街中や郊外道路をトップギアで40Km/h前後で走っているとすると、そこから変速せずにアクセルを開けても加速は非常に鈍い。緊急時に加速するためには、最低でもギアを1段落とすか、下手をするとギアを3速まで、つまり2段落とさなければ俊敏な加速は望めない。原付バイクでゴーストップ、加減速の多い街中をスムーズかつ俊敏に走行するためには、エンジン特性とパワーバンド、各ギアの変速比を体で覚え、自分の手足のようにシフト操作を行う必要がある。

 原付スポーツバイクでタイトなコーナーが続くワインディングロードなどを50km/h前後でレスポンスよく走り続けるためには、トップギアで走行中にコーナー直前でブレーキングして30Km/hに落としたら、ギアを場合によっては2速まで落とし、立ち上がりにフルスロットルにしながらギアを3速、4速と上げていくという操作を繰り返す必要がある。

 例えば、1970年代によく走りに行った奥多摩有料道路(現在の奥多摩周遊道路:昔は有料だった)、AR80を自慢したくてよく走りに行った。ミニながら100km/hは楽に出る代物だ。それで中・大型バイクを追っかけ回すのが楽しかった。あそこの登りぐらいのRと勾配の連続なら、そのAR80は50~70km/hぐらいで一気に走り抜けることができる。ただし、一瞬でもパワーバンドから外れたら終わりだ。コーナーの手前で減速してシフトダウン、フルスロットルのままでシフトアップを繰り返し、少しでもタイミングがずれたら一気に減速して置いていかれてしまう。そんな走りをするのが楽しかった。ハイパワーでピーキーでクロスミッションを搭載した小排気量2ストスポーツバイクを走らせる醍醐味である。

 ああ、こんな話はけっして自慢話じゃないんだ。実際に僕はミニバイクレースでもほとんど決勝に残れなかったし、レースの才能はない。むろん、人よりもバイクの運転が上手いとも思ってはいない。事実。そのAR80改ではコーナーで無理して何度もコケた。でも、そんな走りをするのがともかく面白かった時代があった。

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