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原付ライダー青春グラフィティ (16)

16.消えた50ccと黄色ナンバー

 国内の二輪車の市場は1982~1983年のピーク時と較べて大きく縮小した。1982年の国内二輪車の販売台数は328万5000台、これが2015年に40万台を切った。2019年には36万2千台と十分の一以下になっている。排気量別では、原付第一種が13万2千台、原付第二種は10万5千台、軽二輪車は5万8千台、小型二輪車は6万6千台だ。原付第二種以上(51cc以上)は23万台となっている。

 ところが2020年以降、二輪車の販売が少し持ち直している。市場をけん引しているのは原付第二種、つまり50cc超過125cc以下のバイクだ。前にも書いたので繰り返しになるが、免許制度の改正が追い風になった。現在、教習所へ行けば、小型二輪免許は最短3日、AT限定小型二輪免許は最短2日(普通自動車免許を所有している場合)で取得できる。そこへホンダが、AT限定小型二輪免許で乗れるスーパーカブを125cc化し、さらに125ccのハンターカブを市場に投入した。従来から販売していた110ccのクロスカブも人気だ。またコロナ禍の中、混雑した公共交通機関で通勤したくない人たちが増え、スクーター需要も増加した。

 しかしこんな状況の中でも、原付第一種、いわゆる「50ccの原チャリ」の販売は全く伸びない。伸びないのは当然で、現在原付第一種は販売車種が極めて少ない。スクーターが数種、実用車が数種販売されているだけで、スポーツバイクやレジャーバイクの新車販売はゼロだ。各メーカーは50ccを開発する気もないし売る気もない。ホンダもヤマハもスズキも、50ccのスポーツバイクは販売していない。1970年代後半から1980年代前半にかけて、50ccのバイクは常に50種以上がラインアップされ、年間200万台近くも売れていたというのに…。

 そして、実はもっと強調したいのは、いわゆる「黄色ナンバー」の新車が国内市場から事実上消えたことの寂しさだ。黄色ナンバーとは、原付第二種の中で「51cc〜90cc以下」のバイクを指す。1970年代後半から1980年代前半にかけてはロードスポーツはむろん、オフロードからトライアル、レジャーバイクから実用車まで、30種類以上の黄色ナンバーのバイクが常にラインアップされていた。80~90ccという排気量は、当たり前だが原付一種と比べてワンランク高性能のバイクが多い。2スト固有の「大きい中低速トルク」という特性を50cc車よりも活かしやすいので、多様なコンセプトのバイクを設計できる。

 例えば、トライアル車で河川敷コースで遊んでいた頃、50ccのTY50ではまともにコースがクリアできないが、これを80ccにボアアップするだけで、瞬発力がアップしてクリアできる範囲が大きく広がったのだ。

 50cc~90ccの原付バイク、特にこのクラスのスポーツバイクが事実上市場から消えたのには、むろん理由がある。「まえがき」で書いたように、世界的な排ガス規制は排気量が小さいほど技術的に達成が厳しい。50cだけでなく、90cc以下のクラスも排ガス規制をクリアするために経営資源、技術資源を投入すると、販売台数が開発コストに見合わないので元がとれないのだ。黄色ナンバークラスのバイクも市場から消えつつあるのは、基本的に原付一種50ccバイクが消えつつあるのと同じ理由だ。

 さらに、度重なる免許制度と道交法の改正、ヘルメット着用義務化、悪名高き「3ない運動」、路上駐車取り締まり強化、騒音規制、馬力制限や排気ガス規制による高性能車の追放などによって、乗り物としての魅力がなくなったのだろう。さらに、モータリゼーションの黎明期だった1970~80年代に必要とされた「安価で手軽な足替わりの乗り物」が、モータリゼーションの成熟と社会構造の変化によって必要とされなくなったことも大きい。近年では、原付バイクは日常の近距離移動手段としては電動アシスト付き自転車と競合するようになっている。また、50ccという原付第一種の規格は、販売対象がほぼ国内市場のみという「ガラパゴス車種」だ。これは法令に問題があるのだが、いずれにせよグローバル展開によるスケールメリットを活かせないため、メーカーにとってはお荷物になっている。

 要するに実用車やスクーターも含む50ccバイク、そして黄色ナンバーのバイクは日本国内において「歴史的使命を終えた」のだと言える。

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